人種差別に関連するモニュメントを破壊しても火に油を注ぐだけ、まさに愚行である

7日、人種差別に反対するイギリスの抗議者たちは、17世紀の奴隷商人「エドワード・コルストン像」を破棄、港から海に投棄した。

コルストンの船は、アフリカからアメリカ大陸に約8万人の黒人男女、子供を輸送したと言われている。この像は、故郷ブリストンで何世紀にも渡って愛されてきた。

イギリス政府はこの行為を非難したが、「抗議者たちは根深い人種差別問題の解決を望んでいる」というコメントも付け加えた。

歴史家のデビッド・オルソガ氏はBBCの取材に対し、「コルストンの銅像は、この男の実績を正しい、と肯定している。しかし、彼は奴隷商人であり、殺人者だった」と述べた。

スコットランドの首都エディンバラにある「メルビルモニュメント」は、1823年にヘンリー・ダンダスを祈念して建設された。彼は18世紀末から19世紀にかけて活躍した政治家で、”無冠の王”というニックネームを持つ。

ダンダスは、1792年に提出された奴隷制度廃止法案を修正したことで知られる。この修正によって、奴隷制度の廃止は15年以上遅れることになった

何千人ものスコットランド国民が、メルビルモニュメントの撤去を求める請願書に署名した。また一部の暴徒による落書きも確認されている。

ベルギーでは、同国史上最も長く君臨した国王「レオポルド二世像」の解体を求める意見が噴出している。ヘント市の植民地時代を象徴する王の銅像は、赤く塗りつぶされ、ジョージ・フロイド氏が最期に発したとされる「息ができない」と書かれた布がかぶせられた。

アントワープでは、暴徒化した抗議者たちが王の像に火を放った。その後、像は同国の博物館が撤去、破却された。また首都ブリュッセルでも「人殺し」と書かれた像が複数確認されている。

ベルギーを代表する偉人のひとりとされてきたレオポルド二世は、コンゴを征服し、同国内に”黒人動物園”を設置したことで知られる。

アメリカ、バージニア州では、独立戦争南部連合軍の英雄「ロバート・E・リー像」の撤去が進められている。ラルフ・ノーサム州知事は1890年に設置された記念碑を撤去すると発表、「あの像は長い間存在していた。今は、存在自体が間違いだと確信している。だから撤去を決めた」とコメントした。

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モニュメントを怒りのままに破壊することで、人種差別思想は増幅される

人種差別に関連する像を撤去(破壊)したからといって、人種差別がなくなるわけではない。皆で話し合い、これを撤去するのであればまだよい。しかし、一方的に悪と決めつけ、怒りのままに破壊することはただの愚行、馬鹿の極みである。

像やモニュメントを力づくで破壊する者たちは、「ジョージ・フロイド氏の死に抗議している」と言う。しかし、像を力づくで破壊する行為は、白人に銃を向け引き金を引くことと同じである。

やられたらやり返す/目には目を、歯には歯を」は、暴力以外の行為にも当てはまる。WHOを中国寄りと考えたトランプ大統領は、怒りのままに資金提供を停止、組織からの脱退を表明した。これも立派なやられたらやり返すである。

人種差別を連想される像やモニュメントはいらない、と考えるのであれば、落書きや破壊などせず、皆で話し合い撤去しなければならない。仮にレオポルド二世を支持する誤った思想の持主、白人至上主義の男性がいたとしたら、彼はどう思うだろうか。

像の破壊に憤慨した男性は、銃を手に取るかもしれない。事実、イリノイ州シカゴでは、5月末の週末だけで黒人が20人近く殺害されている。恐らく、フロイド氏の死に関連するものばかりであろう(いずれのケースも現在当局が捜査中)。

一部の州知事や市長は警察の解体、改革を推し進め、予算をカットするという強硬手段まで出る始末。これもやられたらやり返すの典型、トランプ大統領と全く同じである。真面目に働く白人警官であれば、それを受け入れ、機構の見直しに協力するかもしれない。

しかし、フロイド氏を殺害した「デレク・ショービン容疑者」のような思想を持つ者がいたとしたら。恐らく、予算カットという強硬なやり方に反発するだろう。その際、平和的な抗議、異議申し立て、といった方法で反発するのであればまだよい。しかし、怒りに支配され銃を手に取ったとしたら、同じことの繰り返しである。

像やモニュメントを破壊することで差別が解消されると考える方は、人種差別に毒された人間が抵抗してこないと思っているのだろうか。残念ながら、あり得ない。

像の破壊行為が新しい暴力を生み、黒人が犠牲になる。「次、黒人が射殺されたら、仕返しに白人警官を射殺する」では事態の悪化を招くだけ。人種差別は未来永劫なくならないだろう。

ヒトラーに屈しなかった第二次世界大戦の英雄、イギリスの宰相「ウィンストン・チャーチル像」も抗議者に落書きされ、惨憺たる姿をさらしている。チャーチル元首相は最も偉大なリーダーのひとりであり、死後60年近く経った今も、世界から愛され続けている。

しかし、イギリスと世界を救った英雄も白人至上主義者と考えられており、今回の落書き攻撃に至った。

9日、フロイド氏の葬儀が厳かに執り行われ、遺族が弔辞を述べた。この中で遺族は、「容疑者たちに対し公正な裁きが下され、かつ、暴力的な抗議活動ではなく、平和的な話し合いによる問題の解決」を強く求めた。

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