パキスタン東部豪雨、一部地域で避難続く、900人超死亡
パキスタンは地球温暖化の影響を受けやすい国のひとつである。北部の広大な氷河が溶けることで川の水位が上昇。雨季は温暖化の影響でより長く、より強力になった。
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パキスタン東部パンジャブ州の洪水被災地で水が引き始めている。現地メディアが11日に報じた。
それによると、ラホールやその近郊で70万人余りが自宅に戻ったという。
しかし、ラホール郊外の2つの集落では水位が上昇。村全体が水没し、数千人が余儀なくされた。
国家防災管理局(NDMA)は声明で、「雨がやみ、多くの地域で水が引き始めているが、危険な状態に変わりはなく、慎重に行動してほしい」と呼びかけた。
現地メディアによると、水没した2つの集落では救助隊がボートで住民を避難させたという。陸軍のヘリコプターも出動し、警戒に当たっている。
パンジャブ州では8月28日、豪雨と隣国インドのダム放流により3つの主要河川がほぼ同時に氾濫。4000を超える集落が被害を受けた。
この洪水とその後の大雨により、450万人以上が影響を受け、約240万人が避難を余儀なくされた。当局によると、数十万棟の家屋が浸水し、数十平方キロメートルの田畑が泥に覆われたという。
被害の全容は明らかになっておらず、中央政府と関係自治体が調査している。
パキスタンでは6月26日以来、大雨に関連する災害で900人以上が死亡。パンジャブ州では200人以上が死亡している。
パキスタンの雨季は7月から9月末頃まで続く。
パキスタンは地球温暖化の影響を受けやすい国のひとつである。北部の広大な氷河が溶けることで川の水位が上昇。雨季は温暖化の影響でより長く、より強力になった。
国土の3分の1が水没した2022年の大水害では1739人が死亡、200万戸以上の家屋が損壊した。
パキスタンで洪水が発生しやすい理由は自然環境的要因と人為的要因が複雑に絡み合っている。まず第一に、地理的条件が大きく影響している。パキスタンは国土の大部分をインダス川流域に依存しており、この流域はヒマラヤやカラコルム、ヒンドゥークシュ山脈に源を持つ雪解け水やモンスーン期の降雨に強く左右される。特に夏季のモンスーンシーズン(7月から9月)は降雨量が集中し、平年でも局地的な豪雨によって河川の水位が急激に上昇しやすい。加えて山岳地帯の急峻な地形は雨水を一気に下流へと流し込み、洪水の発生を加速させる。
さらに気候変動が近年の洪水頻発に拍車をかけている。地球温暖化の影響でモンスーンの降雨パターンが不安定化し、極端な集中豪雨が増加している。また、ヒマラヤやカラコルム山脈の氷河が急速に融解しており、氷河湖の決壊洪水が新たなリスクとなっている。インダス川の上流部では氷河湖の拡大が確認されており、突発的な洪水が下流域に壊滅的被害をもたらす危険性が高まっている。
人間活動による要因も深刻である。人口増加と都市化に伴い、洪水リスクの高い低地や河川沿いに居住地が拡大している。農村部では土地不足から氾濫原にまで農地や住居が広がり、被害を拡大させている。また、急速な都市化により排水システムが整備されないままコンクリート舗装が進み、雨水が地中に浸透せず短時間で河川に流れ込み都市型洪水を招いている。カラチやラホールなど大都市では下水道の老朽化や不備が洪水被害を悪化させている。
森林伐採や土地利用の変化も無視できない。山岳地帯では薪炭利用や農地開発によって森林が減少し、保水能力が低下している。その結果、豪雨時に土砂崩れや鉄砲水が発生しやすくなり、河川の土砂堆積も進行する。インダス川や支流では土砂の堆積によって川床が上昇し、洪水に対する耐性が低下している。また、ダムや堤防の管理不備も洪水リスクを増大させている。例えばタールベラやマンゲラといった大規模ダムは電力供給や灌漑に不可欠である一方、貯水調整が適切に行われなければ下流に急激な放流を引き起こし、大規模洪水を誘発する危険がある。
加えて、制度的・社会的な脆弱性も洪水被害を大きくする要因となっている。パキスタンは防災インフラや早期警戒システムの整備が遅れており、洪水時の避難体制も十分に機能していない。地方自治体や中央政府の調整不足、資金不足、汚職などが防災対策の実効性を損ねている。さらに、貧困層が洪水被害のリスクを高い地域に居住せざるを得ない現実も深刻である。特に農村部では洪水によって農地が冠水すれば生活基盤そのものが失われ、被害は単なる物的損失にとどまらず社会経済的危機に直結する。
以上のように、パキスタンで洪水が発生しやすい理由は多岐にわたる。モンスーンと氷河融解という自然要因、森林伐採や土地利用の変化、都市化や不十分なインフラ整備といった人為的要因、さらには制度的脆弱性が重なり合って洪水の頻度と被害規模を拡大させている。今後は気候変動の進行に伴い洪水リスクがさらに高まることが予測されるため、水資源管理の改善、治水インフラの整備、早期警戒システムの強化、持続可能な土地利用政策の推進など、総合的な対策が不可欠となっている。