トランプとバイデンの決闘/混沌・誹謗中傷・名誉棄損
大統領討論会の主要議題は以下の6つ。1つの議題に割り当てられる時間は15分。
・トランプ大統領とバイデン氏の記録
・最高裁判所
・コロナウイルス
・都市における人種抗議と暴力
・選挙の完全性
・経済
【関連トピック】
・トランプvsバイデン、第1回大統領討論会
・トランプvsバイデン、討論会の焦点は?
勝者:バイデン、敗者:アメリカ国民
CBSニュースによる簡易視聴者投票の結果が発表された。
調査対象のうち、48%がジョー・バイデン氏の勝利、41%がドナルド・トランプ大統領の勝利を選択。10%は引き分けと判断した。
司会を務めた「フォックスニュースサンデー」のクリス・ウォレス氏は開口一番、「厄介な夜だった。本当の敗者はアメリカだった」とコメント。世論も同じ反応を示している。
最新の簡易世論調査によると、有権者の69%が「イライラ」し、19%が「悲観的」と回答。前向きな意見としては、31%が「楽しかった」、17%が「情報を得た」と答えている。
90分の破壊的な夜
9月29日現地時間21時、オハイオ州クリーブランドは地球最大のホットスポットになった。
トランプ大統領とバイデン氏が繰り広げたレスリングは、会場の聴衆を盛り下げ、視聴者を混乱させ、SNSは混沌状態に陥った。
史上まれにみるカオスな泥仕合になった討論会という名のレスリングは、アメリカ国民以外が見れば、とても興味深く楽しいものだった。
レスリングのトピックは以下の通りである。
・現職大統領と司会者が激突した。ウォレス氏はステージ上で取っ組み合う二人に「終結を懇願」しなければならず、トランプ大統領のルール無視を厳しく叱責した。
・両者はコロナウイルス、経済、選挙の完全性、人種差別について議論した。
・バイデン氏はトランプ大統領のコロナ対策を非難した。これに対しトランプ大統領はバイデン氏の息子、ハンター・バイデン氏の麻薬問題およびウクライナ不正疑惑を持ち出し、「彼らは不正に手を染め、大金を獲得した。しかし、間もなく反撃を受けるだろう」と挑発、レスリングが始まった。
・人種差別問題に対し、トランプ大統領は「今、アメリカを苦しめている者(抗議者たち)は、左翼的な連中ばかりだ」と主張。白人至上主義を否定しなかった。
・ウォレス氏は両者に「抗議者たちに落ち着くよう促すか?」と質問。バイデン氏は外部の検証を待つと述べた。一方、トランプ大統領は郵便投票に異議を唱え、「注意深く見守る」と返答。ウォレス氏の質問は無視された。
トランプとバイデンの決闘
トランプ大統領と挑戦者のバイデン氏は、ここ数年で最大の混乱を引き起こした諸問題について熱く議論した。
オハイオ州クリーブランドは両者の叫び声に包まれ、90分はあっという間に終了。コロナウイルス、人種差別、経済をめぐり、両者は顔を真っ赤にしながら言い争った。
バイデン氏はトランプ大統領を「ピエロ」と呼び、「黙れ!!」と吠えた。これに対しトランプ大統領はハンター・バイデン氏の「麻薬問題」および「モスクワの億万長者から350万ドルを受け取った問題」に疑問を呈した。
侮辱によって討論会はたびたび中断し、息子の名誉を傷つけられたバイデン氏はトランプ大統領を「人種差別の憎悪を掻き立てる男」「プーチンの子犬」「アメリカ史上最低最悪の大統領」と非難した。
バイデン氏「黙ってくれませんか?」
コロナウイルス問題
コロナウイルス感染予防を考慮し、両者の握手は予定通り省略された。
バイデン氏はトランプ大統領の対応を全て却下し、「リーダーシップの欠如がアメリカ国民20万の命を奪った」と述べた。
また、早急なロックダウンの解除および経済活動再開について、「大統領はパニックに陥った。しかし、株式市場はしっかりチェックしていた」と対策の失敗を強調した。
ジョー・バイデン氏:
「トランプはもっとスマートに、そしてもっと強くなければならなかった。この男を放置すれば、死者は際限なく増加するだろう」
これに対しトランプ大統領は「スマート」という言葉を使ってバイデン氏を非難した。
トランプ大統領:
「ジョーはクラスを最低の成績で卒業した。君にスマートという言葉は使ってほしくない。その言葉はスマートな人間だけが使うものだ」
なお、オハイオ州のルールに従い、両者とウォレス氏を除く全員にマスク着用が求められていた。しかし、トランプ家のメンバーはマスクを紛失したため、特別枠として扱われたようである。
ヘルスケアと最高裁判所
両者が予定されていなかったのヘルスケア問題についても熱く議論した。
トランプ大統領はバイデン氏のライバル、バーニー・サンダース氏を突然登場させ、「ジョー、君は社会主義者に支配されるだろう。そして君はそれを理解したうえで、仲間に加えた」と指摘した。
これに対しバイデン氏は、「私は民主党だ」と応戦。「トランプは嘘をまき散らし、人を傷つける。私は君の嘘を聞くつもりはない。国民も君が嘘つきだと理解している」とサンダース氏へのヘイトを強く非難した。
怒りに燃えるトランプ大統領は、突然最高裁判所判事の問題を提起。”保守的”なキリスト教判事を迅速に指名したと自慢した。
トランプ大統領:
「私は彼女(エイミー・コニー・バレット氏)が適任だと確信している。ジョーのドラフト候補リストを見せてくれ」
司会のウォレス氏は予定されているセクションを進行すべくバイデン氏に発言を求めた。しかし、バイデン氏は返答に窮し、「おしゃべりを続けなさい、大統領」と述べるにとどめた。
これに対しトランプ大統領は、「国民は理解している。ジョー、君はこの47年間、何もしなかった」と挑発した。
家族を侮辱され憤慨するバイデン氏
憤慨するバイデン氏
バイデン氏は、以前トランプ大統領が戦死したアメリカ兵を「負け犬」と呼んだと主張した。なお、この発言に関する報道は「フェイクニュース」と報じられ、トランプ大統領および高官たちも強く否定している。
バイデン氏はイラクで戦死した故ボー・バイデン氏について、「彼は負け犬ではなく、愛国者だった」と語尾を強めた。
この発言に対しトランプ大統領は、「本当に?モスクワから援助を受けた元麻薬中毒者のハンター・バイデンが愛国者なのか?」と肩透かしをくらわせた。
ドナルド・トランプ大統領:
「私はボー・バイデンを知らない」
「私はハンター・バイデンを知っている。彼はコカインに溺れ、軍隊を不名誉除隊させられた。彼は君が副大統領になるまで無職だった。彼はきっと愛国者なのだろう」
バイデン氏はトランプ大統領を怒鳴りつけ、「私の息子はあなたの家族と同じように、麻薬の問題を抱えていた」と吠えた。
ウォレス氏に批判が集まる
ウォレス氏は2016年の第3回大統領討論会で司会を務めていた。
しかし、今回のレスリング対決は4年前より数段激しい戦いになり、ウォレス氏はグラディエーターを抑えることに苦労しっぱなしだった。
途中、ウォレス氏はトランプ大統領に発言を止めるよう促した。
クリス・ウォレス氏:
「両者の努力で中断時間を短くすれば、アメリカと国民はより良い結果を得られるだろう。私はルールに従い発言してほしいと思っている」
ドナルド・トランプ大統領:
「私も同感だ」
“Will you shut up, man.” -@JoeBiden https://t.co/AQHZdedSxf
— Team Joe (Text JOE to 30330) (@TeamJoe) September 30, 2020
9月29日、チームバイデンが「黙りなさいTシャツ」を発売
大統領討論会の司会は、ジャーナリストに与えられる究極のミッションであり、難易度の高さは他の追随を許さない。
ウォレス氏は29日の仕事について、「私は二人に発言させ、重要な問題に焦点を合わせる準備を完璧に進めていた」と語った。
クリス・ウォレス氏:
「私が正しく仕事をしていれば、国民は”素晴らしい討論会だった。今年のモデレーターは誰?”と言うはずだ。しかし、今夜の仕事は散々だった」
ウォレス氏はアメリカで5本の指に入る有能な司会者である。しかし、世界の頂点を争う二人の猛獣に決められた時間を遵守させ、議題を強制的にシャットアウトし、討論を促すことはほとんど不可能だった。
一方、トランプ大統領寄りの保守的なフォックスニュースコメンテーターたちは、ウォレス氏が「被災したバイデン氏」の肩を持ち、コントロールを維持できなかったと非難した。
同じく、左派のアナリストも討論会に失望。元民主党上院議員のクレア・マカースキル氏はウォレス氏の仕事を「恥ずかしい、失態」と表現した。
ただし、「ウォレス氏は不可能な仕事を与えられた」と擁護する意見も多い。
敗者:アメリカ国民
バイオレンスな夜は終わった。
明確な答えを求める無党派層有権者にとって、大統領討論会は候補者の主張をチェックする重要なイベントである。しかし、そこに答えはなかった。ふたりの老人は相手を打ち負かすことしか考えていなかったようだ。
トランプ大統領はルールを守らず挑戦者に殴りかかり、バイデン氏も怒りを抑えることに失敗し、侮辱的な発言が目立った。
予定されていた主要議題の討論は他の話題にすり替えられ、怒りとカオスに飲み込まれてしまった。
トランプ大統領は、一部の熱狂的な共和党支持者を満足させたかもしれない。しかし、バイデン氏の家族を侮辱する発言が全共和党支持者に受け入れられるとは到底思えない。
バイデン氏もつまずいた。顔面にパイを叩きつけられても、民主党大統領候補者としての威厳を保ち、的確に反論すべきだった。
民主党支持者たちはバイデン氏なら冷静に対処すると信じ、本人も冷静さを保ちながらトランプ大統領を打ち負かす予定だった(と思われる)が、厳しい戦いを強いられることになった。