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イラン政府が燃料価格引き上げ、消費と密輸抑制のため

政府報道官は国営テレビでこの価格体系を明らかにした。救急車など一部の緊急車両は価格改定の対象外となり、タクシー向けの燃料割当ても従来どおり維持される。
2025年12月13日/イラン、首都テヘランのガソリンスタンド(ロイター通信)

イラン政府は13日、燃料消費の抑制と密輸対策を目的としてガソリン価格を改定し、大量使用者向けの価格を引き上げたと発表した。これは国内の燃料需要が高水準で推移し続けていることへの対応策であり、燃料価格の調整は広範な補助金政策への見直しの一環とみられる。

新たな価格体系では、これまで世界でも最低水準に抑えられてきた補助付きのガソリン価格に階層制を導入。一般ユーザーは月間最初の60リットルまで1リットル当たり1万5000リヤル(約55円)、次の100リットルまで3万人リヤル(約111円)で購入できる一方、月間160リットルを超える燃料については新たに5万リヤル(約185円)の価格を適用する。

政府報道官は国営テレビでこの価格体系を明らかにした。救急車など一部の緊急車両は価格改定の対象外となり、タクシー向けの燃料割当ても従来どおり維持される。

今回の措置は国内で燃料価格引き上げが社会不安を引き起こした2019年の出来事を念頭に置いた慎重な対応でもある。当時の価格改定は大規模な抗議行動を誘発し、政府による数多くの鎮圧が行われた経緯があるため、今回の決定は社会的影響を考慮した段階的な措置とみられる。

政府関係者は低廉な燃料価格が長年にわたり国内の消費増大と密輸の温床になってきたと指摘しており、今回の価格改定がこれらの問題に一定の抑制効果をもたらすことを期待している。

イラン国内では燃料の過剰消費や近隣国との価格差を利用した違法な燃料輸出が常態化しており、国内生産を上回る需要が発生しているとの指摘もある。このため政府は補助金制度の見直しを通じて消費行動の変化を促す必要があると判断したようだ。

ただし、今回の価格引き上げが国民生活に与える影響については懸念の声もある。一般家庭や商用車の燃料費負担が増える可能性があり、特に複数台の車両を所有するドライバーや運送業者などへの影響が注目されている。また、燃料価格の上昇がインフレ圧力を高め、既に物価上昇が続く経済状況に追い打ちをかけるとの見方も一部で示されている。

イランは石油輸出国機構(OPEC)加盟国の一つでありながら、燃料の国内価格は長年にわたって大規模な補助金によって抑えられてきた。しかし、国際制裁や経済環境の悪化により補助金負担が国家財政を圧迫し、価格の見直し圧力が高まってきた。政府は段階的な価格調整を進めることで消費の最適化と財政健全化を図る方針だが、今後の経済・社会への波及効果が注目される。

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