マーベル映画史上初

私はマーベル映画が大好きである。そして、マーベル映画史上初となる「青春ホラームービー」の公開を待ちわびていた。

紆余曲折を経てついに全米公開されたマーベル映画の新作、「ニュー・ミュータンツ(原題:The New Mutants)」には、キャプテン・アメリカもスパイダーマンもアイアンマンも出演しない。

この映画から得られるものは、ヒュー・ジャックマンが演じたマーベル映画を代表する「X-MEN」シリーズの人気キャラクター、ウルヴァリンのほんのわずかなヒントぐらいである。

X-MENシリーズの映画や漫画を見ていた時、私はいつもキャラクターの背景が気になって仕方がなかった。作品の中ではある程度登場人物のバックグラウンドを説明するが、幼少期や青春時代のことまで詳細に描かれることはほとんどなかったのである。

X-MEN最初のジュニアチームであるニュー・ミュータンツが映画化される、2017年に撮影を開始する、と聞いた時、興奮した。

そして3年後、紆余曲折を経てついに全米公開され、当初の予想通りとはいかないものの、ある程度のヒットを収めている(と思いたい)。

マーベル映画ファン、そしてX-MENファンは、長い間やきもきしながら公開を待っていたはず。しかし、ファン以上にやきもきしていた男がいる。

本作の監督と脚本を務めたジョシュ・ブーン氏は、長い長い旅を乗り越え、スクリーンにたどり着いた。

The New Mutants - Official Clip (2020)

大人の事情

ニュー・ミュータンツは、マーベルのX-MENフランチャイズを所有していたフォックススタジオによって製作された。なお、歴代のX-MENシリーズもすべてフォックススタジオが制作している。

しかし、ニュー・ミュータンツの制作が始まって間もなく、当時マーベルを所有していたウォルト・ディズニーがフォックススタジオを買収した。これにより、X-MENシリーズはマーベルのものになったのである。

現在、マーベルは全く新しいX-MENのフランチャイズ計画を準備中しており、ファンをやきもきさせている。

買収、予算、フランチャイズなど、様々な大人の事情が重なり、ニュー・ミュータンツの公開日は延期された。

その後、またしても大人の事情により”再撮影”が計画され、監督、出演者、スタッフはディズニーおよびマーベルから多くのことを求められたという。

買収後の再撮影は行われなかった。2020年8月28日から公開された同作は、3年前に撮影されたオリジナル映像を使用している。

ジョシュ・ブーン監督:
「買収は想定外だった。私たちは現場の人間の力だけでは対処できない困難な状況に置かれていた」

「しかし、私たちは3年前に自分たちがすべきことを終えていた。いろんなトラブルを乗り越え、公開できたことは大変喜ばしい」

「買収などの影響で、撮影予算は大きく絞られてしまった。これについては致し方ないと思う。しかし、出演者とスタッフは素晴らしい仕事をし、予算などものともせず、最高の作品を作り上げてくれた」

ブーン監督は友人のケイト・リー氏と本作の脚本を書いた。2人は、X-MENやニュー・ミュータンツなどのマーベル漫画の大ファンだったという。

本作には、これまでのX-MENシリーズに登場したキャラクターおよびその情報が含まれている。2019年に公開された「ダーク・フェニックス(原題:Dark Phoenix)」や「X-MEN アポカリプス(原題:X-Men Apocalypse)」とも結びついているため、他作品も事前にチェックしておきたい。

監督たちは、本作を「スーパーヒーロー・ティーンホラー映画三部作」の第一作として売り込み、登場する10代のキャラクターたちには、X-MENの世界で活躍してきたヒーローの要素がちりばめられている。

ブーン監督はBBCの取材に対し、「ニュー・ミュータンツで描きたいことは決まっていたが、予算の都合で夢を半分に切り詰めざるを得なかった。しかし、これは悪いことではなく、ハリウッドの監督が通過しなければならない現実である」

「2億ドル(約212億円)の製作費をかけた映画の監督は、恐れく4億ドルの予算を要求しているはずだ」と語った。

The New Mutants | Official Trailer

次のプロジェクト

ブーン監督は、ニュー・ミュータンツを作った工程と、彼の名を世界に知らしめた大ヒット作、2014年公開の「きっと、星のせいじゃない。(原題:The Fault in Our Stars)」とは全く違ったと述べた。

なお、「きっと、星のせいじゃない。」の製作費は、近年のハリウッド映画としてはかなり低めの1,200万だが、世界中で大ヒットし興行収入3億ドル超を達成した。

経営陣や関係者によるニュー・ミュータンツの完成チェックが行われた時、ブーン監督はディズニーの社長から「私に会うことは二度とないだろう」と言われ、公開を承認してもらったという。

つまり、ディズニー(マーベル)が目指すものとは違う、と判断されたのである。ブーン監督は「他の作品では祝福された。しかし、本作は正反対だった」と述べた。

ディズニーによるフォックススタジオ買収後、コロナウイルスの影響により本作の公開は再び延期された。

なお、ブーン監督は次のプロジェクトで、スティーブン・キングの「ザ・スタンド(原題:The Stand)」のテレビシリーズを制作する。これは、実験で作られた致死率99%のウイルスが外部に流出、アメリカを席巻するという話である。

ジョシュ・ブーン監督:
「私たちはザ・スタンドの中で、恐怖のウイルスに立ち向かう人間の姿を描いた。まさかその直後にコロナウイルスを体験するとは思っておらず、奇妙な感覚を覚えた」

「ニュー・ミュータンツではいろんな経験をした。次のプロジェクトは慎重に選択しようと思う」

Meet our Mutants in 60 Seconds

ニュー・ミュータンツ

マーベル映画のにわかファンは、キャノンボール、マジック、ウルフズベイン、ムーンスター、サンスポットなどのキャラクター名を聞いても、「誰だよ?」と思うはず。

彼らはこれまでのX-MENシリーズの中で全く取り上げられることがなく、人気もイマイチだと考えられてきた。

しかし、マーベル映画が新しいことに挑戦し、結果を残してきたことはご存じの通りだ。ニュー・ミュータンツも新しいスーパーヒーローたちをスクリーンに召喚したのである。

マーベル・シネマティック・ユニバースの大ヒット作、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー(原題:Guardians of the Galaxy」では、アライグマと喋る木が登場し、10億ドル規模のフランチャイズを作り上げた。それと同じである。

本作に登場する「新しいミュータントたち」は、彼らを保護する施設という名の牢獄に閉じ込められ、謎の生物と戦う。さらに、ティーンエイジャーたちは精神面にも大きな問題を抱えている。

主な出演者/キャラクターは以下の通りである。

・アニャ・テイラー=ジョイ/イリアナ・ラスプーチン(マジック)
・メイジー・ウィリアムズ/ラーネ・シンクレア(ウルフスベイン)
・チャーリー・ヒートン/サム・ガスリー(キャノンボール)
・ヘンリー・ザーガ/ロベルト・ダ・コスタ(サンスポット)
・ブルー・ハント/ダニエル・ムーンスター(ミラージュ)
・アリシー・ブラガ/セシリア・レイエス

3年もの時を経て公開された本作のレビューは、控えめに言って厳しかった

ニュー・ミュータンツのコミック共同制作者のひとりは、キャラクターの一部を削除したものの、なぜかクレジットにその名が記されていたと指摘、批判した。

ブーン監督および関係者の奮闘により制作された本作と、これから始まる予定の「スーパーヒーロー・ティーンホラー映画三部作」は、厳しい現実を突きつけられているのかもしれない。

しかし、本作を厳しく批判したコミック共同制作者のひとりは、これまで注目を浴びなかったキャラクターたちが新しいフランチャイズに登場する”かも”しれない、と期待している。

コミック共同制作者のひとり:
「マーベルがX-MENフランチャイズで何をするか楽しみである。彼らが何らかの方法でキャラクターを引き継いでくれれば、ファンも私も嬉しい」

「X-MENシリーズの出演者が、マーベル映画のヒーローと共演する日を楽しみにしている」

【2019年に公開されたマーベル作品】

作品名世界興行収入
キャプテン・マーベル
(Captain Marvel)
$1,128,274,794
(約1,199億円)
スパイダーマン: スパイダーバース
(Spider-Man: Into the Spider-Verse)
$375,540,831
(約399億円)
アベンジャーズ: エンドゲーム
(Avengers: Endgame)
$2,797,800,564
(約2,972億円)
X-MEN: ダーク・フェニックス
(Dark Phoenix)
$252,442,974
(約268億円)
スパイダーマン: ファー・フロム・ホーム
(Spider-Man: Far From Home)
$1,131,927,996
(約1,203億円)

「ニュー・ミュータンツ 予告編」字幕付き

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