◎中道派のバイデン大統領が発表した巨大インフラ計画の支出は法人税の引き上げによって賄われる予定であり、経済界からの激しい反発と共和党員の爆発的な抵抗に直面することが確実視されている。
2021年3月31日/ペンシルベニア州ピッツバーグ、ジョー・バイデン大統領(ゲッティイメージズ/ジム・ワトソン/AFP通信)

3月31日、ジョー・バイデン大統領は前任者が実行した法人税の大幅な引き下げを取り消し、アメリカの未来を勝ち取る約2.3兆ドル(250兆円)の巨大インフラ計画「アメリカン・ジョブズ・プラン」を開始すると発表した。

ペンシルベニア州ピッツバーグで演説したバイデン大統領は、20世紀を形作ったニューディールや偉大な社会プログラムと同じくらい素晴らしい結果を出すと誓約した。「この計画は、州間高速道路システムや宇宙開発の構築以来となる、1世代に1度の巨大な投資です。これは第二次世界大戦以来最大となる雇用を生み出します。百万もの新たな仕事、高給の仕事を生み出すでしょう」

ホワイトハウスによると、アメリカは化石燃料からクリーンエネルギーにシフトすることで気候変動危機と戦い、巨額の支出は新たな仕事を生み出し、利益をもたらすという。

バイデン大統領は世界第2位の超大国に成長した中国のインフラストラクチャーの増強と公共投資を強く意識している。

バイデン大統領はピッツバーグの支持者に対し、「今行動する必要があります。50年後、人々はあの時インフラを強くしたおかげでアメリカは未来を勝ち取ったと言うでしょう」と述べた。

中道派のバイデン大統領が発表した巨大インフラ計画の支出は法人税の引き上げによって賄われる予定であり、経済界からの激しい反発と共和党員の爆発的な抵抗に直面することが確実視されている。バイデン大統領は今年の夏までに法案を通過させたいと述べたが、上院共和党の激しい抵抗をどのように退けるかは不明である。

ホワイトハウスによると、インフラ計画で発生する巨額の負債は、法人税の引き上げによる追加の税収で15年かけて返済する予定だという。ビジネスマンのトランプ前大統領は法人税を21%まで下げることに成功したが、バイデン大統領はこれを28%に引き上げたいと考えている

バイデン大統領は、「アマゾンを含むフォーチュン500は所得税を1セントも支払っていません」と支持者に呼びかけた。「アメリカを建設したのはウォール街ではありません。アメリカを建設したのは偉大な中産階級です。そして組合は中産階級を築き上げました」

バイデン大統領は低中所得者層を強く意識した育児、家族税額控除、その他の国内プログラムなどにも投資すると発表した。これらの支出も、巨大企業や裕福な個人への増税によって賄われる。

バイデン大統領は過去に類を見ない巨大なインフラ計画の発表をホワイトハウスではなく、あえてペンシルベニア州ピッツバーグで行った。バイデン大統領は2019年の大統領予備選挙のキャンペーンもピッツバーグで開始している。

ピッツバーグはアメリカの産業を支えた製鉄業で発展し、テクノロジー産業とヘルスケア産業でも成果を収め、多くの雇用を生み出した中産階級の街である。バイデン大統領は労働人口の大多数を占める中産階級を強く意識し、法人税の引き上げは必要不可欠であることを訴えた。

ホワイトハウスによると、計画の柱は道路、橋、公共交通機関、電気自動車の充電ステーション、その他の交通インフラへの投資、約6,210億ドル(約69兆円)だという。これにより、温室効果ガスを生み出す時代遅れの技術と見なされたガソリン車、でこぼこの道路、錆びついた橋は改良もしくは修繕される。

さらに、ガタガタの鉛水道管と下水道のアップグレードに約1,110億ドル(約12兆円)、5Gを含むブロードバンドインターネット網の構築に約1,000億ドル(約11兆円)、電力網の整備とクリーンエネルギーへの移行に約1,000億ドル(約11兆円)が投資される予定。

アメリカン・ジョブズ・プランは先月初めに成立した約1.9兆ドル(200兆円)のアメリカン・レスキュー・プランと共に、世界の経済を熱く保つ可能性がある。エコノミストはこの発表前の時点で、2021年のアメリカの経済成長率を前年比プラス6%以上と予測していた。

中産階級に優しい中道派のバイデン大統領は大企業が海外にシフトすることを見越し、21%のグローバル最低税を課すと述べた。これにより、外国企業との合併や、本社をタックスヘイブンに移転して税金を回避する手法は通じなくなる。また、バイデン大統領は国税庁(IRS)の監査を増やすと誓約している。

バイデン大統領は演説の中で共和党員と経済界に法案の交渉に参加するよう呼びかけたが、法案を通過させるには予算調整委員会を通す特別な財政ツールを使用するしかないと考えられている。これを実施しなければ、アメリカン・ジョブズ・プランは上院で議事妨害(フィリバスター)に直面し、行き場を失う。

バイデン大統領は、「私は共和党員を大統領執務室に案内し、彼らの意見に耳を傾け、彼らの意見を理解し、受け入れるつもりです」と述べた。「民主党は誠意を持って交渉します。しかし、私たちは計画を必ず成し遂げなければなりません

民主党の指導者たちはこの計画を受け入れた。チャック・シューマ―上院院内総務は記者団に対し、計画は何百万もの雇用を生み出すだろうと述べた。「私たちは今後数十年にわたってアメリカを前進させる大胆な法案を可決させることを楽しみにしています

一方、保守的な共和党員はバイデン大統領の計画に速やかに反発した。

ミッチ・マコーネル上院少数党首は声明で、増税は「トロイの木馬」に過ぎないと却下した。その他の共和党員も一斉にフェイスブックやツイッターを更新し、増税に力強く反対した。

経済界はインフラの更新を歓迎しているが、法人税の引き上げは嫌がっている。全米商工会議所のニール・ブラッドリーVPは声明の中で次のように述べた。「...計画がもたらす負債の返済方法については、危険なほど間違った方向に進んでいると信じています」

大企業のCEOで構成されるビジネス円卓会議は、通行料などのインフラ使用料で負債を返済したいと考えている。

法人税を21%まで引き下げたトランプ前大統領は声明でバイデン大統領の提案を爆破し、「歴史上最大の自傷行為として記録されるだろう」と述べた。

2021年3月31日/ペンシルベニア州ピッツバーグ、ジョー・バイデン大統領(AP通信/エヴァン・ヴッチ)

アメリカン・ジョブズ・プランの要点

<高速道路とその他の道路の改修費用:1,150億ドル(約12.8兆円)>
ホワイトハウスによると、道路約32,000km、重要な橋、その他の約10,000の小さな橋を改修する予定だという。

<公共交通機関の改修:850億ドル(約9.4兆円)>

<貨物鉄道の改修:800億ドル(約8.9兆円)>
北東部の貨物路線の改修がメインになると伝えられている。

<電気自動車関連のインフラ整備:1,740億ドル(約19兆円)>
電気自動車用の充電ステーションを全国に50万カ所建設する。

<空港の改修:250億ドル(約2.8兆円)>

<河川と港の改修:170億ドル(約1.9兆円)>

<高速道路建設の影響を受けたコミュニティに対する補償:200億ドル(約2.2兆円)>

<自然災害対策強化:500億ドル(約5.5兆円)>

<鉛水道管の交換と下水道システムの改修:1,110億ドル(約12兆円)>

<5Gを含む高速ブロードバンドの構築:1,000億ドル(約11兆円)

<全国の電力網の整備とクリーンエネルギーへの移行:1,000億ドル(約11兆円)>

<低所得者向けの手頃な価格の住宅約200万棟の建設と改修:2,130億ドル(約24兆円)>

<学校の建設と改修:1,000億ドル(約11兆円)

退役軍人病院と診療所の整備:180億ドル(約2兆円)

<連邦政府の施設の改修:100億ドル(約1.1兆円)>

<介護サービスの拡充:4,000億ドル(約44兆円)>

<クリーンエネルギーなどの開発プロジェクトへの投資:1,800億ドル(約20兆円)>

<クリーンエネルギー関連の製造業への投資:3,000億ドル(約33兆円)>

<新たな労働力の開発:1,000億ドル(約11兆円)

法人税率を21%から28%に引き上げる

◎企業に21%のグローバル最低税を課し、節税対策を打ち負かす。

◎企業に15%の最低税を課す。

◎化石燃料業界に与えられた税制上の優遇措置を廃止する。

◎大企業に対するIRS監査を強化する。

スポンサーリンク