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イスラエル軍のレーザー兵器「アイアンビーム」とは

アイアンビームは従来のミサイル迎撃システムが抱える「コスト」「弾薬補給」「対応速度」などの問題点をレーザー技術で補おうという画期的なシステムである。
イスラエルのレーザー兵器アイアンビーム(Rafael Advanced Defense Systems/ロイター通信)

イスラエル国防省は17日、高性能レーザー兵器「アイアンビーム(Iron Beam)」の開発を完了したと明らかにした。

同省は声明で、この開発発表とともに、防空システムを強化するため年内に運用を開始する方針を示した。

ここでは公開されている範囲での性能、目的、課題などを整理する。

概要
  • 開発主体:ラファエル(Rafael Advanced Defense Systems)およびエルビット・システムズ(Elbit Systems)、イスラエル防衛省研究開発部門(DDR&D)など。

  • 目的:迫撃砲(モーター)、ロケット、砲弾、小型無人機(ドローン)、さらには巡航ミサイルなどの比較的短距離/短時間の空中脅威を迎撃すること。既存のミサイル迎撃システム(アイアンドームなど)の補完を意図している。


性能と技術的特徴
項目公表情報
出力約100キロワット級の高出力レーザー。
有効射程数百メートルから数キロメートル程度。一般に「数キロメートル」という表現が多い。最大で約7km 程度という見通しもある。
迎撃対象短距離のロケット、迫撃砲弾、無人機(UAV)、砲弾(小口径)など。巡航ミサイル・対戦車ミサイルへの対応可能性も示唆されているが、主な設計対象はより軽微/短距離の脅威。
応答速度レーザーであるため「光速」に近く、着弾・命中までの時間が非常に短い。高速の脅威に対しても比較的迅速に対応できることが期待されている。
コスト発射あたりのコストが非常に低いことが大きな利点。ミサイル迎撃ミサイルなどと比べて、従来の迎撃手段のコストを大きく削減できる。公式には “ほぼゼロに近い” とされる、または “数ドル〜数十ドル程度” とする報道もある。
弾薬の制限レーザーなので弾薬という物理的ミサイルは不要。「無限マガジン」とされ、電力供給があれば連続使用が可能という性質。

配備時期・テスト状況
  • データによると、最終段階のテストが完了しており、2025年末までにイスラエル国防軍(IDF)の防空ネットワークの一部として運用開始する見込み。

  • 契約金額や生産拡大のための予算も確保されており、ラファエルおよびエルビットに対して大きな投資がなされている。

  • テストでは、イスラエル南部などでロケット・モーター・無人機など多様な脅威を対象にした迎撃シナリオが実施されており、性能検証が進んでいる。


長所・利点
  1. 低コスト
    ミサイル迎撃のための迎撃弾は一発あたり数万ドル〜数十万ドルかかるが、レーザーは電力とシステム運用コスト以外に大きな変動コストがない。複数の報道で1回の迎撃が数ドル〜数十ドル程度という見積もりが出ている。

  2. 応答速度・持続性
    光の速度でビームが飛ぶため、ミサイルやモーターが発射されてから迎撃までの時間が短く、連続的に照射できる。弾薬再装填の必要がないため、複数の脅威が短時間に来た場合の対処能力が比較的高い。

  3. 被害抑制
    迎撃時に爆発を伴うミサイル型迎撃弾とは異なり、迎撃対象をレーザーで焼き払う形になるため、迎撃後の破片や二次被害が比較的小さくなる可能性がある。

  4. 既存防空システムとの統合
    アイアンドームなど既存のレーダー・指揮統制体制と統合することが想定されており、多層防衛の補完層として機能する設計。中〜長距離の脅威、あるいは複雑な複数脅威には他のシステムを使い、短距離・小型のものにはアイアンビームという使い分けをする。


課題・制限
  • 気象条件の影響:雲、雨、霧、塵煙などでレーザー光が散乱・減衰するため、視界や大気の状態が悪いと性能が低下する。

  • 射程の限界:数キロメートル程度までの脅威に対して有効とされているが、より遠距離のミサイルや高速の巡航ミサイルなどに対しては、光の減衰・追尾保持時間などの制約が出る。

  • 消費電力・インフラ:高出力レーザーを長時間運用するには電力源、冷却装置、安定したプラットフォームなどが必要。運用コスト・設置場所が限定される可能性がある。

  • 多量迎撃の対応:同時に多数の攻撃を受けるような“飽和攻撃”(大量のロケットやドローンの群れによる攻撃)では、追尾・焦点維持・システム切り替えなどで制約が出る可能性。レーダー・追尾システムの性能、レーザーの照射時間、対象の挙動(高速・回転など)に左右される。

  • 運用実績の限られさ:公表されているテストは成功例があるが、完全な戦闘環境での長期運用のデータはまだ限定的である。2025年末から運用開始予定という段階。


現在の状況と展望
  • 運用開始時期:2025年末までに正式運用化する見込み。既に最終テストを終え、IDFの防空ネットワークへの統合準備が進んでいる。

  • 生産体制の拡大:契約や予算が確保され、生産能力を上げようとしている。

  • 運用形態:地上配備が主だが、将来的な移動可能型や航空機搭載型も検討されているという報道がある。


結論

アイアンビームは従来のミサイル迎撃システムが抱える「コスト」「弾薬補給」「対応速度」などの問題点をレーザー技術で補おうという画期的なシステムである。既存のアイアンドームなどのシステムを置き換えるのではなく、「補完」し、多層防衛体制の中での短距離・小型・多数・低コストの脅威に対する最前線の防御手段として期待されている。

ただし、気象条件や光学的制限、電力・冷却・インフラの必要性、また完全な戦闘環境での実績の少なさなど、現実運用での課題は残っている。運用が始まる2025年以降に、どの程度の信頼性を発揮できるかが注目点である。

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