◎ロシア軍は侵攻初期にブチャを占領し、3月30日に撤退したと報告されている。
2022年4月4日/ウクライナ、首都キーウ郊外のブチャ、民間人の遺体(Rodrigo Abd/AP通信)

ウクライナのゼレンスキー大統領は3日、首都キーウ郊外のロシア軍が撤退した地域で民間人400人以上の遺体が収容されたことについて、プーチン大統領をジェノサイド罪で裁くよう西側諸国に懇願した。

キーウ郊外の町ブチャには両手を縛られ、拷問を受けた後に至近距離から撃たれたと見られる民間人の遺体が散乱していた。

ウクライナ当局は3日の声明で一連の戦争犯罪を「ホラー映画のような光景」と表現し、ロシアを厳しく非難した。

欧州の指導者も大量虐殺に激怒し、ロシアに対する追加制裁を要求した。ロシアの天然ガスに大きく依存しているドイツですら、エネルギー禁輸を検討すると提案した。

ウクライナ当局によると、ロシア軍から奪還したキーウ郊外の町で、これまでに少なくとも410人の民間人の遺体を収容したという。

AP通信はブチャのさまざまな場所で少なくとも21人の遺体を確認したと報じている。ロシア軍が基地として使っていたとされる場所には私服の民間人9人の遺体が放置されていた。

9人は至近距離から撃たれたように見え、そのうち2人は両手、1人は両足を縛られていた。

ウクライナ政府はこの虐殺の責任はロシア軍にあるとしたが、ロシア国防省は「過激派による凶悪な挑発行為」と非難を一蹴した。

ロシア軍は侵攻初期にブチャを占領し、3月30日に撤退したと報告されている。

2022年4月3日/ウクライナ、首都キーウ郊外のブチャ、ロシア軍に殺されたとみられる民間人の遺体、両手を縛られていた(Vadim Ghird/AP通信)

AP通信の取材に応じたブチャの住民は、「ロシア軍は建物から建物に移動し、地下室などに隠れていた人々を連れ出し、携帯電話で反ロシア活動の証拠をチェックしてから、連れ去ったり、射殺したりした」と語った。

ブチャの住民ヘレガ氏は、「ロシア軍は暖房用の薪を集めに出た隣人を撃ち殺した」と怒りを爆発させた。「隣人は踵の少し上を撃たれて倒れ、それから左足を撃たれ、最後に全身を撃たれました」

別の住民はAFP通信に、「私は両手を上げて助けを乞う住民が射殺されるところを見た」と述べた。住民の後ろには射殺されたと見られる2人の遺体が転がっていた。

ゼレンスキー大統領の顧問アレストビッチ氏は、ブチャの通りに放置された遺体を「ホラー映画のワンシーン」と表現した。またアレストビッチ氏は、「女性の一部は殺される前にレイプされ、ロシア兵はその後、死体を焼いた」と主張した。

ゼレンスキー大統領はビデオ演説で、「ロシア兵は民間人を拷問し、殺害した」と非難し、国際社会により強力な対ロシア制裁を求めた。「ロシア軍の戦争犯罪を、この地球上の最後の悪とするために、可能な限りのことをする時が来ました...」

またゼレンスキー大統領は戦争に関与したロシア兵の母親にも怒りをぶつけた。「あなたたちは略奪者を育てました。あなたも見過ごすことはできないはず。彼らには慈悲も思いやりもない。彼らは意図的に、そして喜んで殺したのです」

ゼレンスキー大統領はロシア軍が犯したすべての犯罪を調査する特別な司法機構を創設すると明らかにした。

2022年4月3日/ウクライナ、首都キーウ郊外のブチャ、集団墓地(Rodrigo Abd/AP通信)

ロシア国防省は3日、「死体の写真や動画はウクライナ政府が西側のメディア向けに演出したもの」と述べ、ロシア兵が虐殺したという西側の主張を却下した。

また同省は、「ブチャの市民は誰ひとり暴力的な軍事行動に直面したことはなく、ロシア軍が去った翌日、市長はいかなる虐待にも言及しなかった」と述べた。

ロシア政府は西側に虐殺犯と呼ばれたことについて、国連安保理に特別会合を開くよう要請した。西側はロシアが安保理を利用して偽情報を拡散していると非難している。

首都キーウの西約50kmに位置するモティジンの住民はAP通信の取材に対し、「ロシア軍は町長とその夫と息子を殺し、松林に死体を投げ入れた」と語った。

AP通信によると、住民の言う松林には穴が掘られ、4人の遺体が投げ捨てられていたという。市長の夫は両手を後ろで縛られ、目隠しをされていた。

欧州の一部の首脳はキーウ郊外の民間人虐殺を戦争犯罪に相当すると述べた。

米国のブリンケン国務長官は3日に放送されたCNNニュースのインタビューの中で、キーウの画像を「惨劇」と評した。

NATOのストルテンベルグ事務総長もCNNニュースの中で、「欧州で何十年も見たことのない民間人に対する残虐行為」と述べ、ロシアを厳しく非難した。

キエフのクリチコ市長は3日、ロシアの天然ガス輸入が虐殺の資金源になっているとして、各国に禁輸に踏み切るよう呼びかけた。

ドイツのランブレヒト国防相もEUは禁輸を検討すべきと提案している。

ランブレヒト国防相は公共放送ARDのインタビューの中で、「ロシアのガス供給停止について話し合う必要があるだろう」と述べ、犯罪を放置することはできないと語った。

EU諸国はこれまで、ロシア産エネルギーの禁輸がもたらす影響に懸念を示し、一部の指導者は措置に強く反対している。ロシアは欧州のガスの40%、原油の25%を供給している。

ロシアの化石燃料を手放せばガソリン代や光熱費はさらに上昇し、エネルギー危機と景気後退を招く可能性がある。

米国はロシアとの石油取引を停止したが、その割合はEUに比べるとごくわずかで、天然ガスは購入していない。

一方、米国防当局は3日、ロシア軍が東部に部隊を再配備している兆候が見られると報告した。

ロシア軍はキーウ周辺や北部地域から撤退し、その一部は同盟国のベラルーシに向かったと伝えられている。米国や英国の機関によると、その他の部隊は東部ドンバスの分離主義国家の支配地域、マリウポリ、その他の激戦地に向かったと考えられている。

南東部の要衝マリウポリは今回の戦争で最大の被害を受けたと考えられているが、周囲をロシア軍に包囲されているため、地域内にとどまっているとされる10万人以上の民間人の現状はほとんど分かっていない。

マリウポリ当局は、食料、医薬品、燃料、その他のありとあらゆる日用品が不足し、地域は人道的危機の真っただ中にあると述べている。

赤十字社は3日、マリウポリの住民の避難を支援するために派遣されたチームは、まだ現地に到着できていないと報告した。

ウクライナ当局によると、ロシアは数日前にマリウポリの人道回廊設置に合意したが、合意後も砲撃はやまず、避難はほとんど進んでいないという。

ウクライナ軍は4日未明、北部チェルニヒフ地方のいくつかの町を奪還し、人道援助を届けたと発表した。AP通信によると、チェルニヒフと首都キーウを結ぶ道路は4日の午前には通行を再開できる見通しだという。

ロシアの侵攻により犠牲者は分かっているだけで数千人と見積もられている。国外に避難した市民は410万人を超えた。

2022年4月3日/ウクライナ、首都キーウ郊外のブチャ、ロシア軍に殺されたとみられる民間人の遺体(Vadim Ghird/AP通信)
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