◎7月の大統領選をめぐる混乱はクリスマスを前倒ししても消えそうにない。
南米ベネズエラに一足早いクリスマスが到来し、「世界一タフな黒ひげのサンタ」こと独裁者のマドゥロ(Nicolas Maduro)大統領がメリークリスマスを宣言した。
マドゥロ氏は先月初め、大統領選の勝利を祝う公共放送生ライブで「10月1日からクリスマスだ」と宣言し、人口の95%を占める貧困層を驚かせた。
首都カラカスの住民は1日、市中心部の広場に設置されたクリスマスツリーを見て、それが現実であることを痛感した。
政府の命を受けた公務員たちは市内の商店街などに飾りを設置。クリスマス気分を盛り上げようとしたが、野党を支持する市民は米国への亡命を真剣に考えているように見えた。
カラカス中心部で商店を営む男性はAP通信の取材に対し、「まだハロウィンも来てないのにクリスマス?」と語った。「この国は一体どうなってるの?」
マドゥロ氏が早めのクリスマスを宣言したのは今回が初めてではない。ただし、2カ月以上も前倒ししたのは初めだ。パンデミック時には「平和、幸福、安全がやってくる!」と主張していた。
7月の大統領選をめぐる混乱はクリスマスを前倒ししても消えそうにない。
マドゥロ氏の支配下に置かれる選挙管理委員会は7月28日に行われた大統領選の集計結果を公表せず、現職のマドゥロ氏が得票率51%で勝利したと発表。
しかし、野党陣営は全国の電子投票機が印刷した集計表の80%以上を確保したと報告。それによると、全野党の統一候補ゴンザレス(Edmundo González)氏の得票数はマドゥロ氏に2倍以上の差をつけていたという。
米国を含む数カ国が選挙の勝者をゴンザレス氏と認定。選管に透明性のある集計結果を公表するよう呼びかけてきた。
しかし、最高裁判所は8月末、マドゥロ氏の勝利を認定。さらに首都カラカスの地方裁判所は先月、ゴンザレス氏が選挙結果を捏造し、暴動を煽ったなどとして逮捕状を発行した。
この結果、ゴンザレス氏はスペインへの亡命を余儀なくされた。
ベネズエラの経済は米政府によるマドゥロ政権への厳しい経済制裁とマドゥロ氏の後先考えないバラマキ政策で急速に悪化。GDPはマドゥロ氏が就任した2013年以降、右肩下がりとなり、2021年には10年前の2割以下に落ち込んだ。
現在のGDPはピーク時の4分の1となり、その結果、800万人近くが国外に流出。その多くが他の中南米諸国を経由して米国への移住を目指している。
政府のわずかな補助金に頼って生活する多くの市民がクリスマス気分を満喫できず、頭を抱えているように見えた。
マドゥロ氏はベネズエラを「持つ者と持たざる者の国」に変えてしまった。国連は人口の90~95%が貧困線以下での生活を余儀なくされていると推定している。
カラカスの店主はAPに「クリスマス・ボーナス(補助金)を前倒しで支給し始めたら、12月には何も残らないだろう」と嘆いた。