汚職裁判

7月28日、数百万ドル規模の汚職事件計7件で起訴されていたマレーシアの元首相ナジブ・ラザク氏は、全ての事件で有罪判決を受けた

ラザク氏はマネーロンダリング、権力の乱用、警察機構への圧力など、自分にかけられたありとあらゆる疑惑を否定していた。

今回の裁判は、2009年から2018年の間に実行された汚職事件に対するものであり、マレーシア政府の腐敗防止活動の一環として祭り上げられていた。

マレーシアの政府系投資会社1マレーシア・デベロップメントファンド(1MDB)を巡るスキャンダルにより、政府最高権力者による詐欺、搾取、腐敗が明らかになり、同国の専門家たちは「世界に恥をさらした」と指摘した。

ラザク氏は刑務所に収監される可能性が極めて高く、パッケージの金額から懲役20年以上は確実と予想されている。しかし、上告による裁判の遅延、関係者を介しての司法への圧力行為などが懸念されており、予想通りになるかは不透明な情勢だ。

クアラルンプール高等裁判所のモハマド・ナズ・ランモハマド・ガザリ裁判官は記者団に対し、「提示された全ての証拠を綿密にチェックした結果、検察はラザク氏の行為を正確に立証していることが分かった」と述べた。

この日の評決は、同ファンドの基金からラザク氏の個人口座に移された4,200万リンキッド(約10億円)に関連するものだった。

ラザク氏は全ての疑惑を完全否定したうえで、当時の財務顧問、現在も逃亡を続けている実業家のジョー・ロー氏に惑わされたと主張した。

実業家のジョー・ロー氏はアメリカとマレーシアで起訴されたが、一部案件においては和解が成立している。

ラザク氏を応援する団体の責任者はBBCの取材に対し、「彼の口座の資金は、国(政府ファンド)の予算とは一切関係ない。ジョー・ローが巧みな話術でラザク氏をだまし、サウジアラビア王室からの寄付と信じさせたのだ」と改めて強く主張した。

ラザク氏は有罪が言い渡された場合は上告すると述べていた。

政府系投資会社1マレーシア・デベロップメント(1MDB)ファンドは、ラザク氏が首相に就任した2009年設立。国の経済発展を後押しするという名目で誕生した。

2015年、同ファンドは銀行や債券保有者への支払いを一切行わず、不透明な活動内容と資金の行方で注目を集めた。

マレーシアとアメリカの司法および関係当局は、45億ドル(約4,750億円)もの資金が同ファンドに流れ込み、それらは関係者の個人口座に分配されたと主張している。

なお既に支出された資金には、高級不動産、プライベートジェット機、ヴァンゴッホやモネの作品、さらにはハリウッドで大ヒットした「ウルフ・オブ・ウォールストリート」の製作費などが挙げられている。

先週、65億ドル規模の1MDB債券発行を”引き受けた”アメリカの投資銀行大手、ゴールドマン・サックスは、今回の汚職事件における今後の対応について、マレーシア政府と39億ドル(約4,100億円)で和解した。

このビッグディールにより、1MDBの65億ドル資金調達を助けた、すわなち、「ゴールドマン・サックスが投資家たちを騙した」という告発(証券関連法違反)は解決した。

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ナジブ・ラザク

2009年、ラザク氏は首相就任以来、独裁的な政治能力を発揮してきた。1MDBの案件発覚直後には大規模な抗議デモが発生したものの、強引に内閣改造を押し進め、反対勢力を粛正した。

さらに汚職事件などを報道したジャーナリストが次々と逮捕、経済紙に対しては発行禁止処分を決めるなど、権力パワーで邪魔者たちを打ち滅ぼしてきた。

しかし、2018年の下院議員選挙で野党連合に敗北。ラザク氏率いる統一マレー国民組織(UMNO)は建国以来初となる政権交代を許し、前首相のマハティール・ビン・モハマド氏の復権を許した。

選挙終了直後、ラザク氏と妻は出国禁止命令を受け、警察による家宅捜索が行われた。この時、高級貴金属や宝石、現金、ブランド品などを押収した警察官たちは、元首相の蛮行に涙を流していた。その後、モハマド氏はラザク氏を起訴し現在に至る。

一国の主になった政府高官のスキャンダラスな汚職裁判は、60年以上政権を守り続けてきたUMNOの実績を地に落とした。

2020年3月、新首相に就任したムヒディンヤシン氏も、ラザク氏の圧力に屈し粛正されたひとりだった。

なお、マレーシアが不安定な情勢にあることは変わりない。ムヒディンヤシン首相は、かろうじて確保した過半数勢力(元野党連合)を率いているものの、特徴のないありきたりな政治姿勢を非難されており、厳しい国政運営を強いられそうである。

有罪判決を受けたラザク氏は、在職中、マレーシア当局からの申し立て、捜査協力などを全て拒否していた。なお、関係当局の長は、圧力を受け捜査を止めざるを得なかったとは述べておらず、ラザク氏本人もそれらの疑惑を全て否定した。

しかし、国民からの非難は日を追うごとに強まり、2018年の選挙敗北でラザク氏は全てを失った。そして、1MDBを巡る汚職事件問題は、全世界の注目を集めることになったのである。

7月28日の評決は、重要でない事件(汚職には変わりない)に関するものである。つまり、山場はこれからやってくるのだ。

昨年8月に始まった別の裁判では、ラザク氏が2011年~2014年の間に1MDBから22億2,500万リンギット(約550億円)を得たという、世界史上まれに見る巨額汚職事件を取り扱っている。

ラザク氏は21回のマネーロンダリングおよび4回の権力乱用に関しても裁かれる予定である。なお、同氏はこれらの疑惑についても否定している。

ラザク氏の妻、ロスマ・マンソール女史もマネーロンダリングと脱税の罪に直面しており、懲役刑は免れないと予想されている。

【ラザク邸で押収されたアイテム】
・指輪2,200点
・ネックレス1,400点
・ブレスレット2,100点
・イヤリング2,800点
・ブローチ1,600点
・ティアラ14点
・高級腕時計(ロレックス、ショパール、リチャードミル)423点
・高級サングラス234点
・高級ハンドバッグ(シャネル、プラダ、ヴェルサーチなど)567点
・エルメスのハンドバッグ272点
・現金1億1,600万リンギット(約28億円)

押収品の総額(推定):2億5,000万ドル~2億8,000万ドル

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