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世界の「山火事」が地球温暖化に与える影響、対策必須

世界の山火事は単なる「自然災害」ではなく、地球規模の炭素循環と気候政策に直接的な影響を与える構造的問題である。
2024年2月4日/チリ、中部バルパライソの住宅地(Esteban Felix/AP通信)

近年、世界各地で山火事(森林火災・野焼きを含む)の発生頻度と焼失面積、火災による温室効果ガス放出量が増加している。特に2019年以降、北半球の高緯度地域(シベリア、カナダのボレアル帯)や米西部、南米(アマゾン)、オーストラリア、地中海域などで大規模な火災が多発し、一度に大量の炭素が大気中に解き放たれた。衛星観測・再解析データや火災排出データベースは、森林火災由来のCO₂排出は年ごとに大きく変動するものの、近年の極端年では従来の年平均を上回る排出が観測されている。たとえば、2021年の北方ボレアル火災だけで、約0.48ギガトンの炭素(約1.76ギガトンのCO₂)を放出したとの報告があり、これは単一地域の火災として大きな値である。さらに、近年(2023→2024)では焼失面積が記録的に拡大した年があり、2024年は少なくとも1350万ヘクタール以上の森林が焼失したという推定もある。これらの火災は一時的に大量のCO₂を放出するだけでなく、森林が持つ炭素貯留能力(炭素吸収源)を損ない、長期的な地球の炭素収支にも負の影響を与える。

歴史(過去からの変化)

人間活動と気候変動以前から自然発火(落雷等)に起因する森林火災は存在したが、産業化以降の土地利用変化(森林伐採、農地転換、放牧、植林の崩壊)と気候変化により、火災の性質は変化してきた。植生が破壊・断片化されることで燃えやすい燃料が増え、火の広がりやすい状況が生じる。加えて温暖化と乾燥化により火災シーズンが延長し、従来火災の少なかった地域でも大型火災が発生するようになった。1980年代以降、特に2000年代以降に衛星観測が普及したことで、グローバルな焼失面積・排出量のモニタリングが精度を増し、異常年の影響が明確になった。たとえばボレアル域やオーストラリア、カリフォルニアの大火災は、過去数十年で強度と頻度が増したことが示された。

経緯(なぜ増えているのか)

山火事の増加には複数の要因が複合的に絡む。主要因は次のとおりだ。

  1. 気候変動:気温上昇、異常高温、降水パターンの変化により乾燥化が進行し、燃えやすい条件が増える。火災シーズンの延長や高温による可燃物の乾燥が火災の発生・拡大を助長する。

  2. 土地利用・森林管理の変化:違法伐採、焼畑、草地化、森林の断片化が進むことで、人為的着火や火の広がりやすさが増す。特に熱帯地域での農地拡大や畜産用地造成が火災と結びつく。

  3. 人的要因:放火、管理不十分な農地焼却、インフラ建設による着火リスク増大など。

  4. 生態系のフィードバック:一度大規模に燃えた森林は回復が遅れ、低木草地に遷移することで将来さらに燃えやすくなる場合がある(正のフィードバック)。これにより同じ地域で繰り返し強い火災が発生しやすくなる。

問題点(温暖化への具体的影響)
  1. 大気中への即時排出量の増加:山火事は大量のCO₂、メタン、黒色炭素(すす)や一酸化炭素、各種微粒子を短期間で放出する。これらは直ちに大気中の温室効果ガス濃度と放射強制力を高める。特に大型のボレアル火災や熱帯雨林の焼失は、単年度で10⁸〜10⁹トンレベルのCO₂を放出することがある。

  2. 炭素吸収源の喪失と転換:健全な森林は長期にわたり大気中のCO₂を吸収・固定するが、火災やその後の森林劣化・転換によりその吸収能力は失われる。森林が草地や焼け跡に転換すると、回復までに長期間を要し、場合によっては回復せずに炭素源へと変わる。アマゾンなどでは森林破壊と火災の複合で地域全体が炭素吸収源から炭素放出源へ移行するリスクが指摘される。

  3. アルベド変化と気候フィードバック:森林被覆の喪失は地表のアルベド(反射率)を変え、局所的な気候循環を変える可能性がある。高緯度のボレアル地域で森林が失われると、雪のある季節の反射率が上がり複雑なフィードバックが生じるが、同時に放出された炭素の影響がより大きい。

  4. 黒色炭素の短期的加熱効果:黒色炭素(すす)が気候強制力を持ち、特に雪氷面に堆積すると吸収が増え融解が促進されるため、短期的な加熱効果が生じる。これが氷床や氷河融解を促進すると、長期的な海面上昇などにも寄与する。

実例(データに基づく具体例)
  • 2021年のボレアル火災:北方の広域火災で約0.48GtC(約1.76GtCO₂)を放出したと報告されている。単年でこれだけの排出があると、世界全体の化石燃料由来排出の変動にも影響を与える。

  • 2023〜2024年の焼失面積:COPERNICUS/CAMSやWRIの報告によると、2023年はこれまででも非常に大きな被害年であり、2024年はさらに記録的で、推定で少なくとも1350万ヘクタール(13.5百万ha)程度の森林が焼失したとの報告がある。こうした面積規模は国単位で見た年間森林損失を上回り、単年の炭素放出を急増させる。

  • アマゾンの森林破壊と排出:ブラジルの森林減少では、年間数千〜数万平方キロメートル単位の森林伐採が報告され、2023年のデータでは約9001km²(約900万ha)前後の新たな伐採報告がある年もあった。こうした破壊は将来の火災リスクを高め、森林の炭素貯留を損なうため温暖化対策を困難にする。

比較:山火事排出量は主要国の年間排出量と比べてどうか

山火事由来の年次排出は大きく変動するため「常に何倍」という単純比較は難しいが、極端な火災年には単一年の火災由来CO₂排出が主要国の年間化石燃料起源CO₂排出量に匹敵したり、それを上回ることがあるという指摘がある。一部の解析では、世界の山火事や土地利用変化由来の年間総排出が主要国の年間排出量の「数倍」になるケースもあり得ると示唆される。たとえば、火災と森林破壊を合わせた年次排出が数ギガトンCO₂に達する年は、国別上位の単年度排出国と比べても非常に大きなインパクトを持つ。数値の信頼性と定義(自然火災のみか、管理焼却や伐採発生由来も含むか)によって幅があるため、具体的な比較はデータソースに依存するが、火災が気候政策の短期目標を大きく狂わせ得ることは明確である。

問題点(社会経済的・政策的視点)
  1. モニタリングと報告の不確実性:衛星データは向上しているが、地域別・バイオーム別の正確な排出量推定には不確実性がある。燃焼温度、残存物、土壌炭素の燃焼などが変動し、同じ焼失面積でも排出量が大きく異なる。これにより国別排出量やNDC(国別貢献)評価への反映が難しい。

  2. 短期の気候政策への影響:大規模火災の突発的排出は、国別・地域別の短期的な排出削減努力を相殺し、温室効果ガス削減の進捗評価を歪める。特に途上国での違法伐採や焼畑が原因の火災は、削減努力が成果に結びつきにくくする。

  3. 生態系サービスの永久的損失リスク:一度の大規模火災で生態系が回復不能な状態に陥ると、炭素だけでなく生物多様性・水循環・土壌保全などのサービスを失い、地域社会の回復力が低下する。アマゾンのような「臨界点」を超えると、二度と元の熱帯林に戻らない可能性がある。

課題(対応すべき点)
  1. 監視・早期警戒の強化:衛星観測、地上観測、AIを用いた予測・早期警戒システムを全世界的に整備することが必要だ。観測データをリアルタイムに政策判断に結びつけるワークフローを確立する。

  2. 森林保全と持続可能な土地管理:違法伐採の取り締まり、森林火災を誘発する土地利用(拡大する牧畜や焼畑)の転換、地域共同体による持続的管理の推進が求められる。特に熱帯林では保全が温暖化抑止に直結するため、国際的な資金支援とインセンティブ設計が重要となる。

  3. 火災リスク低減のための現地対策:適切な森林管理(間伐、燃料除去)、コミュニティベースの防火活動、インフラ計画の見直しなど、地域特性に応じた対策が必要だ。先進国でも住宅地近接火災(WUI)対策が急務である。

  4. 炭素会計と国際枠組みの整備:火災・土地利用変化を国際的な排出会計にどう組み込むかは複雑だが、公正で透明なルール作りが不可欠である。偶発的排出の扱い、損失と回復の時間軸を考慮した会計手法が必要である。

今後の展望(短期・中長期)

短期的には、気温上昇と極端事象の頻度増加に伴い、火災リスクはさらに高まる可能性がある。各国での早期警戒・消火能力強化や土地利用政策の改善で被害を抑えられる部分はあるが、温暖化を抑えない限りリスクは下がらない。中長期的には次の二つの方向性が重要となる。

  1. 緩和:化石燃料起源の排出削減を加速し、大規模火災がもたらす急激な排出を相対的に小さくする。これは全体的な大気中CO₂濃度の増加速度を抑えるために必須だ。

  2. 適応と復元:火災後の森林回復を支援し、被害地の生態系復元や土壌回復、再植林計画を長期で実行する。特に熱帯域では自然再生だけでなく、人為的な植生回復と保全が必要となる。国際的資金(緑の気候基金等)や炭素市場を活用したインセンティブ設計が効果的である。

まとめ(結論的な提言)

世界の山火事は単なる「自然災害」ではなく、地球規模の炭素循環と気候政策に直接的な影響を与える構造的問題である。近年の火災は瞬間的な大量排出と長期的な炭素吸収源の喪失を同時にもたらし、温暖化対策の難度を高める。したがって、気候緩和策(化石燃料削減)と同時に、土地利用政策・森林保全・監視システム・地域社会の防火力強化といった複合的対策を同時並行で進める必要がある。国際協調による資金・技術援助、透明な排出会計の確立、そして地域ごとの実効的な管理がなければ、火災は単発の災害で終わらず、気候変動を加速させる恒常的な要因になり得る。

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