◎首相に就任したナジブ・ミカティ氏は世界最悪の経済危機を制御し、1年以上続いた政治の停滞を打破すると約束した。
9月10日、レバノンで新政権が発足し、首相に就任したナジブ・ミカティ氏は世界最悪の経済危機を制御し、1年以上続いた政治の停滞を打破すると約束した。
ミカティ首相と24人の大臣は、国際機関の支援を得るという最優先課題の達成に向け努力すると期待されている。
2019年に発生した経済危機は、過去150年の中で世界最悪のひとつと見なされている。危機発生からわずか数カ月で国民の半数以上が貧困ラインに到達し、通貨の価値は自由落下し、ハイパーインフレと失業を前例のないレベルに押し上げた。
国連や他の調査機関によると、レバノンの人口の推定75%が現在貧困ライン以下での生活を余儀なくされているという。
レバノンの外貨準備は危険なほど少なくなっており、中央銀行は60億ドル(約6,600億円)の補助金プログラムの再開は難しいと述べた。しかし、新政府は中央銀行の会計監査を監督し、国際通貨基金(IMF)との交渉を再開できると信じられている。
一方、国民は経済危機を「人災」と呼び、腐敗しきった国の政治システムを非難し、イランの支援を受けるイスラム過激派組織ヒズボラの管理下に置かれている新政権が危機を打破できると思ってる人はほとんどいない。
前政権を率いたハッサン・ディアブ首相は昨年8月に発生したベイルート港の爆発の責任を取って辞任したが、ヒズボラの指導部は暫定政権の発足を承認せず、ディアブ首相に指揮を執り続けるよう命じた。
ベイルートに本拠を置くカーネギー中東センターのマハ・ヤヒヤ所長は新政権について、「以前と何も変わっていない」と述べた。「これがレバノンの政治です。内閣はヒズボラの指導者が指名しました。有能な者もいるでしょう。しかし、国の意思決定機関はヒズボラのままであり、政府ではありません」
フォーブス紙によると、ヒズボラと密接に連携しているミカティ首相はレバノンで最も裕福な政治家のひとりであり、2021年の個人資産は約25億ドル(2,700億円)と推定されている。
ミカティ首相は住宅ローンや国営電気通信事業に関連する汚職事件で起訴されているが、2014年以来3度目となる首相就任に強い意欲を示していた。
ミカティ首相は10日の演説で涙をこらえながら国の危機を救うと誓った。「母親は子供を養えず、薬を買う余裕もありません。学生は学校に通えず途方に暮れています...私たちは国民が望む新しいレバノンを目指し、進行中の崩壊を止めるために全力を尽くします」
米国務省の高官は今月初めにミカティ氏とミシェル・アウン大統領とオンラインで会談し、新政権の発足を促していた。また、フランスのエマニュエル・マクロン大統領はイランのエブラヒーム・ライシ大統領との電話会談の中で、「レバノンの強力な政府」の形成を支持すると述べた。
レバノンの政治アナリスト、セーラム・ザハラ氏は、「アメリカとフランスはどちらもレバノンの窮状を認識し、新政権を発足すれば支援を得られると関係者に促した」と説明した。
閣僚の多くはその分野の専門家で構成されている。コロナウイルスへの対応で称賛されたラフィークハリリ大学病院のフィラス・アビアド局長は保健大臣に任命された。中央銀行の最高幹部であるユセフ・カリル氏は財務大臣、裁判官のバッサム・マウラウィー氏は内務大臣に就任した。
しかし、国民は新政権を疑いの目で見ている。
発電機を販売しているアリ・シャラフェディン氏はAP通信の取材に対し、「新政権はレバノンを台無しにしたヒズボラが形成した前政権と同じです」と述べた。「彼らは国民をだましています」
レバノンの政治は1989年の内戦終結以来、多くの宗派のバランスを取るように設計されており、大統領はキリスト教徒、首相はスンニ派イスラム教徒、議会議長はシーア派イスラム教徒が務めることになっている。