◎ワクチン接種の優先リストの上位にアスリートがランク付けされると、多くの論争を引き起こす可能性がある。
◎一部の関係者は、現在のワクチンの供給量(米は1日約160万回、英は約30万回)を考えると、東京2020の出場予定選手、約11,000人への接種はたやすいと主張している。
コロナウイルスの勢いは2021年に入っても一向に衰えず、東京2020オリンピックおよびパラリンピックの開催は不確実性に包まれている。
昨年11月、国際オリンピック委員会(IOC)のトーマス・バッハ会長は、効果的なワクチンが大会の安全な運営に役立つことを期待していると述べた。
2か月後、ワクチンの接種は世界中で始まっているが、供給の遅れが展開プロセスを妨げており、特にヨーロッパと日本の接種状況は芳しくない。
マニトバ大学(カナダ)の感染症専門家のジェイソン・キンドラチュク博士はCNNニュースの取材に対し、「コロナウイルスを終息させるためには、効果的なワクチンをより多くの人に接種しなければならない。接種率を上げることで感染率は低下し、混乱は制御され、通常のライフスタイルを取り戻せるだろう」と述べた。
ジェイソン・キンドラチュク博士:
「しかし、昨年末頃から世界中で様々なワクチンが展開されているが、感染を抑えることはできておらず、悪化している国まである」
一方、バッハ会長は以前の声明の中で、「主催者は大会に臨む選手とその他の訪問者へのワクチン接種のために努力する」と述べたが、「ワクチン接種を出場要件に加える」という提案は拒否した。
ワクチン接種の優先リストの上位に選手がランク付けされると、多くの論争を引き起こす可能性がある。
2016年のリオ大会に出場したある選手は、「リストの上位に入ることを望む代表選手はいないと思う」と述べた。
バッハ会長は選手を優先するとは述べていないが、努力するという発言が物議を醸し、ソーシャルメディアなどに様々な意見が寄せられた。
ある女子選手は、「医療関係者、老人、教師、警察...これらの最前線に立っている全ての人々は、間違いなく私たちより先にワクチンを接種しなければならない」と述べた。
なお、一部の関係者は、現在のワクチンの供給量(米は1日約160万回、英は約30万回)を考えると、東京2020の出場予定選手、約11,000人への接種は容易いと主張している。
IOCは1月26日の声明の中で、移民の手続き、検疫措置、コロナ検査、個人用保護具、コンタクトトレーシングなど、大会中に実施される「コロナウイルス対策のツールボックス」の内容を概説した。
<IOCの声明の要点:2021年1月26日>
・ワクチンはツールボックスの中に含まれる対策のひとつであり、適切なタイミングと方法で使用できる。
・IOCは国内オリンピック委員会(NOC)と協力して、アスリート、役員、利害関係者が日本に行く前に、国の予防接種ガイドラインに従って母国で予防接種を受けることを奨励および支援する。
・IOCは、脆弱な人々、看護師、医師、そして社会を安全に保つ全ての人々が、予防接種の優先順位の上位に位置づけされることを支持する。
・IOCは大会の安全な環境作り、大会関係者の安全、そして日本の市民の安全を尊重する。
1月6日、東京2020のメイン会場となる東京首都圏の感染状況悪化を受け、菅 義偉首相は非常事態宣言の発出を決断した。その後、新規感染者数は緩やかに減少し始めたが、入院患者数および重症者数は高い水準を保っている。
NHKが行った最新の世論調査によると、回答者の77%が東京2020の中止もしくは延期を支持し、今夏の開催に賛成した人はわずか16%だったという。
2月8日から始まる全豪オープンテニスの主催者は、厳しい制限をクリアした選手のみ入国を許可したが、トラブルに見舞われた。
入国した選手および関係者は自国で陰性を確認し飛行機に搭乗したが、入国後の検査で陽性者が出たため、同じ便に搭乗していた選手、計72人がより厳しい検疫下(ホテルに隔離、外出禁止)に置かれた。なお、入国審査をパスした他の選手は、1日5時間屋外でのトレーニングを許可された。
主催者は検疫下に置かれた72人のためにウォームアップスケジュールを修正し、練習セッション、ジムの利用、アイスパスの優先権を与えた。
東京2020の主催者も同様の問題に直面する可能性が高い。ただし、受け入れる選手の数は全豪オープンテニスの比ではなく、陽性者が出た時の影響はより大きくなると予想される。
多くの専門家が「グループの規模が大きくなるほど感染のリスクは高くなり、感染を抑えることはより難しくなる」と指摘する。
ある関係者は、「全豪オープンテニスのように陽性者および濃厚接触者を個室に隔離することが重要だが、18,000人を収容する東京の選手村で感染を制御することは極めて難しいだろう」と述べた。
先週、英タイムズ・オブ・ロンドン紙は、ある自民党幹部が東京2020の開催は難しいと個人的に結論付けたと報じた。
しかし、主催者および政府関係者はこの報道を否定し、「今夏の大会開催に向け準備を進めている」と述べ、東京都の小池 百合子都知事は「法的措置を検討する」と憤慨した。
バッハ会長は1月27日のオンライン会見で、IOCは大会を安全に開催できる自信を持っていると繰り返し主張した。
トーマス・バッハ会長:
「私たちは大会が行われるかどうかについては検討していません。大会をどのように行うかについて検討しています。この冬、7,000以上のスポーツイベントが国際連盟によって組織されました。私たちは安全に大会を開催できると確信しています」
バッハ会長の力強い演説の翌日、3月に東京で予定されていたアーティスティックスイミングの最終予選が入国制限の影響で5月に延期されることが決まった。
競泳のメイン会場、東京アクアティクスセンターで3月4日から7日まで予定されていた予選会は、コロナウイルス対策をチェックするテストイベントのひとつに位置付けられていた。