◎フランスのジャン=イヴ・ル・ドリアン外相は16日の記者会見で、「背後から刺された」と述べた。
2021年9月16日/フランス、パリのエリゼ宮殿、エマニュエル・マクロン大統領とドイツのアンゲラ・メルケル首相(Michel Euler/AP通信)

「アメリカが帰ってきた!」と喜んだEUは16日、ジョー・バイデン大統領の奇襲攻撃に悶絶した。

米英豪が15日に発表したインド太平洋地域の新しい安保協定AUKUSはフランスのディーゼル潜水艦契約を打ち負かし、EUを枠組みから除外した。

一部の批評家はドナルド・トランプ前大統領の「アメリカ・ファースト」と最近のバイデン大統領の行動を比較している。

AUKUSがアメリカとEUの関係に与える影響は不明だが、中国とロシアに焦点を当てるバイデン大統領の政策がヨーロッパの疑念を深めたことは間違いない。

AUKUSの締結に伴い、アメリカとEUを卒業したイギリスは初めてオーストラリアに原子力潜水艦の技術を提供すると発表した。その結果、フランスとオーストラリアの間で結ばれていたディーゼル潜水艦12隻の建造契約(約660億ドル)は放棄されることになった。

アメリカとEUの確執は、ロシアとドイツ間を結ぶノルドストリーム2ガスパイプラインの建設がウクライナに深刻な影響を与えるという懸念をバイデン大統領が黙認した7月に始まり、先月のアフガニスタン撤退任務で悪化した。

EUはイラン核合意に復帰するというバイデン大統領の決定に歓声を上げたが、復帰に向けた交渉は完全に停滞している。

バイデン大統領の煮え切らない態度にイライラしていたEUはインド太平洋地域の安全保障を強化するという決定には賛成したが、EUをAUKUSから除外したことに憤慨し、アメリカ最古の同盟国であるフランスは潜水艦建造契約を奪われたことに激怒した。

当然のことながら、中国もAUKUSを激しく非難し、「アメリカと英語を話すパートナーたちはインド太平洋を不安定化させようとしている」と主張した。しかし、EUとフランスの反応はさらに深刻で、どちらも事前の相談を受けていなかったと不満を漏らした。

ホワイトハウスとアントニー・ブリンケン国務長官は16日、フランスにはAUKUSの内容を事前に伝えていたと述べたが、いつ伝えたかは明らかにしなかった。またブリンケン国務長官は、「24時間から48時間以内にフランスと話した」と述べ、詳細な協議は行っていなかったと示唆した。

6月に「アメリカのNATO帰還を歓迎する!」と喜びをあらわにしたフランスのジャン=イヴ・ル・ドリアン外相は16日の記者会見で、「背後から刺された」と述べた。「この決定はトランプのやり方によく似ています...」

フランスは太平洋地域に領土を保有しているヨーロッパで唯一の国であり、対中国政策の重要性を十分過ぎるほど理解している。しかし、AUKUSは中国の脅威を抑える欧米の努力に疑問を投げかけるだけでなく、ヨーロッパ自身の防衛と安全保障能力を高めるという計画も停滞させる可能性があると指摘した。

フランスのフローレンス・パルリ国防相は16日の記者会見で、「この決定はヨーロッパの防衛問題の必要性を強調するだけで、インド太平洋の安全保障の強化にはつながらない」と述べた。

EUの外交政策責任者であるジョセップ・ボレル上級代表もフランスの批判に加わった。「私たちは相談を受けていませんでした。受けていたとしても、AUKUSは成立しなかったと思います。AUKUSはヨーロッパの防衛を議題の上位に置くよう私たちに促しています」

EUはAUKUSの発表から数時間後、インド太平洋における経済、政治、防衛の関係を強化するための新しい戦略を発表した。当局は声明の中で、「戦略の目的は国際貿易ルールを強化し、海上安全を改善し、経済関係を強化および拡大すること」と述べた。

しかし、バイデン政権の高官はフランスとEUの苦情を却下し、「フランスの重要性を理解している」というバイデン大統領のコメントを繰り返した。

バイデン大統領は15日の演説の中で、「フランスはインド太平洋の安全と繁栄を強化する上で欠かせない重要なパートナーであり同盟国です」と述べた。「アメリカはフランスやその他の主要国と緊密に協力することを楽しみにしています...」

しかし、どの程度緊密に連携するかは明らかにされていない。

2021年9月16日/ワシントンD.C.ホワイトハウス、ジョー・バイデン大統領(Getty Images/AFP通信/EPA通信)
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