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レバノン政府、米スターリンクにライセンス付与

スターリンク(Starlink)はマスク氏率いるスペースX社が運営する衛星インターネット網であり、数千機規模の小型人工衛星を低軌道に配置することで、地球上のほぼ全域に高速通信を提供することを目的としている。
宇宙開発企業スペースXが提供する衛星インターネットサービス「スターリンク」のロゴとマスク氏(Getty Images)

レバノン政府が米宇宙開発企業スペースXが提供する衛星インターネットサービス「スターリンク」に対し、同国でインターネットサービスを提供するためのライセンスを付与した。国営メディアが11日に報じた。

それによると、スターリンク社はレバノンに「スターリンク・レバノン」を設立。政府と約6ヵ月の交渉を経て、このライセンスを取得したという。

このサービスへのアクセスは企業に限定される予定だ。

レバノンはインターネットの通信速度が最も遅い国の一つに数えられており、これまでインターネットアクセスは国営プロバイダーとその関連会社によって独占的に運営されており、これらの企業はスターリンクへのライセンス付与を政府に働きかけてきた。

国営メディアは「政府はスペースXが運営する衛星を通じてレバノン全土にインターネット配信サービスを提供するためのライセンスをスターリンク・レバノンに付与することを承認した」と報じている。

スターリンク(Starlink)はマスク(Elon Musk)氏率いるスペースX社が運営する衛星インターネット網であり、数千機規模の小型人工衛星を低軌道に配置することで、地球上のほぼ全域に高速通信を提供することを目的としている。従来の衛星通信は高度が高く、通信の遅延やコストの高さが課題であったが、スターリンクは高度550キロメートル前後の低軌道に衛星を展開することで、光ファイバー並みに近い低遅延を実現している。これにより、地理的条件やインフラ整備の遅れに左右されず、遠隔地や山間部、海上などでも安定したインターネット利用が可能となる。

スペースXは2019年に最初の衛星を打ち上げて以降、急速にネットワークを拡大し、2025年時点で稼働中の衛星は5000機を超えるとされる。利用者は専用アンテナとルーターを設置することで接続可能であり、家庭用だけでなく、航空機・船舶・軍事利用にも広がっている。特にウクライナ戦争では通信インフラが破壊された地域でスターリンクが重要な役割を果たし、軍事・民間双方の通信手段として注目を集めた。この事例は、商業的サービスが安全保障の領域に直接関与する新しい形を示している。

スターリンクの経済的意義も大きい。通信インフラ整備が困難な新興国や途上国において、教育・医療・ビジネスのデジタル化を推進する潜在力を持つ。また、災害時に地上の通信網が寸断されても、衛星経由で通信を維持できるため、危機対応のインフラとしても期待されている。一方で、通信料金は依然として高額であり、発展途上地域で普及を進める上では価格面の課題が残る。

同時に懸念も少なくない。まず、数千機規模の衛星打ち上げは宇宙ごみの増加や衝突リスクを高め、国際的な宇宙利用の安全性に影響を与えている。また、天文学者からは衛星が光を反射し、観測データに悪影響を与えるとの批判が寄せられている。さらに、スターリンクの普及が特定の民間企業による宇宙通信の独占につながり、国家の通信主権や規制のあり方を揺るがす可能性も指摘されている。

スターリンクは通信技術と宇宙利用を融合させた革新的事業であり、地球規模でのインターネット格差を解消する大きな可能性を秘めている。しかし、その急速な拡大は環境・安全保障・規制面で新たな課題を生んでおり、今後は国際的なルール整備と技術的改善を両立させることが不可欠となる。

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