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イラク、クルド産石油のトルコへの輸出再開、2年半ぶり

イラク・トルコ間パイプラインは2023年3月以来停止。今回の再開で1日当たり約23万バレルの輸出が見込まれる。
イラク北部、クルド地域政府(KRG)が管理する製油所(ロイター通信)

イラク北部のクルド地域政府(KRG)からトルコへの石油輸出が再開された。イラク石油省が27日に確認した。

同省によると、クルド・トルコパイプラインは現地時間午前6時に運用を再開したという。

同省は声明で、「操業は迅速かつ円滑に開始され、問題は発生していない」と述べた。

イラク・トルコ間パイプラインは2023年3月以来停止。今回の再開で1日当たり約23万バレルの輸出が見込まれる。

KRGはイラク連邦内の自治政府として一定の政治的・経済的独立性を持つ。特に石油資源の開発と輸出はKRG経済の中心であり、地域の安定と発展に欠かせない要素となっている。しかし、この石油資源を巡ってはイラク中央政府との間で深刻な対立が続いている。

KRGの管轄地域は、イラク国内でも豊富な石油埋蔵量を誇る。主要な油田はエルビル、スレイマニヤ、ドホーク周辺に集中しており、これらの油田から産出される石油は地域の財政収入の大部分を占める。KRGは独自に外国の石油企業と契約を結び、石油開発や生産を進めてきた。例えば、米国やイギリスの企業が現地での採掘事業に参加し、生産能力の増強に貢献している。

石油の輸出は主にトルコ経由のパイプラインを通じて行われている。ジェイハン港へとつながるこの輸出ルートは、KRGにとってイラク中央政府を経由しない重要な出口である。2000年代中盤以降、KRGはこのルートを使い、独自の石油輸出を拡大してきた。しかし、中央政府は憲法に基づき石油資源の管理権を中央政府に帰属させており、KRGの独自輸出を違法と主張。これにより中央政府との収益分配や輸出権を巡る紛争が頻発している。

2014年にイスラム国(ISIS)がイラク北部で台頭した際、中央政府の支配力が一時的に弱まったことを受け、KRGはさらに独自の石油政策を強化した。2017年には独立を問う住民投票を実施し、中央政府との関係は一層緊張した。中央政府は輸出ルートの封鎖や税収分配の停止を通じてKRGに圧力をかけたが、KRGはトルコとの協力関係を強化し、輸出の多角化を図っている。

経済的には、石油収入はKRGの財政基盤の核であり、公共サービスやクルド武装組織の維持、インフラ整備、難民支援など多くの政策資金の原資となっている。しかし、価格変動や輸出の不安定さ、政治的対立により、財政はしばしば不安定化するリスクに直面している。パイプラインの老朽化や安全保障上の課題もインフラの脆弱性を高めている。

また、国際社会の対応も複雑だ。多くの国際石油企業はKRGとの契約を結ぶ一方で、中央政府の主権も尊重しているため、KRGの石油開発は国際法的・政治的な緊張を伴う。欧米諸国はイラクの統一と安定を重視しつつ、エネルギー安全保障の観点からKRGとの協力も維持している。トルコはKRGの主要な輸出ルートを保持し、経済的・政治的に深い関係を築いている。

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