Eスクーターは世紀末の地球を救う救世主?

一部の都市では、「Eスクーター(直立乗車型電動スクーター)」を皆で共有するシステムが展開され、その数は年を追うごとに増加し続けている。一方、それの運行自体を禁止した都市も存在する。Eスクーターは世紀末の地球を救う救世主と言われてきたが、本当なのだろうか。

世界中でコロナウイルスによるロックダウンが段階的に緩和もしくは解除される中、公共交通機関の利用を回避したい人々の需要に応えたEスクーターの人気が急速に高まっている。

車の稼働が減ったことで、各都市の大気状態は劇的に改善。「低炭素社会」を目指す世界の潮流はより一層強くなることが予想されている。数年前から移動に伴う二酸化炭素排出の問題を解決する乗り物として注目されてきたのが、Eスクーターだった。

しかし、電動で動く可愛い乗り物は、大きな論争の的にもなっている。快適かつ地球に優しく移動できる一方、その安全性と持続可能性について様々な疑問が浮上しているのだ。

Eスクーターが市場に投入されたのは10年以上前。その後、人気が急上昇したことで、共有のドックレスモデル(スマートフォンアプリを使ったレンタルシステム)が誕生。手頃な価格で手間なく移動手段を確保できる、と注目を集めた。

欧州を拠点とする”Voi Scooters社”や””TIER社”などの新興企業がEスクーター市場に参入し、結果、世界中の都市はドックレスモデルをこぞって導入し始めた。

現在、この共有スキーム(レンタルシステム)を導入している国は20か国以上、100以上の都市で利用できる。ある調査によると、共有Eスクーターの台数は2019年の77万台から2024年には460万台まで増加すると予想されている。

地球に優しく、二酸化炭素の排出量は車に比べはるかに少ない。おまけに満員電車への乗車を回避し、社会的距離まで確保できる。「文句のつけようがない」「まさに救世主である」と小躍りしたくなるが、それに伴う事故が大きな社会問題になっていることも忘れてはならない。

世界中で共有Eスクーターに関連する事故が続発している。歩行者、視覚障碍者、聴覚障碍者、車いすに乗った人々の行き交う歩道でこれに乗車すれば、いつ事故が起きてもおかしくない。しかし、乗車に伴う規制は国や都市によって様々。事故が続発するのも当然であろう。

また、駐車中の共有Eスクーターに関連する事故やトラブルも多い。点字ブロック状にそれを停めれば、視覚障碍者の通行を妨げてしまう。また、走行中の自転車がそれに接触すれば、転倒し、大怪我につながりかねない。

長所と短所

まずは規制や罰則を厳格に定め、無謀な走行を防止しなければならない。ジャカルタ、シンガポール、上海では、道路や歩道でのEスクーター利用は禁止されている。パリは歩道での走行および駐車を禁止した。他の都市でも、速度制限、設置できる共有Eスクーター数の制限、乗車および駐車できる場所のルール化などが進められている。

さらに、指摘されている問題点は安全面だけではない。走行中は二酸化炭素を排出しないが、製造、輸送、その他管理のプロセス中は別である。また、ほとんどの共有Eスクーターは定期的に収集、充電、再設置する必要があり、それらの工程においても当然二酸化炭素を排出する。

ノースカロライナ州立大学の研究者たちは、共有Eスクーターがあらゆる工程で排出する二酸化炭素量と、他の移動手段(電車、自転車、徒歩など)との値を様々な条件下で比較した。結果、Eスクーターの値は、電車、バス、電気自動車、ハイブリッドカー、自転車、徒歩よりも高くなることが分かった。

共有Eスクーターの二酸化炭素排出量は、耐用年数(寿命)を伸ばすことで削減できる。なお、現在の耐用年数は1年~2年ほどを見込んでいるが、偶発的な故障や破損などを考慮すると、実際に稼働できる期間はそれよりはるかに短い。ケンタッキー州ルイビルでの平均耐用年数は29日だったという。

共有Eスクーターは二酸化炭素を排出しない新たな移動手段として喧伝されてきた。しかし、それ以外にも移動手段は複数存在する。ユーザー調査によると、約44%は使用できるスクーターがなければ徒歩で移動すると回答。30%は公共交通機関を利用、車はわずか4%だった。

環境問題を意識するユーザーが増えたことで、参入企業は耐用年数向上への挑戦を加速されている。”Bird社”の最新モデルは、レンタルシステムで利用しても2年近く運行可能だという。”LIME社”は、2030年までに全運用車両を電気に切り替えることを約束した。

LIME社の持続可能性責任者を務めるアンドリュー・サビッジ氏はBBCの取材に対し、「2030年を待たずに、全運用車両を電気に切り替える予定である。また、パリでは既に100%電気モデルにシフトチェンジし、交換可能なバッテリーを使った試験運用を開始している」と述べた。

持続可能な本体とバッテリーなどが確立された時、Eスクーターは次のフェーズに進む。車を減らし、さらに社会的距離を確保したい顧客のニーズに応えてくれるはずだ。

ロックダウン中および封鎖が緩和されて以降、Eスクーターはハンドル部等の消毒措置を徹底し、再び利用できるようになった。また、小売業者によると、フィンランド、アイルランド、イギリスなどでは個人購入も増加しているという。

クイーンズランド州ブリスベン(オーストラリア)では、共有Eスターターの市場導入テストを1年延長。設置エリアを増やし、郊外での利用を促すべく、インフラ整備を進めている。コロンビアの首都ボゴタでは規制を一部変更。ブエノスアイレスやローマは、自転車やEスクーターを積極的に奨励している。

規制やルール、自転車専用レーン、持続可能な本体とバッテリーが確立した後は、Eスクーターが私たちの生活の一部となり、誰でも好きな時に選択、共有できる「環境」を作らねばならない。公共交通機関との連携も重要になるだろう。

電気自動車の充電スタンドのように、Eスクーターのレンタルスポットが各地に設置される時代が来るかもしれない。それを実現するためには様々な課題をクリアする必要があるものの、コロナウイルスによって社会的距離が重要視されるようになった今、その流れを一気に加速させる時ではないだろうか。

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