薬物の王様
「ヘロイン」はドイツを代表する製薬会社、バイエル社(Bayer AG)の商品名である。アヘンに含まれるジアモルヒネ(3,6-ジアセチルモルヒネともいう)から抽出、生成し、「脳を乗っ取る」と形容されるほど強力な効果を対象者にもたらす。
再生エネルギー業界を引っ張る太陽光発電は、猛烈な直射日光にさらされる厳しい環境下で力を発揮する。
アフガニスタンの農場経営者に太陽光発電が届いたのは10年ほど前のことである。
この国には補助金も余剰電力の買取制度もない。「気候変動に配慮する」という概念も存在しない。そして、太陽光発電が二酸化炭素の排出抑制につながることを知っている者もいない。
アフガニスタンの農業経営者(小規模事業者)は、利益を上げるために太陽光発電を導入した。
同国のアヘン生産者(ケシ農家)は太陽光発電の持つ可能性に気づき、それを利用することで、世界のヘロイン供給量を大幅に増加させた。
アフガニスタン、ヘルマンド渓谷には、緑に覆われた豊かなケシ畑が広がっている。
ヘルマンド州は「世界一危険な国」の中で特に危険と言われる州のひとつである。アフガニスタン紛争中、同地で死亡したイギリス兵は400名以上。これに対峙したターリバーンは、数千名規模の死者を出したとされる。
ヘルマンド州は地球上で最も生産性の高いアヘン栽培地域の中心に位置する。そこで栽培されたほとんどのアヘンはヘロインに精製され、世界を駆け巡るのである。
違法薬物生産の追跡と対策を担当する国連機関、国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、アフガニスタンで栽培されるアヘンの約80%がヘルマンド州とその周辺地域産だという。
これは世界の供給量の3分の2を占める。
彼らは脱炭素化社会を目指しているわけではない。太陽光発電はアヘン、麻薬中毒者たちの欲するヘロインを生み出す道具でしかない。
ヘルマンド州の農民たちは、先進国が生み出した低炭素技術に関心を持ち、利用した。
数年前、ヘルマンドのある砂漠地帯には砂以外何もなかった。
現在、そこには緑に覆われた農場および関連施設が乱造され、かつての面影はない。
その中で特に目を引く施設が等間隔に配置された太陽光発電パネルと貯水池である。
アフガニスタンのアヘン事情に詳しい専門家は、「太陽光発電は新時代のアヘン栽培方法を確立した。彼らは地下水をくみ上げるべく、100mほど掘削、管を根入れする。そして、電動ポンプで水をくみ上げる。先進国では当たり前の技術だが、この国の砂漠地帯には電気がなかったため、太陽光発電が持ち込まれるまでは、電動ポンプを動かすことができなかった」と述べた。
太陽光発電とヘロイン
2013年、アフガニスタンの農民は初めてアヘン栽培に太陽光発電を採用した。
翌年、ある輸入業者がヘルマンド州の州都ラシュカルガーにソーラーパネルを仕入れていた。
以来、太陽光発電の導入量は指数関数的に増加した。ヘルマンド州の農場に設置されるソーラーパネルの数は毎年倍増しており、その勢いは現在も衰えていない。
ラシュカルガーの市場には、今も恐ろしい数のソーラーパネルが積み上げられている。これらは農場経営者に引き取られる時を待っているのだ。
太陽光発電はアフガニスタンのアヘン栽培に革命をもたらした。
ある農夫は、数週間前まで砂漠だった土地に巨大な貯水池を造った。地中深くに埋められた管を通し、大量の水が地下から際限なくくみ上げられ、人造池を形成したのである。
砂漠に設置された小さなソーラーパネルは、照り付ける日光を電気に変える。太陽光は休むことなく降り注ぎ、電動ポンプに力を与える。農夫のケシ畑は豊かな地下水の恵みを受け、繁栄した。
アフガニスタンで活動するデビッド・マンスフィールド博士はBBCの取材に対し、「ソーラーはアヘン栽培の全てを変えた」と述べた。
マンスフィールド博士はアフガニスタンのアヘン生産を25年以上研究しており、太陽光発電の導入を史上最大の技術進化と説明した。
以前、地下水をくみ上げるためには、発電機が必要不可欠だった。
発電機の力で地下から水をくみ上げるためには、ガソリンを湯水のように使わなければならなかった。
マンスフィールド博士は次のように述べた。
「ガソリンは農民の悩みのタネだった。水をくみ上げるために高価なガソリンを使うと、出費がかさむ。また、アフガニスタンのガソリンには不純物が含まれているため、発電機の故障は日常茶飯事だった」
現在、5,000ドル(約53万円)支払えばソーラーパネルと電動ポンプを購入できる。標準的なケシ畑(中規模)であれば、この1セットで運用可能だという。設置後のランニングコストはゼロ(メンテナンス費除く)。当然、水も無料である。
ソーラーはアヘン栽培の生産性を爆発的に向上させた。ある農夫は、「どんなローンも数年以内に返済できる。ガソリン代がかからなくなり、水は使い放題。アフガニスタンの気候と地中から湧きだす水を組み合わせれば、ケシは際限なく育つだろう」と述べた。
2012年、ヘルマンド渓谷に広がる耕作地の広さは約157,000ヘクタール(東京ドーム33,580個分)だった。
翌年から太陽光発電の導入が始まり、何もなかった砂漠に緑をもたらした。以来、耕作地は毎年数万ヘクタールずつ増加している。
2018年には2012年の倍、317,000ヘクタール(東京ドーム67,800個分)を超えた。
2019年の耕作面積は344,000ヘクタールだった。
地下からくみ上げられる豊かな水は、砂漠地帯に緑とアヘンをもたらした。
耕作地の拡大に伴い、人口も増加した。過去5年間で約50万人がヘルマンドの砂漠地帯に移住し、48,000軒以上の住宅が建設された。
国連は毎年世界中で生産される違法薬物の量を調査している。太陽光発電が導入される前の2012年、アフガニスタンは約3,700トンのアヘンを生産した。
2016年の推定生産量は4,800トン。2017年には過去最高となる9,000トンを生産した。しかし、供給量が増え過ぎたことで価格の暴落を招いた。
2018年と2019年、ヘルマンド州を除くほとんどの地域でアヘン生産量が減少。しかし、ヘルマンド渓谷の耕作地は増加し続けた。
麻薬の王様アフガンヘロインは、コロナウイルスや大量失業の影響を一切受けず生産され続けている。そして、世界のジャンキー、失業によって人生を狂わされた未来のジャンキー候補の手元に届くのである。
Hhhmmm,,,brings new meaning to the concept of "green": BBC News - What the heroin industry can teach us about solar power https://t.co/sMqYrjTH2Y
— All Things Recovery (@JimmyCioe) July 27, 2020