世界中の中国人コミュニティにとって、「WeChat」は単なるチャットアプリではない。
それは、家族や友人と簡単かつ無料で連絡を取ることのできる主要な手段である。日本のスマートフォン利用者の95%以上が使用する「LINE」と同じような機能を有しており、中国人の日常生活に浸透しきっていた。
先週、ドナルド・トランプ大統領は、アメリカの企業に対し、WeChatとのビジネスを禁じる大統領令に署名。同国内の中国人コミュニティに衝撃を与えた。
上海で生活する住民はBBCの取材に対し、「WeChatは世界中のどこにいてもつながる。中国語を話す人々にとって、それは生活に欠かすことのできないツールであり、奪われるなど考えたこともなかった」と述べた。
約11億人のユーザー(LINE:4億人)に支持される巨大チャットアプリは、主に家族や友人などとコミュニケーションをとるために利用されている。また、社内の情報を共有する連絡板として使用する企業も多く、日常の様々な場面で大活躍している。
しかし、WeChatは中国共産党の主要な監視装置と見なされており、それが事実であることも明らかになっている。
武漢の医師、李文亮氏は、WeChatで同僚にメッセージを送信。中国国内でのコロナウイルス発生について警告したのち、当局に逮捕された。
また、カナダのオンタリオ州トロントに拠点を置く研究グループは、WeChatがコロナウイルスに関連する情報を検疫していたと発表、中国共産党との明確なつながりが指摘された。
WeChatが11億人ものユーザーから支持を集めた理由は、中国国内でWhatsAppやインスタグラムのようなアメリカ製アプリが禁止されているためである。
大統領令への署名を発表したトランプ大統領は、WeChatを国家安全保障に対する脅威と述べた。同アプリは使用者のスマートフォンに侵入し、アメリカ人の個人情報や機密情報を脅かしているという。
WeChatを所有するTenCentは、2020年9月中旬までにこのアプリをアメリカ企業に売却するか、アメリカ国内での運用を禁止するよう命じられた。
中国の技術革新の顕著な例として紹介されるWeChatをブロックする動きは、アメリカ国内で生活する中国人の反発を招いた。彼らは自分たちの文化、家族や友人、そして母国を攻撃されたと感じている。
アメリカ国内で生活する中国人たちはこの決定にショックを受けており、日常生活に欠かすことのできないアプリの未来を心配している。
多くの穏やかな中国人たちは、愛する人との連絡手段を奪われるだけでなく、米中関係の壊滅的な未来についても心配しなければならない。
カリフォルニア大学で学ぶアメリカ人のジェニーは、講義だけでなくWeChatの閲覧でも中国語を学んでいた。彼女はBBCの取材に対し、「大統領令名のニュースを聞いた時、最初は冗談だと思った。しかし、WeChatはこのままだとアメリカ国内で使用できなくなる。私はただただ頭にきた」と語った。
ジェニーは1日約4時間、WeChatを使用し、様々な人々と中国語で連絡をとっていた。また、中国のメディア情報、コンテンツクリエーター、企業の公開アカウントに投稿された中国語の記事を読み、実力を磨いた。
六四天安門事件が発生した6月4日、ジェニーは1センテンスの記念ポストを公開した。しかし、それはすぐに削除され、彼女のパブリックアカウントは消去された。
ジェニーはWeChatの情報が中国共産党に閲覧されていることを心配しつつ、トランプ大統領の狂犬的なやり方にも異議を唱えた。
「トランプ大統領やり方は中国共産党と同じ。自分の都合の悪い相手を破壊する検疫行為でしかない」
ジェニーは2年前にWeChatで検疫されるまで、自分のパブリックアカウントを公開していた。
コミュニティツール
アメリカ国内で暮らす中国人移民たちも、WeChat禁止に失望感を示した。
カリフォルニア州の中国人移民、マイリー・ソング氏は、ホワイトハウスの動きを「歓迎されないただの破壊行為」と考えている。
ソング氏は主婦として生活する傍ら、このアプリをよく使用していたという。トランプ大統領の発表を受け、中国にいる両親と連絡をとったそうだ。
彼女はアメリカを自由の国と信じる一方、中国との対決姿勢を前面に押し出すトランプ大統領の政権運営には否定的な立場をとった。
ソング氏はBBCの取材に対し、「私の両親は大統領の発言に興味を示さず、WeChatは世界中に浸透しており、簡単に禁止することはできない、と言った。それが事実は否かは分からないが、確かに数億人のユーザーを締め出すことは難しいのかもしれない」と述べた。。
WeChatが禁止されても代替え手段は存在する。ソング氏も「使えなくなればそれまでのこと」と割り切っていた。
しかし彼女は、今、このタイミングで中国への攻撃を強化したトランプ大統領のやり方とアメリカの未来、そして自分の将来について心配している。
アメリカは現在パンデミックの真っただ中、11月3日の大統領選挙は国の運命を決める一戦になる。ソング氏は、ホワイトハウスが国民の目をコロナウイルスの感染者や死者から逸らせることだけに集中していると吐き捨てた。
「トランプ大統領は11月3日のことしか考えていない。コロナウイルスの影響で15万人以上が死亡し、医療関係者は命がけで戦っている。今、アプリの取り締まりを行って何の意味があるのか。やるべきことが他にあるはずだ」
中国で生活する多くのアメリカ人がWeChat禁止に難色を示している。
レイチェルはワシントンD.C.で学生生活を過ごし、現在上海で働いている。
レイチェルはBBCの取材に対し、「中国で生活する場合、2つの主要アプリをダウンロードしなければ生活に支障をきたす。1つはWeChat、もう1つはAirPay。スーパーやドラッグストアで飲み物を購入したければ、WeChatPayもしくはAirPayを開いてQRコードをスキャンし、料金を支払う。現金を扱う店舗はほとんどない」と述べた。
WeChatは当局のコロナウイルス感染予防対策にも一役買っている。
現在、中国国内のデパートなどに入店する場合、必ず入り口の警備員に自分のQRコードを提示しなければならない。
WeChatのコードをスキャンし、過去14日間の間に感染リスクの高い場所へ立ち寄っていれば黄色もしくは赤色が表示され、入店できない。厳しすぎるという批判的な意見もあるが、感染予防対策に大きな効果を上げていることは間違いないだろう。
なお、中国国内にいる限り、WeChatは使用できる。ただし、アメリカ国内の友人や家族がシャットダウンされてしまえば、それでコミュニケーションをとることは不可能になるはずだ。
レイチェルはアメリカ国内でWeChatが禁止された場合、中国国内でも使用できるLINEや他の仮想プライベートネットワークを代替ツールにしたいと述べた。
8月10日、ホワイトハウスで記者会見したトランプ大統領は、シークレットサービスの発言に顔色を変え、記者会見場から退室した。
シークレットサービスによると、17番街とペンシルベニアアベニューの角付近、ホワイトハウスとの境界近くで事件が発生したとのこと。
現地付近にいた身元不明の男に警察官が職務質問したところ、「武器を持っている」と返答。警察官は銃を抜き、男の胴体に弾丸を撃ち込んだという。
シークレットサービスは、男が武装していたか否かについて答えなかった。また、「警察官と容疑者が病院に搬送」され、事件発生から現在まで「ホワイトハウスに攻撃を加えようとする動きは一切なかった」と述べた。
トランプ大統領は約9分後にカムバック、記者団に対し、「誰かが職務を執行した。容疑者を撃ったようだ。詳細な経緯は確認していないが、私とは何の関係もないと思う」と語った。
記者団のひとりがトランプ大統領に対し、「今回の出来事があなたと関連していれば、どう思うか?」と質問すると、「私が動揺しているように見えるか?」と返答した。
また、「銃を使う犯罪はどこでも起こりうる。残念なことだが、世界は常に危険と隣り合わせ、と認識すべきだ」と付け加えた。
コロンビア特別区の消防署はAP通信の取材に対し、「男は重症もしくは重篤な怪我を負った。この男が精神疾患を患っているか否かについては、当局が調査することになるだろう」と述べた。
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