◎インドで最も影響力のある農業組合は、昨年11月から首都ニューデリーの郊外で野営抗議デモを続け、法律の廃止を求めていた。
2021年11月19日/インド、首都ニューデリー郊外のシングー、農業法の廃止を祝う人々(Getty Images/AFP通信)

11月19日、インドのナレンドラ・モディ首相は昨年9月に可決した農業法を廃止すると発表した。

インドで最も影響力のある農業組合は、昨年11月から首都ニューデリーの郊外で野営抗議デモを続け、法律の廃止を求めていた。

インドは特定の作物に保証価格を設定し、農家の生活を守ってきた。

以前の法律では、農家は州の農産物市場委員会を通して保証価格以上で農産物を販売できたため、収益を確保しやすかった。また、農産物の購入量と必需品に設定されている農作物の価格には上限が設定されていた。

新しい農業法が施行されると、農家は農産物を個人の裁量で販売できるようになる。農産物市場委員会は解散する予定だったが、政府は法律の施行を保留していた。

モディ首相は演説の中で全国の農家に謝罪し、「政府は新しい法律を全国の農民兄弟に正しく説明できず、努力が足りなかった」と述べた。

モディ首相は抗議者に帰宅するよう促したが、主要な団体は法律が正式に廃止されるまでとどまると誓った。地元メディアによると、議会は速やかに廃止手続きを行う予定だという。次の会期は12月。

ニューデリーの抗議は州議会選挙を控えているウッタル・プラデーシュ州やパンジャーブ州などの主要州に飛び火し、抗議の嵐を引き起こした。

パンジャーブ州の主要な農業組合とシク教徒は数千人規模の抗議集会を決行し、来年初めに選挙を予定しているウッタル・プラデーシュ州の農家がこれに触発され、モディ首相と与党インド人民党に対する抗議デモに発展した。

シク教徒はヒンドゥー教に比べると少数派だが、富裕層が多く社会的に活躍する人が多い。政府の公式発表によると、1984年6月にパンジャーブ州などで発生したシク教徒に対する取り締まりでは、軍とシク教徒合わせて500人以上が死亡したという。しかし、実際の死亡者数は15,000人以上と伝えられている。

パンジャーブ州の地元メディアは、「モディ首相は選挙に大きな影響を与える農業組合とシク教徒の信頼を取り戻すために農業法の廃止を決めた」と報じた。

しかし、最新の世論調査によると、インド人民党の支持率は低迷している。インドは物価と失業率の上昇、コロナの感染拡大がもたらした経済の低迷、深刻な燃料危機などに悩まされており、「農民の怒り」は支持率の低下に拍車をかけた。

2021年1月30日/インド、首都ニューデリーの郊外、新しい農業法に抗議するハンガーストライキ(Getty Images/AFP通信)

ニューデリーのシンクタンクである政策研究センターは19日、「政府は事態を好転させるために農業法の廃止を決めた」と指摘した。

モディ首相は高額紙幣の使用禁止令や、カシミール州の自治権取り消しなどに対する抗議にも頭を悩ませている。

パンジャーブ州の地元メディアは、「インド人民党の支持率は農業法廃止で多少改善すると思われるが、議席数はほとんど伸びないだろう」と報じた。人口2億人超のウッタル・プラデーシュ州でも厳しい戦いを強いられると予想されている。

モディ首相は、インドの農業部門を近代化するためには新しい農業法が必要と1年以上訴えてきた。

しかし、農業部門の大部分を占める小規模農家は、特定の必須作物の最低価格が保証されなくなることを恐れていた。

政府は最低価格の保証を継続する用意があると述べたが、小規模農家は1960年代に施行された現在の法律の維持を強く求めた。

一部の専門家は、「新しい農業法は大手企業と力のある農家により多くの利益をもたらし、農業部門の80%以上を占める小規模農家、特に1ヘクタール未満の農地で作物を育てている農家を駆逐し、致命的な災害を引き起こすだろう」と主張していた。

昨年11月頃から始まった抗議はおおむね平和的だったが、今年1月に発生した「赤い城」襲撃事件では抗議者1人が死亡、数百人が負傷した。

2021年1月26日/インド、首都ニューデリーにある赤い城(Getty Images/AFP通信)
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