レバノン、経済危機による損失対策法案を推進
この法案は「財政ギャップ法」と呼ばれ、国家、中央銀行、商業銀行および預金者の間で巨額の損失を分担し、預金者が凍結された貯蓄へ段階的にアクセスできるようにすることを目的としている。
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レバノン政府は12月26日、2019年に始まった経済危機への対応として策定した法案を閣議決定した。この法案は「財政ギャップ法」と呼ばれ、国家、中央銀行、商業銀行および預金者の間で巨額の損失を分担し、預金者が凍結された貯蓄へ段階的にアクセスできるようにすることを目的としている。法案は国際通貨基金(IMF)からの支援を受けるために不可欠な改革措置の一部である。政府は2022年時点で損失額を約700億ドル(約11兆円)と推定しているが、この数値は現在さらに増加した可能性がある。
閣議での採決は賛成13、反対9となった。政治的に分裂した閣僚陣営の間では激しい意見対立があり、法案審議中には政府本部前で数十人の市民が「預金者の権利を守れ」と抗議活動を行った。また、レバノン銀行協会は法案に反対の立場を示し、商業銀行への負担が大きすぎると批判している。
サラム(Nawaf Salam)首相は記者団に対し、この法案は「現実的な一歩」であり、国内の銀行システムへの信頼を回復するとともに、湾岸諸国などからの投資を呼び込む助けになるとの認識を示した。また「今回の法案には責任ある枠組みが含まれている」と述べ、改革の重要性を強調した。
法案の主な内容としては、預金額が10万ドル未満の預金者を対象に、4年かけて全額償還するための段階的支払いを行う計画が含まれている。このカテゴリーは預金者の約85%に相当するとされ、小額預金者の保護が重視されている。大口預金者には資産担保証券の形で償還を進める案が検討されているが、その条件や期間については議論が残されている。
法案は閣議を通過したものの、分断の激しい国会での審議と承認が必要であり、修正の可能性も残る。政治勢力ごとに立場が分かれており、特に預金者や銀行関係者の不満は根強い。また、法案が実際に経済危機を解決できるかについては専門家の間でも意見が分かれている。法案の曖昧な部分や責任の所在が明確でないという批判もあり、成立後の運用に課題があるとの指摘が出ている。
この法案はレバノンがIMFとの支援合意を実行に移し、国際金融支援への道を開くための重要な試金石となる。レバノン政府はこれまで政治的・経済的利害が絡み合い改革が繰り返し頓挫してきたが、サラム氏とアウン(Joseph Aoun)大統領は改革推進に強い意欲を示している。しかし、今後の国会での承認、預金者への償還実行、そして改革が経済回復につながるかは不透明な状況であり、市民生活への影響も大きい。
