◎エチオピア政府とエリトリア政府はティグライ地域にエリトリア軍が配備されたことを決して認めなかったが、人権団体の報告などで関与していたことはほぼ間違いないと信じられていた。
2021年3月23日/エチオピアのアビィ・アハメド首相(ゲッティイメージズ)

報道によると、エチオピアのアビィ・アハメド首相は昨年11月から始まったティグライ地域の紛争にエリトリア軍が関わったことを公の場で初めて認めたという。

エチオピアとエリトリアは2018年に歴史的な和平協定に合意し、その成果を評価されたアハメド首相は2019年にノーベル平和賞を受賞した。

ティグライ地域を支配していたティグレ人民解放戦線(TPLF)と政府軍の戦闘は昨年11月に本格化したが、アハメド首相は約1か月後に終結を宣言している。しかし、TPLFのリーダーは拘束されておらず、散発的な戦闘は各地で続いていると伝えられている。

かつてエチオピアの大部分を支配していたTPLFは、民族をめぐる問題でエリトリア政府と激しく対立していた。

アハメド首相は3月23日の議会演説でティグライ地域の紛争にエリトリア軍が関与していたことを認め、「エリトリアはTPLFが自国内に侵入してくることを恐れていた」と述べた。

エチオピア政府とエリトリア政府はティグライ地域にエリトリア軍が配備されたことを決して認めなかったが、人権団体の報告などで関与していたことはほぼ間違いないと信じられていた。

国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナルは、エリトリアの兵士がティグライの聖地と呼ばれている都市アクムスなどで市民を虐殺したと主張している。報告によると、非武装の市民は容赦なく処刑され、女性と子供はレイプされ、公共および私有財産は略奪されたという。

AFP通信によると、アハメド首相は議会で次のように述べたという。

「エリトリアの兵士は国境周辺で活動し、エチオピアの兵士がTPLFと戦っているスキにティグライ(の一部地域)を占領しました。私はエリトリア政府に、エリトリア軍が残虐行為を行っているという噂が真実かどうかを尋ねました」

「調査の結果、エリトリア軍は国境を越えてティグライで活動していたが、残虐行為には一切関わっていないことが分かりました」

その後、アハメド首相はツイッターに、「TPLFはエリトリア軍が女性をレイプし、地域のコミュニティを略奪したと宣伝しています。私たちは犯人が誰であろうといかなる残虐行為も容認せず、犯人は責任を問われることになります」と投稿した。

国連は先週、エチオピア人権委員会と協力してティグライ地域の市民に対する大量虐殺と性的虐待を調査すると発表した。

一方、アメリカはティグライ地域の暴力を民族浄化と呼び、エリトリア軍の撤退を求めている。しかし、エリトリア政府は一連の後発や要求を「馬鹿げている」と却下し、関与を一切認めていない。

エリトリアは世界で最も情報統制された国のひとつであり、国内の情報が外部に漏れることはほとんどない。

ティグライについて知っておくべきこと

・2021年3月、ティグライ地域の医療機関の大半は破壊された。国境なき医師団(MSF)報告。

・2021年2月26日、国際人権NGOアムネスティ・インターナショナルがレポートを公表。

・2021年2月19日、エリトリア政府、エチオピアのティグライ地域でエリトリア軍が市民数百人を虐殺したと報じたAP通信のレポートを却下。

・2021年2月1日、ティグレ人民解放戦線(TPLF)の元リーダー、デブレツィオン・ゲブレミチャエル氏は声明で、「政府軍はティグライの市民を虐殺した」と述べた。

・2021年1月、ティグライ緊急調整センター(ECC)、ティグライ地域で「数十万人が餓死する可能性がある」と警告。

・2020年12月23日、ベニシャングル・グムズ地域(民族境界線沿い)で虐殺事件が発生し、100人以上が死亡。

・2020年12月、エチオピア国防軍は、ティグレ人民解放戦線(TPLF)の指導者の所在に関する情報に約25万ドル(2,600万円)の懸賞金をかける。

・2020年12月11日、エチオピア政府、北部ティグライ地域の難民キャンプから逃れた「エリトリア難民数千人」を元の難民キャンプに戻すと発表。

・2020年12月8日、エチオピア政府、ティグライ地域の検問所を突破しようとした国連職員に発砲

・2020年12月、国連とエチオピア、ティグライ地域への援助を許可する協定に署名

・2020年12月1日、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)、難民の栄養失調と飢餓を警告。

・2020年11月29日、赤十字病院、医療用物資が「危険なほど不足」していると警告。

・2020年11月28日、アビィ・アハメド首相、州都メケレを「完全に支配した」と宣言。

・2020年11月25日、政府軍、州都メケレへの攻撃を開始

・2020年11月22日、国連、エチオピア政府軍によるティグライ地域への「最後通告」について、市民を巻き込む致命的な戦争犯罪につながると懸念を表明。

・2020年11月22日、アビィ・アハメド首相がティグレ人民解放戦線(TPLF)に降伏する機会を与える。

・2020年11月、国連のアントニオ・グテーレス事務総長、「即時の一時停戦」を求める。

・2020年11月、国連、「本格的な人道的危機」が発生していると警告。

・2020年11月14日、TPLFが、近隣地域の空港などをロケット弾で攻撃

・2020年11月13日、国連はマイカドラの町で発生したと伝えられている大量殺戮について、事実であれば「戦争犯罪」の可能性もあると述べた。

・2020年11月、ティグライ地域、南西エリアに位置するマイカドラの町で、数百人が刺されるなどして死亡した。

・2020年11月4日、TPLFが政府軍の軍事キャンプを攻撃。TPLFは関与を否定している。

・2020年9月、アハメド政権はコロナウイルスへの対応として国内での選挙活動を禁じ、TPLFはこれに猛反発した。TPLFはこの制限を、「中央政権の独裁体制を強化する違法行為」と見なしている。

・国内最大の民族グループはオロモ民族。TPLFはこれに属する。

・オロモ民族グループとソマリア民族グループの衝突が長年続いてる。

・1970年代~1980年代、政府の崩壊、干ばつ、飢饉で100万人以上が死亡、約800万人が影響を受けたと伝えられている。指導者はマルクス主義の独裁者、メンギスツ・ハイレ・マリアム。

・1989年、TPLFは他の反政府組織と合併、エチオピア人民革命民主戦線(EPRDF)を結成。

・1991年、EPRDFの軍事攻勢により、メンギスツ・ハイレ・マリアム政権崩壊

・1991年7月、EPRDF、オロモ解放戦線(OLF)などが87名の国民議会を形成。エチオピア暫定政府(TGE)を設立。

・2018年4月2日、アビィ・アハメドが首相に就任。

・2018年7月、エチオピアとエリトリア国の首脳が20年ぶりに会談、和平協定に署名

・2018年10月25日、サーレ・ワーク・ゼウデが大統領に就任。エチオピア初の女性大統領。

・2018年の避難民数は推定140万人。

・2019年、アハメド首相がノーベル平和賞を受賞。

・政府とTPLFの緊張関係は年々悪化している。

・TPLFはエリトリア国との和平を認めていない。

オロモ民族グループによる虐殺(数十人規模)が横行。オロモに属するアハメド首相はこれを非難している。

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