インドネシア豪雨、死者21人に、4人行方不明、バリ島で被害拡大
インドネシアでは毎年雨季の到来とともに洪水や土砂崩れが繰り返し発生しており、その背景には地理的条件、気候的要因、都市化や人口増加に伴う人間活動、さらには環境政策やインフラ整備の遅れといった複合的な要因が存在している。
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インドネシアの2地域で発生した洪水や土砂崩れについて、国家防災庁(BNPB)は11日、これまでに21人の死亡を確認し、行方不明者の捜索を続けていると明らかにした。
東ヌサトゥンガラ州とバリ島では8日から広い範囲で大雨となり、広い範囲で冠水被害が確認され、土砂崩れも相次いだ。
雨は9日午後までに収まり、救助隊が被災地で4人の行方を捜している。
被害の全容は明らかになっていない。
現地メディアによると、バリ島では400棟を超える建物が被害を受け、数百人が避難を余儀なくされている。
東ヌサトゥンガラ州でも被害が拡大。2人の幼児を含む5人が死亡、少なくとも3人が行方不明になっている。
バリ島では大雨により大小さまざまな河川が氾濫。少なくとも120の地域が被害を受け、12カ所で土砂崩れが確認された。
BNPBは11日の声明で、「バリ島の救助隊がさらに7人の遺体を収容し、島内の死者数は16人にのぼった」と報告した。
インドネシアでは毎年雨季の到来とともに洪水や土砂崩れが繰り返し発生しており、その背景には地理的条件、気候的要因、都市化や人口増加に伴う人間活動、さらには環境政策やインフラ整備の遅れといった複合的な要因が存在している。
まず地理的な要因として、インドネシアは大小1万以上の島々から成る群島国家であり、その多くが熱帯モンスーン気候に属している。特にジャワ島やスマトラ島、カリマンタン島など主要地域は降雨量が非常に多く、雨季には集中豪雨が日常的に発生する。雨が短期間に大量に降るため河川の水位が急激に上昇し、氾濫につながりやすい。加えて、インドネシアの地形は山岳地帯と平野部が複雑に入り組んでおり、急峻な斜面に沿った集落や農地も多い。そのため、豪雨によって地盤が緩むと土砂崩れや地滑りが頻発し、被害を大きくしている。
気候変動の影響も無視できない。近年、地球温暖化による降水パターンの変化やエルニーニョ・ラニーニャ現象の影響で、インドネシアの降雨は一層極端化している。ラニーニャ現象が強まる年には雨季が長引き、通常よりも多量の降水が集中し、大規模な洪水や土砂災害を引き起こすことが多い。また、都市部ではアスファルトやコンクリートによる舗装が進み、雨水が地中に浸透しにくくなったため、短時間で下水や排水システムがあふれ、都市型洪水が頻発している。
次に社会的要因を挙げると、人口増加と都市化の進展が大きな影響を与えている。首都ジャカルタをはじめとする大都市圏では人口流入が急増し、川沿いや低地、さらには不安定な斜面など本来は居住に適さない場所にまで住宅が建てられてきた。こうした地域は洪水や土砂災害に対して極めて脆弱であり、被害を受けやすい。また、森林伐採や農地拡大も洪水・土砂崩れのリスクを高めている。熱帯雨林は雨水を吸収し、地盤を安定させる役割を担ってきたが、違法伐採やプランテーション農業の拡大によって森林が失われ、豪雨時に水が一気に流れ込み、土壌が崩壊しやすくなっている。
さらにインフラ整備の遅れも大きな課題である。ジャカルタでは慢性的に排水施設が不足しており、河川や運河もゴミや土砂で詰まって流量が減少している。排水ポンプの能力も限られており、大雨が数時間続くだけで道路や住宅地が浸水する事態が繰り返されている。地方でも同様に治水事業が不十分であり、小規模の堤防や排水路では気候変動のもたらす極端な降雨に対応できていない。
政府は洪水対策として首都移転計画や大規模な治水インフラ整備を進めているが、効果が現れるには時間がかかる。また、違法居住地区の撤去や住民移転は社会的摩擦を招き、計画通りに進まないことも多い。地域住民の生活基盤や経済活動と密接に関わるため、単なるインフラ整備だけでなく、土地利用の見直しや防災教育の普及が不可欠とされている。
土砂崩れに関しては、急斜面での農業や違法採掘が災害リスクを高めている。山地での森林伐採は雨水の浸透と土壌流出を加速させ、斜面を不安定にする。こうした場所に人々が住み続けていることが被害の拡大につながっている。また、地方の貧困層は安全な土地に移る余裕がなく、危険地帯にとどまらざるを得ないという社会経済的な事情も背景にある。
インドネシアの雨季における洪水や土砂崩れの多発は、自然条件と人間活動の両方が深く絡み合った結果である。熱帯気候と地理的条件が根本的なリスクを内包している一方で、都市化、森林破壊、排水インフラの不足、土地利用の無秩序化といった人為的要因が被害を拡大している。今後の課題としては気候変動を前提にしたインフラ強化、森林保全と持続可能な土地利用の推進、都市計画の見直し、そして住民レベルでの防災意識向上が挙げられる。これらの取り組みを総合的に進めない限り、インドネシアにおける雨季の災害多発は今後も続くと考えられる。