テイラー氏を射殺した警察官、殺人罪で起訴されず
3月13日、アメリカ、ケンタッキー州の自宅でアフリカ系アメリカ人の黒人女性「ブレオナ・テイラー氏」は、3人の私服警察官の襲撃を受け、射殺された。
病院に勤めていたテイラー氏は、元ボーイフレンドの麻薬取引に関わっていると疑われ、数発の銃弾を浴び、死亡した。
テイラー氏を射殺したとされるブレット・ハンキソンはケンタッキー州ルイビルの警察を解雇され、9月23日に起訴されることが決まった。
ケンタッキー州検事総長のダニエル・キャメロン氏は記者団に対し、「殺人罪は適用せず、隣人等を危険にさらしたことによる計3つの罪で起訴する」と発表した。
なお、ハンキソンと同じく銃撃に関与した他の現職警察官2名は起訴されない。
テイラー家の弁護士を務めるベン・クランプ氏は23日に声明を発表。「何の罪も犯していない善良な民間人が処刑された。州当局の発表は不快極まりない」と述べた。
テイラー氏の死に抗議する親族、そして数千人規模の抗議者たちは、3人の白人警察官に対し、殺人罪もしくは過失致死罪が適用されることを望んでいた。
しかし、事件を検討した州当局は、この主張を却下した。
ベン・クランプ氏:
「ブレット・ハンキソンの行動がアパートの住人を危険にさらしていたことは理解できる」
「テイラー氏も不必要な危険にさらされた。彼女は事件や麻薬とは一切関わっていないと証明されている。ハンキソンの行為は殺人以外の何ものでもない」
州当局の発表
23日、ケンタッキー州のアニー・オコンネル裁判官は、ハンキソンに対する審理の結果を発表した。
その後、ケンタッキー州検事総長のキャメロン氏は記者会見を開き、審理の詳細を説明。「テイラー氏の事件は辛く感情的なものである」と語った。
ダニエル・キャメロン検事総長:
「今日、テイラー氏を失った家族、姉妹、姪の悲しみと心痛を取り除くことはできない」
「調査の結果、テイラー氏に当たった銃弾は計6発、うち1発が致命的なものだった。その1発を放った警察官はマイルズ・コスグローブだったと結論づけられた」
キャメロン氏は、今回3件の罪で起訴されたハンキソンの銃弾がテイラー氏に当たったか否かは明確にしなかったが、隣のアパートに被害を与えたことは認めた。
キャメロン氏は、起訴されないことが決まった現職のジョナサン・マッティグリーとコスグローブについて、「彼らの銃撃は正当防衛と認められた。正当性が認められた以上、起訴することはできない」と述べた。
ケンタッキー州初の黒人検事総長になった共和党員のキャメロン氏は、以下のように述べた。
ダニエル・キャメロン検事総長:
「正義を守るためには、怒りの感情をコントロールしなければならない」
「暴徒は怒りを正義と主張するが、それは大きな間違いである。暴力によって達成される正義などない。それはただの復讐だ」
「現在、連邦捜査局(FBI)が事件の調査を続けている」
ケンタッキー州兵の広報担当、スティーブン・マーティン少佐はABCニュースの取材に対し、「アンディ・ベシャー州知事の指示に従い、州兵の一部がルイビルに配備された」とコメントした。
スティーブン・マーティン少佐:
「我々は重要な施設を保護し、”限られた特定の任務”に従事する。州兵たちは、ルイビルの警察当局と協力しながら、指揮統制を維持するよう指示されている」
ルイビル市のグレッグ・フィッシャー市長は、23日夜から72時間の夜間外出制限が始まると声明を発表した。
またフィッシャー市長は記者団に対し、「バーズタウン・ロードでの抗議活動中に逮捕者が出た」と語った。
地元メディアによると、抗議者の一部が市内の家具店を破壊、機動隊に取り押さえられたという。
フィッシャー市長は逮捕者および事件の詳細を明らかにしなかった。なお、警察官たちは警察車両でルイビルの大通りを封鎖し、一般人の立ち入りを禁止している。
テイラー氏の弁護団
テイラー家の弁護士を務めるベン・クランプ氏は、「州当局の発表に困惑している。とんでもないことであり、不快極まりない」と語った。
今月、ルイビル市はテイラー家に対し和解金1,200万ドルを支払い、事件が誤りだったことを認めていた。
ケンタッキー州当局の発表を受け、ホワイトハウスで記者会見したドナルド・トランプ大統領は、「素晴らしい判断だ。彼らは正義を貫いた」と公式声明を発表した。
先月、トランプ大統領は、共和党大会で演説したキャメロン検事総長についてに、「ダニエルは素晴らしい仕事をしてくれた。彼は共和党のスターだ」と称賛している。
一方、同州のアンディ・ベシャー民主党州知事は、裁判所から提出された証拠を大至急公開するよう求めた。
アンディ・ベシャー州知事:
「テイラー氏の事件に関連する情報をもっと公開しなければならない。私はもっと多くの事実、そして真実があると思っている」
ルイビル市では22日に緊急事態が宣言され、抗議活動の激化が予想されている。
現地に配備された警察官、機動隊、そして州兵は武装車両およびバリケードで大通りを封鎖し、暴力的な抗議活動に備えている。
フィッシャー市長は72時間の夜間外出制限(21;00~6;30)を発表。また、緊急事態宣言については、「大規模な破壊行為に発展する可能性があるため発出した」と語った。
テイラー氏の死をめぐる抗議活動は、市内で100日以上続いている。
6月、州当局はBlack Lives Matterを力づくで解散させた際、機動隊の1人が黒人のレストランオーナーに発砲、銃殺し、火に油を注いだ。
その後、レストランオーナーのデビッド・マカティー氏を射殺した警察官はボディカメラを意図的に作動させていなかったことが判明。ルイビル市の警察署長が責任をとり、辞任した。
ブレオナ・テイラー射殺事件
3月13日金曜日の真夜中、テイラー氏はボーイフレンドのケネス・ウォーカー氏と一緒にベッドで寝ていた。
そこに、麻薬取締捜査にあたっていた私服警察官3人がドアを破壊し、乱入。報告書によると、警察官たちは令状を提示することなくドアを破壊、室内に飛び込んできたという。
ケンタッキー州の裁判官は、有罪判決を受けた麻薬の売人(テイラー氏の元ボーイフレンド)、ジャマーカス・グローバーが荷物を受け取る施設の住所を明かさなかったため、テイラー氏宅の令状を発行した。
テイラー氏に前科はなく、自宅から麻薬およびそれに関連する情報は何一つ発見されなかった。
ニューヨーク・タイムズによると、襲撃を受けたウォーカー氏は、襲撃者を売人のグローバーと勘違いし、玄関付近に向け発砲したという。なお、グローバー氏は銃の所持許可を得ている。
警察当局によると、ウォーカー氏の銃弾は、今回起訴されないことが決まったジョナサン・マッティグリーの足に当たったという。
弾道調査を行ったFBIは、「3人の私服警察官は、テイラー氏とウォーカー氏に向けて計32発発砲した」とコメントした。
私服警察官の襲撃に気づいたテイラー氏は計6発被弾し、うち1発が致命傷になった。
今回の記者会見の中でキャメロン検事総長は、ハンキソンたちが令状を持っていなかったと発表。ただし、テイラー氏のアパートに踏み込んだ際、「自らを警察官と名乗ったことは間違いなく、その事実は独立した証人によっては裏付けられている」とコメントした。
一方、テイラー氏と同じフロアの住人は地元メディアに対し、「警察官たちはドアを破壊し、何も言わずに発砲したと思う。人の声は全く聞こえず、突然銃撃戦になった」と語っている。
ケンタッキー州ジェファーソン郡のトーマス・ワイン検察官は以前、「令状は事件後に取り消された」と主張している。
その後、ウォーカー氏は警察官への殺人未遂および暴行の罪で起訴されたが、事件の異常性およびFBI等の調査が進められた結果、起訴は5月に取り下げられた。
ハンキソンは当局による調査の中で、「対象者から反撃を受けたため、警告の意味も含めて10発発砲した」と供述、ルイビル警察を解雇された。
なお、マッティグリーとコスグローブは捜査部門から管理業務に異動、現職警官として仕事を続けている。
マッティグリーは1,000人以上の同僚に電子メールを送り、市長、警察当局、そして抗議者たちを非難した。
ジョナサン・マッティグリー:
「私たちは3人は、警察官としての職務を法的、道徳的、倫理的に守り、正しく遂行した」
「善意の警察官が排除され、犯罪者が正当化されることはとても悲しい」
「我々の公民権は何の役にも立たない。しかし、黒人犯罪者は完璧かつ完全な自治権を持っている」
殺人罪は適用されず/ワシントン・ポスト