2020年、10億ドル以上の興行収入を見込めるハリウッドの大作映画は、作品内に登場するヴィランより説得力のあるコロナウイルスに打ちのめされた。
今年公開する予定だった大作映画(製作費1億ドル以上)の大半が、2021年へのスライドを余儀なくされている。
ダニエル・クレイグ主演の007シリーズ最新作「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(原題:No Time to Die)」の公開日は2020年11月20日から2021年4月2日に再延期された。
ウォルト・ディズニーの大作、「ムーラン」は、劇場公開からストリーミングでの販売に移行した。
ライアン・レイノルズ主演の「フリー・ガイ (原題:Free Guy)」、ケネス・ブラナー監督・主演の「ナイルに死す (原題:Death on the Nile)」は無期限公開延期を決めている。
宇宙崩壊の危機を救ったアベンジャーズのひとり、ブラックウィドウが主演する映画「ブラックウィドウ(原題:black widow)」も、コロナウイルスを打ち負かすことはできなかった。
ワーナー・ブラザーズは先日、映画「ワンダーウーマン1984(原題:Wonder Woman 1984)」を予定通り12月末に公開し、動画配信サービス「HBOmax」の加入者にも1カ月間無料配信すると発表した。
同作の製作費は約2億ドル。当初は2020年6月から各国で公開する予定だったが、他の作品と同じく延期を余儀なくされていた。
スクリーン・インターナショナルの主任映画評論家、フィン・ハリガン氏はBBCニュースの取材に対し、「スタジオは10億ドル単位の興収を稼ぐ大作映画を犠牲にできなかった」と述べた。
フィン・ハリガン氏:
「大作映画は貴重な商品。本来であれば10億ドル稼ぐものを無駄にはできない」
しかし、公開までの期間が長くなるほど、製作会社の懐は苦しくなる。
ハリウッド・リポーターによると、「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の製作会社、メトロ・ゴールドウィン・メイヤー(MGM)は、配給契約会社に製作費の利息を毎月100万ドル支払っているという。
2019年、「ライオン・キング」や「ジョーカー」など、計9本のハリウッド映画が興行収入10億ドル以上を達成した。
2020年、興行収入5億ドルを超えた作品はいまのところゼロである。
2019年 世界興行収入TOP10 | 興行収入 単位:億ドル | |
1 | アベンジャーズ/エンドゲーム | 27.98 |
2 | ライオン・キング | 16.57 |
3 | アナと雪の女王2 | 14.50 |
4 | スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム | 11.32 |
5 | キャプテン・マーベル | 11.28 |
6 | ジョーカー | 10.74 |
7 | スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け | 10.74 |
8 | トイストーリー4 | 10.73 |
9 | アラジン | 10.50 |
10 | ジュマンジ/ネクスト・レベル | 8.00 |
2020年 世界興行収入TOP10 | 興行収入 単位:億ドル | |
1 | The Eight Hundred(中国) | 4.61 |
2 | バッドボーイズ フォー・ライフ | 4.27 |
3 | テネット | 3.56 |
4 | ソニック・ザ・ムービー | 3.19 |
5 | 劇場版「鬼滅の刃」無限列車編(日本) | 2.60 |
6 | ドクター・ドリトル | 2.45 |
7 | Jiang Ziya(中国) | 2.40 |
8 | ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 | 2.02 |
9 | 2分の1の魔法 | 1.47 |
10 | 透明人間 | 1.31 |
パンデミック後に公開された映画「テネット(製作費:2.05億ドル)」は、コロナ禍での世界興収3.5億ドル超えを達成したが、ハリウッドを代表する人気監督、クリストファー・ノーラン監督の作品としては物足りない結果に終わった。
(ノーラン監督作品の世界興収)
・ダークナイト(2008年) 10億ドル
・インセプション(2010年) 8.2億ドル
・ダークナイト ライジング(2012年) 10.8億ドル
・インターステラー(2014年) 6.7億ドル
・ダンケルク(2017年) 5.2億ドル
北米と欧州の映画館の再開時期は、コロナウイルスの影響で全く見通せない。
しかし、アジアの映画市場は勢いを取り戻しつつある。
2020年の世界興収暫定1位は中国の「The Eight Hundred」。5位の劇場版「鬼滅の刃」無限列車編(日本)も3億ドル超えが見えてきた。
アジアの映画評論家スティービー・ウォン氏はBBCニュースの取材に対し、「2020年、中国は初めて世界最大の映画市場になった」と述べた。
スティービー・ウォン氏:
「ハリウッド映画の公開が延期されたことで、自国の映画は大きなチャンスを得た」
テネットのクリストファー・ノーラン監督は、ロサンゼルス・タイムズのインタビューの中で次のように述べている。
クリストファー・ノーラン監督:
「スタジオは映画を上手く機能させる、コロナウイルス後の世界に適応させる方法を考えるのではなく、コロナウイルス以前の収益を上げる方法に注目している」
「劇場公開は損失につながる、テネットと同じ結果になる、という言い訳で劇場公開を控えるべきではない。それに適応するビジネスの方法を再構築すべきだ」
ワンダーウーマン1984の劇場公開および無料ストリーミング(HBOmax加入者のみ)について、ワーナーメディアスタジオ&ネットワークスグループのアンサー・ノフ会長兼CEOは、「前例のない時代を乗り切るためには、ファンにサービスを提供し続け、ビジネスを前進させるために革新的でなければならない」と述べている。
ワンダーウーマン1984が成功を収めれば、大作映画を2021年に延期した他のスタジオも同じような戦略をとるかもしれない。
スクリーン・インターナショナルのフィン・ハリガン氏は、映画館の差し迫った窮状を念頭に置き、スタジオは断固とした行動をとらなければならないと警告した。
フィン・ハリガン氏:
「大作映画で10億ドル以上稼ぎたいのであれば、スクリーンが必要になることを覚えておくべきだ」
世界の映画館の大半が、大作映画の公開延期で経営に深刻な影響を受けている。
映画館を運営する英シネワールドは、「007/ノー・タイム・トゥ・ダイ」の公開延期を受け、北米とイギリスの映画館を一時閉鎖すると発表した。
英シネワールドは2020年上半期に16億ドル(約1,700億円)の赤字を計上している。