終わりなきコロナウイルスとの闘い

ブラジルのコロナウイルス対策は、人命より政治が重要視されている。

同国の感染者数および死者数は右肩上がりで上昇し続けており、手の施しようのないレベルに到達しつつある。ジョンズ・ホプキンズ大学の調査によると、12日時点の累計感染者数は828,810人、41,828人の死亡が確認された。

パンデミックは同国に対する攻撃の手を一向に緩めない。これに対しボルソナロ大統領も軽快なステップでそれを受け流し、「コロナは季節風邪と一緒」「ウォッカやスポーツ観戦で感染予防」「マスク?社会的距離?」などと発言、意に介さない。

しかし、大統領が受け流したコロナウイルスの攻撃は国民の顔面およびボディを的確にとらえている。WHOはラテンアメリカがウイルスの震源地になったと述べ、その中でもブラジルの感染状況が最も深刻である、と危機感を示した。

同国は先の見えないトンネルに迷い込んでしまった。薄明りの中を必死に進むと、分かれ道が現れる。片方は出口、もう片方は次の分かれ道につながっている。

国内で初めて感染者が確認された日から、ボルソナロ大統領は一貫して正しい道を進んでいると確信しており、その考えは今も変わらないようだ。

貧困地域の医療システムは完全に崩壊し、アマゾネスでは死者の埋葬を家族や身内が自主的に行っている。酷い場合は道端に死体の入った袋が放置され、別の感染症にも気を付けねばならない状態だという。

4月の死者数を尋ねられたボルソナロ大統領は、「私は墓堀りではない。死者の数など知らないし、興味もない。コロナは季節性の風邪であり、皆大騒ぎし過ぎである。WHOの推奨する社会的距離を守らずとも、それはいずれ消滅するだろう」と述べた。

サンパウロ市ゲトゥリオバルガス財団の国際関係学教授を務めるオリバー・シュテンケル氏はBBCの取材に対し、ボルソナロ大統領の戦略は単純明快である、と述べた。

さらに、「大統領は、ブラジル史上最悪の経済危機が自分の責任になることを望んでいない。経済状況の悪化および4万人を越える死者が出た原因は、全て州知事や国民自身にある、と考えているのだろう。責任を取る気が一切ないため、のんびり休暇を楽しむこともできる」と付け加えた。

ブラジル/コロナショックとボルソナロ大統領への抗議運動
ブラジル/パンデミックを放置したボルソナロ大統領の罪
ブラジル/コロナウイルスに蹂躙されるアマゾナス州マナウス
ボルソナロ大統領/コロナウイルス情報を政府公式サイトからBAN

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政治vsパンデミック

ブラジル国内における24時間当たりの新規感染者は25,000人~30,000人前後。24時間当たりの死者数は、1,000人以上を継続している。

しかし、ロックダウンの影響で経済活動は著しく低迷し、州政府も段階的な規制緩和に踏み切らざるを得ない状態にある。先日、リオのビーチや公共施設が再開し、今週は最大の感染源であるサンパウロもそれに続く。

さらに大型ショッピングモールなどが一斉に再開し、街は経済活動再開に向けて大きく舵を切った。なお、州間を移動する際の検疫は、ブラジル最大の都市サンパウロのみ月末まで延長された。

医療機関で働くジョシー・アルメイダ・バルビーノ氏はBBCの取材に対し、「ウイルスが蔓延している中、誰がビーチに行くのか。先日同じ日に入院した患者たちは、ICUのベッドで24時間以内に全員亡くなった。ロックダウンを緩和したことで、感染者はさらに増加するだろう」と述べた。

ボルソナロ大統領はコロナウイルスとの戦いを放棄し、政治闘争に全力を注いでいる。現在最高裁判所は、大統領の支持者たちによる偽情報の発信と脅迫行為を調査中。さらに大統領は、家族を保護する目的で連邦警察の捜査に介入(妨害)したと疑われている。

これらのスキャンダルおよび調査が進む中、大統領と司法はにらみ合いを続けている。

パンデミックが終息した時、ブラジルはどうなっているのだろうか。大統領は間違いなく支持率を落としているが、極右思想に基づく支持者および団体の活動は強化されている。現在でも約30%の国民が大統領および現政権を支持しており、その大半が経済活動の再開を望んでいる。

また支持者たちは、コロナウイルスに関連する情報はどれも誇張されており、メディアや州政府は偽情報を発信していると抗議。ソーシャルメディアなどを利用し、大統領への支持を呼びかけ続けている。

反対派はボルソナロ大統領のウイルス対策を非難すると同時に、軍隊の政治介入を恐れている。大統領は20年以上におよんだカステロ・ブランコ将軍の軍事独裁政権を公の場で称賛しており、軍隊の政治介入と最高裁判所の終焉を望んでいる。

パンデミックに乗じ、軍隊の役割が強化されている。期間中、大統領は保険大臣二名を相次いで更迭、医学経歴のないエドゥアルド・パズエロ将軍が暫定大臣の任を受けた。将軍は、コロナウイルスの治療に効果があると”噂された”ヒドロキシクロロキン(抗マラリア薬)の生産を強化している。

ブラジルはどこに向かっているのか。政治はガタガタ、国民はウイルスに蹂躙され、大統領は司法とにらみ合い、軍事独裁政権の復活を虎視眈々と狙っている。世界は同国の危機的状況、そして「ボルソナロウイルス」を無視してはならない。

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