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イラン南部で物価高に抗議するデモ続く、政府庁舎への侵入未遂も

この抗議は物価高騰と生活費の負担増を背景に発生したもので、地方政府施設への侵入は治安当局との衝突の激化を示す象徴的な出来事となっている。
2022年9月19日/イラン、首都テヘラン近郊、道徳警察の暴力的な取り締まりに抗議するデモ(AP通信)

イラン南部で物価の高騰や通貨安に抗議するデモが4日目を迎える中、住民らが地方政府庁舎に侵入を試みる事件が発生した。国営メディアが25年12月31日に報じた。この抗議は物価高騰と生活費の負担増を背景に発生したもので、地方政府施設への侵入は治安当局との衝突の激化を示す象徴的な出来事となっている。

国営イラン通信(IRNA)によると、南部ファールス州のデモ参加者が政府庁舎に向かい、正門をこじ開けて侵入しようとしたが、事前に配置された治安部隊が介入、阻止したという。抗議の先導役とみられる28歳の女性を含む4人が拘束され、治安部隊の3人が負傷したとされる。

またIRNAは現場の映像として、人々が建物のゲートをこじ開けようとする様子を伝えた。いつ撮影されたかは分かっていない。

当局側は今回の抗議がインフレや経済状況の悪化によって引き起こされたもので、「敵対的な団体やメディアに影響された個人」が参加しているとの見解を示しつつ、「状況は正常に戻っている」としている。過去にもイランでは物価上昇、干ばつ、女性の権利、政治的自由を求めるデモが発生しており、これらには強硬な治安対応や多数の逮捕が伴ってきた。

この抗議は物価高と通貨の急落に対する不満が火種となっている。イランの通貨リヤルは2025年に米ドルに対して価値を大幅に下落させ、12月にはインフレ率が40%を超える水準に達したとの報告もある。これにより、食料品や生活必需品の価格が急騰し、一般市民の生活は一段と圧迫されている。また、2018年の米国による核合意離脱後に制裁が再強化されたことや、9月に国連制裁が再適用された経済的な逆風がさらなる打撃となっている。

デモは当初、首都テヘランの商店主らが中心となって12月29日に始まり、翌日にはテヘランの複数の大学にまで広がった。学生らの参加は抗議の広がりを象徴しており、各地で不満が爆発していることを示している。市民の間では物価上昇への不満に加え、政治体制への不信が根強く存在するとの指摘もある。

これまでの抗議行動に対して、当局は対話の姿勢を示す異例の対応も見せている。政府はデモ指導者との対話の枠組みを設ける方針を発表しているが、その具体的な運用方法や対象については明らかにしていない。これは最近のイスラエルや米国による攻撃を受けて国民の愛国心が高まったことなどを背景とするもので、単なる経済問題にとどまらない複雑な国内情勢の反映でもあるとの見方がある。

イランの経済は長年にわたり厳しい情勢が続いており、生活費の高騰が貧困層を直撃している。抗議活動は生活苦への不満から始まったものの、その規模と強さは現政権に対する国民の根深い不満を浮き彫りにしている。

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