キプロスに「山火事対応拠点」設置へ、欧州委員会が発表
キプロスを含む南ヨーロッパで山火事が多発している背景には、気候変動、地理的・気象的条件、社会経済的要因が複雑に絡み合っている。
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EUの執行機関である欧州委員会は10日、地中海の島国キプロスに新たな山火事対応拠点を設置する予定であると明らかにした。
このハブは南ヨーロッパと中東地域で山火事が発生した場合、情報を集約し、対応や支援を調整するとしている。
欧州委員会のフォンデアライエン(Ursula von der Leyen)委員長は欧州議会での年次演説で、夏がより暑く、より厳しく、より危険になる中、気候変動によって悪化する山火事と戦うための「手段を整える」必要性を強調した。
キプロスやギリシャを含む南ヨーロッパは5月以降、記録的な熱波に見舞われ、多くの地域で気温が上昇。50度を超えた場所もあった。
EUのデータによると、南ヨーロッパにおける今年の山火事の焼失面積は1万平方キロメートル(東京都面積の4.6倍)を超えた。
フォンデアライエン氏はキプロスに設置するこの拠点の具体的な運営方法や保有資源について言及しなかった。
キプロス当局は2022年にも同国に山火事対応拠点を設置する構想を提案。消防航空機を配備し、南ヨーロッパやレバノン、ヨルダン、イスラエルなど中東諸国で発生する山火事へ迅速に対応する計画だ。
キプロスを含む南ヨーロッパで山火事が多発している背景には、気候変動、地理的・気象的条件、社会経済的要因が複雑に絡み合っている。近年の火災は単なる自然現象にとどまらず、地域社会や経済、環境に深刻な打撃を与えており、欧州全体の課題として議論されている。
第一に、気候変動による気温上昇と乾燥化が最大の要因である。地中海地域は気候変動の「ホットスポット」と呼ばれ、地球平均を上回る速さで気温が上昇している。夏季には40度を超える猛暑が頻発し、降水量は減少傾向にある。その結果、植生は極度に乾燥し、山林や草原は火種一つで燃え広がる状態に置かれている。さらに、長引く熱波や降雨不足による干ばつが重なり、燃料となる落ち葉や低木が蓄積しやすくなっている。特にキプロスやギリシャ、スペイン南部、イタリア南部などは乾燥した夏季が長期化し、火災リスクが恒常化している。
第二に、強風や地形の影響が火災拡大を助長している。南ヨーロッパの地中海沿岸では夏季に乾燥した熱風(例:ギリシャのエテジア風、イタリアのシロッコ風)が吹き、火の勢いを増幅させる。山岳や丘陵地が多い地形も、火炎が風に煽られて谷や斜面を一気に駆け上がる原因となる。キプロスでは山岳部と沿岸部の気温差による局地風が強く、火災が制御不能になるケースが多い。
第三に、人間活動の影響も無視できない。多くの山火事は落雷など自然要因によるものだけでなく、農作業のための野焼き、ゴミの不法投棄、観光客の喫煙やバーベキューといった不注意から発生する。さらに一部では土地開発や保険金目当ての放火も指摘されており、人為的要因が火災件数を押し上げている。南ヨーロッパは観光業が盛んで夏季に人の往来が増えるため、火災リスクは高まる傾向にある。
第四に、森林管理の不十分さが被害の拡大を招いている。都市化や農村の過疎化が進む中で、山林や農地の手入れが行き届かず、可燃性の低木や枯れ枝が大量に放置されている。かつては農民や牧畜民が日常的に草刈りや放牧を行い、火災リスクを抑えていたが、産業構造の変化によってその役割が失われた。行政の防災投資も限られており、消防力の不足が事態を深刻化させている。
第五に、気候変動に伴う火災シーズンの拡大も問題となっている。従来は夏季に集中していた山火事が、春や秋にも発生するようになり、対応期間が長期化している。キプロスやギリシャでは6月以前から火災が発生し、11月まで続くケースもあり、消防当局や市民の負担が大幅に増加している。
また、山火事の被害は環境・社会に深刻な影響を与える。森林が焼失すれば土壌が流出しやすくなり、豪雨の際には洪水や土砂崩れが発生する。観光資源の喪失は地域経済に打撃を与え、農業や水資源にも悪影響を及ぼす。加えて、火災による大量の二酸化炭素排出は温暖化を加速させ、悪循環を形成する。
EUは「レスキュー(RescEU)」と呼ばれる共同消防隊や航空消火機の配備を進め、加盟国間での相互支援体制を整えている。実際にギリシャやキプロスの大規模火災ではフランスやイタリアから消火機が派遣されるなど、国境を超えた連携が強化されている。
しかし、被害の規模と頻度が増す一方で、対応は追いついていない。長期的には再生可能エネルギー導入や森林再生事業の拡大といった気候変動対策が不可欠であり、短期的には地域住民の防災教育や土地管理の徹底が求められている。