◎ロシアは2014年に併合したクリミア半島を含むウクライナ東部に10万人規模の部隊を配備したと考えられている。
2022年1月28日/ウクライナ、首都キエフの大統領府、ウォロディミル・ゼレンスキー大統領(Ukrainian Presidential Press Office/AP通信)

1月28日、ウクライナのゼレンスキー大統領は東部の国境付近で進行中の危機について、西側の同盟国にパニックを起こさないよう呼びかけた。

ゼレンスキー大統領は記者会見の中で、「ロシアが侵略を開始するという西側の警告がウクライナの経済に深刻な影響を与えている」と懸念を表明した。

ジョー・バイデン大統領は27日の会見で、「ロシアは来月ウクライナに侵略する可能性がある」と述べ、ロシアを強くけん制した。

しかし、ロシアは侵略の可能性を否定しており、セルゲイ・ラブロフ外相は28日の会見で「ロシアは戦争を望んでいない」と述べ、西側の警告を非難した。

ロシアは2014年に併合したクリミア半島を含むウクライナ東部に10万人規模の部隊を配備したと考えられているが、ゼレンスキー大統領は昨年春に起きた同様の危機に比べると、ロシアが攻撃を開始する可能性は現時点では低いと指摘した。

ゼレンスキー大統領は記者団に対し、「同盟国は明日戦争が起こるかもしれないと不安をあおっている」と述べ、いたずらに不安をあおるべきではないと懸念を表明した。「私は最前線の兵士と東部地域の指導者から最新の報告を受けています。最大の脅威は国内情勢の不安定化であり、いたずらに不安をあおるべきではありません」

またゼレンスキー大統領は報道機関もパニックに貢献していると指摘し、主要メディアの質問を却下した。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領はウクライナのNATO(北大西洋条約機構)加盟を「レッドライン」と呼び、それが現実になれば最悪の事態もあり得ると警告している。

プーチン大統領は米国とNATOに危機を解決する安全保障条約の草案を提案したが、米国とNATOは26日にこの提案を正式に拒否したと明らかにしている。

ゼレンスキー大統領は西側に懸念を表明したうえで、「ロシアは東部国境付近に10万人規模の部隊を展開している」と認め、「ロシアは全面戦争に備えている可能性がある」と警告した。

またゼレンスキー大統領は一部の大使館が職員に国外退避を命じた件について、「外交官は船長のようなもの」と述べ、同盟国にパニックを起こさないよう要請した。「外交官は最後の最後まで船にとどまるものです。ウクライナはタイタニックではありません...」

<ロシアの提案(抜粋)>
・ロシアの領土を攻撃できる範囲にNATO軍を配備しない。

・ロシアの領土近くにおけるNATO軍の軍事活動禁止。

・ウクライナのNATO加盟を認めないことを書面で保証する。

バイデン大統領は28日、NATO加盟国が東欧に部隊や支援を送っていることに言及し、「米軍も部隊の一部を東欧に派遣する」と述べたが、部隊の規模やどこに派遣するかなどは明らかにしなかった。

また、ロイド・オースティン国防長官も28日の会見でロシアの侵攻の可能性に言及し、「ロシアはウクライナ侵攻に必要な軍事力を国境付近に集結させた」と述べた。

オースティン国防長官は、「米国は兵器の提供を含め、ウクライナを守ることにコミットしている」と述べ、「外交で緊張を緩和する時間はまだある」と強調した。

米国防総省は24日の会見で「東欧に兵士8,500人をいつでも派遣できる体制を整えている」と明らかにしていた。

一方、フランスの大統領府によると、エマニュエル・マクロン大統領は28日にプーチン大統領と電話会談を行い、「緊張を緩和する必要性」について同意したという。マクロン大統領はプーチン大統領に、近隣諸国の主権を尊重しなければならないと警告した。

ウクライナ軍にヘルメット5,000個を供与するドイツの対外情報局は28日、「ロシアは攻撃態勢を整えたが、実行するか否かはまだ決まっていない」と述べ、不安をあおった。

一部のソーシャルメディアユーザーはゼレンスキー大統領の発言を擁護し、「不安をあおっても問題は解決すぐウクライナに悪い影響を与えるだけ」とメディア報道を批判した。

しかし、一部の専門家は「ロシアはまもなく侵攻すると世界中のメディアが一斉に報じることで、ロシアは侵攻しにくくなる」と指摘した。

ある専門家はフェイスブックに、「西側のメディアは不安をあおりつつプーチン大統領を悪者に仕立て上げ、戦争が起きた場合も、西側はウクライナを守るために行動せざるを得なかったと攻撃を正当化する可能性がある」と述べた。

ロシアは2014年にウクライナ南東部のクリミア半島を併合し、クリミアを「自国の領土」と宣言したが、国際社会はこれを認めていない。

その後、クリミアの北東部に位置するドネツクとルハンシクの分離主義者はウクライナからの独立を宣言した。ロシアは「ドネツク人民共和国」と「ルガンスク人民共和国」の独立を承認したが、西側とウクライナは分離主義者をテロリストと見なしている。

2014年4月21日/ウクライナ東部ルハンシク、親ロシアの反政府勢力(Alexander Zemlianichenko/AP通信)
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