マンハッタンのサラ

大阪⇔東京⇔NYを忙しく行き来していた頃。マンハッタンに足を運ぶたび、この街はややこしいし変な臭いがするし雰囲気が好きになれない、と思っていた。

しかし、人間は不快な環境に置かれても、そのうち慣れてしまう。NYより断然東京、と自分に言い聞かせていたが、いろんな人種が行き交う狂乱のマンハッタンの魅力にハマり、「仕事はNY発のものしかお受けしません」と訳の分からないことを言っていた時期もあった。

コロナウイルスの影響で海外への渡航を控えるようになってから間もなく6カ月、人種ごちゃまぜ、ごった煮のマンハッタンがふと恋しくなり、友人のサラ(仮名)に電話した。

彼女はファッション業界で働く少し変わった40代、バリバリのキャリアウーマンである。15年前、大阪や東京のオフィスレディ(?)しか知らなかった私は、仕事の都合でサラを紹介され、衝撃を受けた。

モデルのような容姿、足が長く顔が小さい。身長は180cmに近く、ハイヒールを履いていたため、「デカいな」と思ったことを今でも鮮明に覚えている。

このサラがかなりの曲者だった。酒、たばこ、夜遊び、一夜限りの関係、何でもアリなのである。当時、標準的な日本人(今でも標準的だと信じている)だった私は彼女に、「マンハッタンの女性は、皆、あなたみたいな感じなのか?」と尋ねると、「今日、22時からパーティがある。あなたにピッタリの女を紹介してやる」と言われた。

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サラの友人

地球上の男女は皆変態である」と私は確信している。私をこの結論に至らしめた街がマンハッタンだった。

サラの友人たちは彼女と同じく変わった人間たちで構成されていた。マギー(仮名)は弁護士事務所で働く30代、独身。エミリー(仮名)は自称売れっ子のインテリアコーディネイター、30台独身。浅黒い肌が特徴のカール(仮名)はよく分からないPR会社の役員を務める30代のゲイ。高級マンションを所有するケイト(仮名)の仕事は不祥。サラは「高級娼婦」と呼んでいたが、「彼女の前で仕事の話はするな」と釘を刺されていた。

サラ、マギー、エミリー、カール、ケイトは今も変わらずNYで生活している。結婚した者もいるが、昨年まで最低月に1回、多い時は2回、6人で集まり情報交換していた。

サラに4人を紹介された夜、あるバーで飲むことになった。週末のマンハッタン、街は酒とたばことドラッグとセックスを求める男女で溢れ返っている。

私は酒を飲みつつサラの友人たちを観察した。マギーは上から目線の厳しい女性で、「マンハッタンの男はカスばかり。どいつもこいつも女の身体にしか興味がない。日本人も同じでしょ?」と私に優しく説いてくれた。

エミリーは上品なお嬢さまタイプらしいが、サラ曰わく、お尻を使うプレイが趣味らしく、「まあまあ変態」とのこと。しかし、酒は慎重かつゆっくり飲み、滅多に乱れない。タバコも吸わず、服装もメンバーの中で一番安定感がある、と思った。

カールはゲイである。目鼻立ちのバランスが良く細身。第一印象はモデル兼遊び人だった。しかし、彼は非常に誠実かつマンハッタン人(?)とは思えぬほど真面目で、愛した男を一途に想い続けることができるゲイだった。

ケイトは危ない雰囲気を漂わせており、その見た目通り強烈な性格の持ち主だった。狙った男は必ずものにするハンター、金より身体重視、しかし金も大事。彼女の辞書にタブーという言葉はなく、「今夜はあの男とセックスする」と断言し、対象を捕縛してしまう女性だった。

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捕縛

1時間後、サラはかつて付き合っていたニック(仮名)と偶然店内で遭遇し、パーティから離脱。マギーに「やめとけ」と注意されていたが、「よりを戻すつもりはない。セックスしたら自宅に戻る」と断言し、去った。

私は手持無沙汰になり、バー内に立ち込めるタバコと体臭と香水の匂いで頭がクラクラしていた。

サラが退席した直後、カールに「カッコいい男たちのいる店を紹介する、一緒に行こう」と提案されたが、自分はストレートである、と告げると、「それなら、なぜ女性に声をかけないんだ?」と不思議がられた。

マギーとエミリーにも同じ質問をされたので、「今日はあなたたちと食事するために来た。女性を捕縛するためじゃない」と説明すると、大爆笑されてしまった。

ケイトに、「マンハッタンはセックスの街。食事をすることも大切だけど、やりたいと思った時にやるべきだ。私が手ほどきしてやる」と真顔で言われ、「お願いします」と答えそうになったが、自重した。

マギーとエミリーも「やりたいと思った時は本能に従うべき」と力説し、私たちに気をつかう必要はないと笑いながら言った。最後にカールが、「日本人が友人を大切にすることは知っている。しかし、私たちはいつでも好きな時に会えるが、今日、この店で出会った女は分からない。あまり気をつかい過ぎると身体に毒だぞ」と言った。

皆、私がセックス目的でバーに来たと思っているらしい。週末のマンハッタンでは、それが当たり前なのだ。私たちの周りには、女性だけのグループに狙いを定める男たちが群がっていた。「それが普通、セックスのないマンハッタンに価値はない」とケイトは言い、私の腕に絡みついてきた。

私は居た堪れなくなり、好き勝手させてもらうことにした。サラの友人たちとは今後も何かしらの形で付き合うことになると思ったので、ケイトに「あそこにいるモデル風の黒人女性を捕縛してくる」と説明し、彼女の腕を払った。

今日は私が相手をする」と酔っ払い気味のケイトに言われたが、マギーとエミリーが取り押さえてくれたので、難を逃れる(?)ことができた。

その日、私は黒人女性の捕縛に成功し、一夜限りの関係を持った。アフリカ系アメリカ人のポーラ(仮名)は、週末の日課としてカジュアルセックスを楽しむ20代だった。

後日、マンハッタンデビューしたことをサラに報告すると、「ハンサムは男に娼婦扱いされたので、タマを蹴り上げてやった。昨日、エミリーもトラブルに巻き込まれたので、今からフォローしに行く。あなたも来い」と言われ、タクシーに飛び乗った。

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