◎アメリカの銃器業界団体である国立射撃スポーツ財団は4日、「メキシコ政府の訴えを拒否する」と述べた。
2016年1月19日/ネバダ州ラスベガスで開催された銃器の見本市(John Locher/AP通信)

8月4日、メキシコ政府はアメリカの銃器メーカーと卸売業者を訴えると発表した。米主要メディアによると、メキシコ政府はマサチューセッツ州ボストンの連邦裁判所に訴状を提出したという。

マルセロ・エブラード外相は声明で、「銃器を取り扱う企業および業者の違法な商慣行がメキシコで流血を引き起こし、途方もない数の命を奪っている」と主張した。

ABCニュースによると、メキシコ政府に訴えられた銃器メーカーはスミス&ウェッソン社、バレット・ファイアーアームズ社、ベレッタUSA社、コルト・ファイヤーアームズ社、グロック社。卸売業者はボストンに拠点を置くインターステートアームズ社だという。

銃器メーカー5社は全米のディーラーに銃を販売している。

メキシコ政府は、メーカーと卸売業者の慣行がメキシコへの銃器流入を促進し、数万人を死に追いやったと主張したうえで、麻薬カルテル戦争を含む銃絡みの犯罪の補償を要求した。「アメリカのメーカーは麻薬カルテルやその他の犯罪者への銃の違法な売買を促進し、メキシコに甚大を被害を与えました。私たちはこの誤りに終止符を打ちます...」

外務省の推定によると、メキシコに持ち込まれた銃の約70%がアメリカ製で、アメリカ製の銃(を扱う犯罪者)が引き起こした事件の犠牲者は2019年だけで約17,000人に達したという。

アメリカの銃器業界団体である国立射撃スポーツ財団は4日、「メキシコ政府の訴えを拒否する」と述べた。

同財団のローレンス・G・キーン氏は声明で、「メキシコ政府の主張には根拠がない」と反論した。「メキシコ政府は自国の領土内で発生した犯罪と汚職の責任を負っています...」

一方、メキシコ外務省の法律顧問であるアレハンドロ・セロリオ氏は4日、売買された銃が引き起こした損害はメキシコの国内総生産の1.7%から2%に相当すると語った。2020年の同国のGDPは約1.2兆ドル(130兆円)。

セロリオ氏は記者団に対し、「政府は少なくとも100億ドル(約1兆1,000億円)の補償をメーカーに求めるだろう」と述べた。「私たちはアメリカ政府に迷惑をかけないために行動します。メキシコの殺人事件はアメリカに波及します...」

AP通信によると、メキシコ政府はワシントンD.C.にこの訴訟の助言を求めなかったが、訴訟を起こす前に米国大使館に事実を伝えたという。

エブラード外相は「私たちは裁判に勝利し、違法な武器の密売を大幅に減らすつもりだ」と述べ、訴訟は米国政府を対象としたものではないと強調した。また、ジョー・バイデン大統領はメキシコ政府と協力して武器の売買を抑制するために行動してくれると信じていると述べた。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校の銃政策専門家であるアダム・ウィンクラー教授は、メキシコ政府の訴訟を「ロングショット(望みは薄い)」と呼んだ。「極めて革新的な訴訟だと思います。銃器メーカーは過去20年間、訴訟に対する幅広い免除を享受してきました」

ウィンクラー教授によると、アメリカの武器法に基づく合法的な商取引を他国の政府が訴えたことはなく、極めて異例だという。

メキシコ政府は銃の取り扱いを厳しく制限しており、警察の規則に基づき、条件を満たした市民だけが所持することを許可されている。しかし、強力な麻薬カルテルやその他の犯罪組織は数万もの銃をメキシコに密輸している。

メキシコの昨年の殺人事件犠牲者は36,000人を超え、その多くが麻薬カルテル関連だった。アンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール大統領は麻薬カルテル戦争に終止符を打つと約束したが、組織の抗争は一向に収まる気配を見せず、殺人事件件数および殺人率に大きな変化は見られなかった。2020年の殺人率は人口10万人あたり29人。

2014年8月4日/メリーランド州アコキークにあるベレッタUSA社の施設(Getty Images/AFP通信)
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