アドバイスしたい人

誰かがあなたにアドバイスを要求し、それにしっかり応えた(つもり)としても、なぜかイケてない効果を与えてしまうことが多々ある。

職場で様々な無理難題に直面した時。恐らく誰もが同僚や先輩、上司からアドバイスを貰いたいと思うはず。

的確なアドバイスをくれる人は、あなたの様子をこっそりチェックし、それとなくゴールに向けた手助けをしてくれたり、あなたの意見をしっかり聞いたうえで、穏やかかつ誠実にあなたが最も必要とするであろう答えを提供する。

コーチングの専門家兼作家として活動するマイケル・バンゲイスタニエ氏は、提供されたアドバイスを受け入れることは簡単ではないと考えている。また、アドバイスを与えることが職場の風土になっている場合、事態はさらに深刻だと指摘した。

なぜアドバイスすることが職場(社内)の風土になっているのか。企業はこれまでの成功を元に、社内業務に関する正しい進め方や方法、失敗例を理解している。そして、部下を動かすリーダーたちは、それを頭に叩き込んでいるため、困っている者がいればアドバイスできる。それを見た次のリーダー候補たちは、社内業務のフローを頭に叩き込み・・・

アドバイスする理由は単純明快、友人や同僚を助けるためだ。しかし、100%正しいアドバイスをすることはとても難しい。同僚が頭を抱えて悩んでいるとしよう。重要なプロジェクトをうまく進めることができず、彼は悩みに悩んでいる。

あなたも忙しい。しかし、頭を抱える同僚を無視することはできない。バンゲイスタニエ氏は、急いでもしくは焦った状態で行うアドバイスほど危険なものはない、と指摘する。

どうしてもアドバイスしたい。しかし、ぶっちゃけ自分も忙しく、アドバイスを考える余裕などない。でも何とかしたい。頑張り過ぎたあなたはアドバイスモンスターになり、早口で同僚をまくしたてる

「間違ったアドバイスほど危険なものはない。適当にアドバイスすることで、問題がよりややこしくなったり、トラブルを引き起こす可能性もある。また、同僚が頭を抱えているから絶体絶命と考えるのは時期尚早である。本気でフォローしたいと考えるのであれば、まず、相手が何を欲しがっているかを見極めなければならない

「私のアドバイスは優れている」「私のアドバイスを聞けば、どんな仕事もたちどころに片付く」とあなたは信じている。人間は認知的偏見を持っている生き物である。結果、自分のスキルと能力を過度に肯定したり、過剰に見積もってしまうのだ。

バンゲイスタニエ氏はBBCの取材に対し、「自信を持てるアドバイスほど間違いにつながる可能性が高い、と意識することが重要である。専門分野になるほどその傾向が強くなるので、むやみやたらに急いでアドバイスするとロクなことにならない」と述べた。

オーストラリア、ビクトリア州のハードウェア会社で働く上級エンジニアのスザンヌ(仮名)は、同僚の圧倒的なアドバイスパワーと格闘していた。「彼女はありとあらゆる事象について意見した。私が一瞬考えようと思うと、彼女はすぐに何をすべきか、どうすればよいかを私を含めた同僚にアドバイスしてくれた

同僚はスザンヌの上司になり、アドバイスパワーを解き放った。スザンヌは当時の様子を次のように語った。

「私たちは仕事の状況を皆でチェックする進行会議を頻繁に行っていた。わずか30分ほどの会議だったが、同僚と仕事の中身や意見を共有し、かつ皆の実力を向上させる場としても重宝されていた。しかし、上司が変わったことで、私は意見を述べることができなくなった。上司は自分が正しいと思うことを述べ、それを皆に強いた。確かに正解だと思えることもあったが、仕事は楽になるどころか上手く回らなくなった。私は自分で考えることができなくなり、決断しなくなった。」

その後スザンヌは体調を崩し、約17カ月間仕事を休むことになった。

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アドバイスモンスター

スザンヌの事例のように、あまりにも多くのアドバイス(正否は問わず)は、有害な結果をもたらす可能性が高い。なお、アドバイスモンスターたちは自分のおかげで仕事がうまく回っている、と喜んでいたりするから厄介である。

スザンヌの上司は、間違ったマネージメント能力を発揮し、職場全体の士気を低下させてしまった。もしこれを意図的に行っているとしたら大問題だが、恐らく違うと思う。上司は自分の答えが100%正しいと信じ、部下たちを最善のルートに導きたいと考えているだけなのだ。

部下たちは「アドバイスを止めてください」とはなかなか言えない。上司との関係がこじれるばかりでなく、業務に支障をきたす恐れもあるため、怖くて言い出せない。

上司はアドバイスすることに優越感を感じている。さらに、「部下たちを成長させてあげたい」「もっと素晴らしい仕事を与えてあげたい」と考える真面目なアドバイスモンスターほどやっかいである。真剣に仕事をチェックしてくれるため、内心イヤな気持ちはせず、何でも上司に頼ってしまう「あなたに一生ついていきますモンスター」が誕生してしまうのだ。

マイケル・バンゲイスタニエ氏は、「誰かにアドバイスを求められると嬉しい。それは、権威やステータスを持ちたいという私たちの欲求を満たしてくれる。また、アドバイスするだけなら、リスクはない。つまり、ガンガンアドバイスしたくなる」と述べた。

答えを得たければ、ある程度悩み、それを得るための努力が必要である。

テクノロジーの進歩に伴い、私たちが必要とするスキルは変化している。つまり、リーダーがありとあらゆる問題の正解を持っておく必要ないのだ。

フランスおよび欧州におけるトップクラスのビジネススクール、EDHEC経営大学院のジュリア・ミルナー博士はBBCの取材に対し、「全ての知識の専門家になる必要はないし、恐らくなれない」と述べた。

西オーストラリア州のビーメディアで最高技術責任者を務めるシェーン・ボラード氏は、45人の同僚に何らかのアドバイスを与えたという。

しかし、彼は自分からアドバイスモンスターになったのではなく、ならざるを得なかったと述べた。「騒々しいオフィスの中で、誰かが私に質問する。クライアントにメールする場合、コピーを上司に提出する必要があるか?プロジェクト関連の書類はどこにあるのか?会議は・・・」

アドバイスしたことで部下に心から感謝してもらえたら、嬉しい。しかし、何でもかんでも質問し、アドバイスを求める部下が多いことも念頭に置いておくべきだろう。アドバイスモンスターと同じくらい「アドバイス依存症」も問題アリである。

上司はコーチングに頭を悩ませなければならない。部下を成長させるべく、必要な時に限り、適切なアドバイスを送る。では、相手が答えを求めてきた場合はどうか?

簡単に答えを教えることができる問題でも、部下の仕事の進み具合などを軽くチェックし、「勉強してほしい」という気持ちを込めて、それとなく答えに近づけるヒントを与える。なお、別に嫌がらせをしているわけではなく、「少しは自分に頭で考えなさい」ということだ。ただし、火急の仕事であれば、答えを提示した方が良いと思う。

コーチングはメンドクサイ。上司であるあなたは、部下が悩んでいる小さな問題の100%正しい答えを知っている。答えを一言部下に伝えれば、問題解決である。

しかし、長期的な目で見ると、部下に考えさせることを覚えさせた方が、会社に大きな利益をもたらす可能性が高い。そして、自分で考え素晴らしい答えを導き出せる優秀な部下をたくさん育成したあなたは、次のポストに進むのである。

バンゲイスタニエ氏の最後のアドバイスは次の通り。

「アドバイスする場合、相手(部下)が自分を失うことのないよう、適切に行うことが大切である。あなたのアドバイスにプレッシャーを感じず、自分の意思で物事を進めることができるようにフォローしてほしい」

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