イラン外相「IAEA査察再開にはさらなる協議が必要」
イラン核合意再開に向けた協議は、核活動制限と制裁解除の調整、地域安全保障リスクの管理、国内政治の制約、監視・検証体制の確立という複数の課題を抱えている。
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イランのアラグチ(Abbas Araghchi)外相は10日、同国と国際原子力機関(IAEA)が核関連施設の査察再開で合意したことについて、「さらなる協議が必要である」と明らかにした。
アラグチ氏とIAEAのグロッシ(Rafael Mariano Grossi)事務局長は9日、エジプト・カイロで会談し、イスラエルによる6月の核施設への攻撃で中断された査察の全面再開に向けた道筋を示した。
アラグチ氏は国営イラン通信(IRNA)のインタビューで、「この合意は査察官のイラン核施設へのアクセスを保証するものではなく、査察の実施方法について、さらなる協議を求めている」と語った。
またアラグチ氏は「ブシェール原子力発電所を除き、現時点でIAEA査察官のアクセスを認めていないことを強調する」と述べた。
さらに「イランが今後発表する報告書に基づき、アクセスの性質については適切な時期に協議する必要がある」と付け加えた。
ロイター通信は外交筋の話しとして、「9日の合意の細部には問題がある」と伝えている。IAEAは合意の詳細を明らかにしていない。
イラン核合意(JCPOA)再開に向けた協議は2018年の米国による離脱以降、続けられてきた。
2015年に成立した核合意はイランが核開発を制限する代わりに国際社会が経済制裁を緩和する内容であったが、米国の一方的離脱により制裁が再適用され、イラン経済は深刻な打撃を受けた。
これを背景に欧州諸国や中国、ロシアは協議の再開を促し、2019年以降、ウィーンを中心に核合意復活交渉が断続的に行われてきた。
協議の中心課題はイランの核活動の制限条件と制裁解除のタイミングである。イランは核開発の進展状況や遠心分離機の保有数、核燃料の濃縮度を巡って柔軟な対応を求める一方、米国やEU諸国は制裁解除前に透明性や監視体制の強化を要求している。
この調整が難航する理由として、双方の信頼関係の欠如がある。イラン側は過去の制裁再適用を踏まえ、約束の履行に慎重であり、米国側もイランの核能力拡大リスクを警戒している。
地域安全保障や外交政策も協議に影響する。イランのミサイル開発や中東地域での影響力拡大、イスラエル・サウジアラビアとの緊張関係は核合意の枠組み外での不安材料となる。
これにより、核問題だけではなく、広範な安全保障課題も交渉の障壁となっている。また、国内政治も再開交渉に影響する。イラン国内では強硬派と協調派の対立が続き、米国でも議会や大統領府間で対応方針の差異があるため、合意成立のタイミングが不透明である。
加えて、技術的・検証的課題も存在する。IAEAが行う査察の範囲や頻度、核関連施設へのアクセス条件は合意再開の成否に直結する要素である。イランは国家主権や安全保障を理由に一部制限を求める一方、監視強化がなければ合意の実効性は担保されない。このバランスを如何に調整するかが、交渉の核心となっている。
イラン核合意再開に向けた協議は、核活動制限と制裁解除の調整、地域安全保障リスクの管理、国内政治の制約、監視・検証体制の確立という複数の課題を抱えている。協議の進展には双方の信頼醸成と透明性確保、段階的な措置による妥協点の設定が不可欠であり、合意の実現は中東の安定と国際安全保障に直結する重要な外交課題である。