バイデン氏もケノーシャを電撃訪問
民主党大統領候補のジョー・バイデン氏は、今回の選挙に大きな影響を与える可能性のあるウィスコンシン州ケノーシャを訪問した。
9月3日、バイデン氏は背後から銃撃され負傷した「ジェイコブ・ブレイク氏」と電話で話し、人種差別問題解決への決意を新たにした。
バイデン夫妻は、ミルウォーキージェネラル・ミッチェル国際空港からコミュニティリーダーとのミーティング会場に向かった。
夫妻は会場からブレイク氏の病院に電話をかけ、集中治療室から出た本人と言葉をかわした。人権弁護士のベン・クランプ氏は、バイデン氏とブレイク氏の母親も電話で話したと述べた。
ベン・クランプ氏:
「ブレイク氏の家族は電話に感謝し、バイデン氏が熱心に話を聞いてくれた、と感銘を受けていた」
「バイデン氏はブレイク氏の家族に対し、アメリカは国民すべてのものであり、誰もが平等、自由、公正に扱われることが重要であると語り、肌の色の違いから生まれた人種差別を徹底的に見直さねばならないと述べた」
「ブレイク氏はバイデン氏の考えに感銘を受け、当たり前のことが当たり前でなくなった今を変えるには、彼の力が必要だと述べた」
ブレイク氏の母親はバイデン氏に対し以下の内容を確認し、納得した様子だったという。
①少数民族と警察組織との間に構築されている関係の変化
②バイデン氏がカマラ・ハリス氏をランニングメイトに選んだ理由と世界に与える影響
③ブレイク氏が受けた痛みと家族が耐え忍んでいる苦しみの共有
ブレイク氏の母親はバイデン氏に対し、「私はジェイコブのために祈り、そして真面目で心の優しい実直な全警察官のために祈っている。事態が終息することを心から願っている」と述べた。
バイデン氏はブレイク氏と家族について、「彼らは自分たちが傷つけられたことより、真面目に公務を遂行する正直で公正な警察官の未来を案じ、そして、国民がこれ以上誰も傷つかないことだけを願っている」と語った。
バイデンキャンペーンチームは今回の訪問に関する声明を発表した。
キャンペーンチーム:
「バイデン前副大統領は、アメリカ国民のブレイク氏がケノーシャの警察官に背後から7発撃たれた問題を解決し、そして私たちが現在直面している課題に対処し、アメリカをひとつにまとめ上げるべく、ウィスコンシン州を訪れた」
バイデン氏の戦略は一貫している。人種差別問題に共感する候補者として自分を売り込み、人種差別より経済対策を優先し、本来あるべき正義を求めないトランプ大統領との違いを強調するためである。
6月、バイデン氏はミネアポリスで拘束中に殺害されたジョージ・フロイド氏の家族とも面会し、同氏の葬儀で弔辞も述べた。
バイデンキャンペーンチームは、ケノーシャのグレースルーテル教会でミーティングを開催した。なお、出席者の人数を制限し、メディアやスタッフを含む全員が社会的距離の確保およびマスク着用を義務付けられた。
ミーティングには聖職者、政治家、警察官を含む約20人のコミュニティリーダーが出席した。
バイデン氏は自分が発言する前に、コミュニティリーダーたちに意見や懸念事項などを述べてもらい、ウィスコンシン州の現状に耳を傾けた。
バイデン氏は出席者に向けて以下のように語った。
ジョー・バイデン氏:
「アメリカ合衆国の大統領はどんなに有能または無能であっても、国民を戦争に送り出すことができる。しかし、やり方を変えれば平和をもたらすことができるし、皆が求めている人種差別の撤廃に向け努力することもできる」
「株式市場の上げ下げに注力してもよい。しかし、今、アメリカ国民が求めていることは、現状との違いを生み出すことであり、私はそのために立候補した」
「息子のボーが死んだ時、私は大統領候補に立候補することなどないと思っていた。しかし、今日、改めて自分に誓いを立てた」
「私はバージニア州シャーロッツビルで開催された白人至上主義者たちの集会を見て、トランプ大統領の間違いを正さねばならないと決めた」
バイデン氏のケノーシャミーティング
ウィスコンシン州の結果が勝敗を左右する
バイデン氏は、今回のウィスコンシン州ケノーシャへの訪問の目的を「癒し」と述べていた。
バイデン氏は出席者に対し、「私たちは物事をまとめなければならない。私の目的は国民をひとつにまとめることである。今、起こっている問題を解決するためには、分断ではなく、協調が必要であり、私はそれらを必ず達成する」と語った。
17歳のカイル・リッテンハウスがケノーシャの抗議集会で2人を射殺した後、ブレイク氏への銃撃を巡る一連の抗議活動は激しさを増し、11月3日の大統領選挙に大きな影響を与える規模にまで発展した。
なお、#リッテンハウス(#Rittenhouse)に関連付けられたソーシャルメディアアカウントには、トランプ大統領をサポートするリンクへもアクセスできる。
バイデンキャンペーンチームは、今回の訪問に加えて、3日から「私たちは聞いている/正義を問う時が来た」という新しい広告の配信を開始した。
この広告はミシガン州、ノースカロライナ州、ペンシルバニア州、ウィスコンシン州で放送され、今週だけで5つのバージョン、計4,500万ドルをかけてバイデン氏を宣伝する。
ウィスコンシン州は大統領選挙の命運を左右する重要な州である。
ただし、理由は代議員の数ではなく、ジョージ・フロイド氏の事件で分断したアメリカをさらに強く引き裂いたこの州の人々が「経済優先のトランプ大統領」と「協調を優先するバイデン氏」のどちらを選ぶかで、他の州の情勢に大きな影響を与えるためである。
2016年、トランプ大統領は僅差でウィスコンシン州を制した。そしてここ数十年の間、同州を制した候補が必ず大統領になっているのである。
トランプ大統領は「法と秩序」「経済優先」を前面に押し出している。一方のバイデン氏は「人種差別の是正/協調」「コロナ対策優先」と、現職とは真逆の政策を推し進め、違いを強調した。
今回の両大統領候補の現地視察について、ウィスコンシン州のトニー・エバーズ州知事は、「現場は復旧活動で忙しい。トランプ大統領もバイデン候補も、今、ここには必要ない」と述べた。
ケノーシャのBlack Lives Matter運動に参加する抗議者の一部は、トランプ大統領がバイデン氏より早く現地視察を行ったことに失望したと述べている。
また、ウィスコンシン州の民主党員は、パンデミックの影響で中止されたミルウォーキーでの全国党大会の代替えプランがないことに不満を漏らしている。
バイデン氏およびキャンペーンチームの動きに不満を漏らす人々は、2016年の敗北が繰り返される可能性と、現職が圧倒的に有利だと理解し、焦っている。
グレースルーテル教会でバイデン氏がスピーチを始めた時、彼を支持する有権者とBlack Lives Matter運動の抗議者たちが集まり、トランプ大統領の撤退を求めていた。
一方、トランプキャンペーンチームのマネジャーを務めるビル・スティーブン氏はお膝元のフォックスニュースの取材に対し、「バイデン氏の訪問は不適切である」と語った。
ビル・スティーブン氏:
「トランプ大統領はアメリカをまとめる現職の大統領としてケノーシャに足を運び、現地の状況を視察した。しかし、バイデン氏は民主党の大統領候補として自分を売り込むために視察した。両者の目的は全く違う」
NAACP公民権グループの地方支部長を務めるアンソニー・デイビス氏はBBCの取材に対し、「両陣営の訪問に強く反対する」と述べた。
アンソニー・デイビス氏:
「ケノーシャは彼らを歓迎する。しかし、今、この街のバランスは大きく崩れている。コミュニティは自分たちの力で傷を癒し、街の復興を進めている最中だ。地元の人々はトランプ大統領やバイデン氏より、この街のことを知っている。二人はもっと本質的な問題(人種差別)の解決に向けて話し合うべきだ」
バイデン氏はジェイコブ・ブレイク氏を背後から7発撃った警察官の逮捕を求めている。
9月2日、ウィリアム・バー司法長官は記者団に対し、「ジョージ・フロイド氏の事件とは状況が全く異なる。フロイド氏は制圧され、手錠をかけられ、武器を持っていない状態で殺害された。しかし、ブレイク氏は重罪を犯している最中であり、武装していた」と述べた。
ブレイク氏は撃たれた時、武装していなかった。なお、その後の調査で、別の捜査官がブレイク氏の車両からナイフを押収している。
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