◎ウクライナ軍は南部ヘルソン州の州都ヘルソン市の奪還を目指し攻勢を強めているとみられる。
ロシア国防省が2022年5月28日に公開した映像、極超音速ミサイル「ジルコン」の発射試験(Russian Defense Ministry Press Service/AP通信)

ロシア政府は29日、南部クリミア半島のロシア軍艦隊がウクライナ軍のドローン攻撃を受けたと主張し、国連・トルコ仲介によるウクライナ産穀物輸出を停止した。

国連のグテレス(Antonio Guterres)事務総長は前日、協定締結以来、ウクライナ産小麦を含む食料900万トン以上が輸出されたと報告し、協定の延長を求めていた。

ウクライナ政府はロシア艦隊へのドローン攻撃を否定し、「ロシア軍は兵器を誤って取り扱い自爆した」と反論している。

ウクライナ軍は南部ヘルソン州の州都ヘルソン市の奪還を目指し攻勢を強めているとみられる。同州は穀物輸送の拠点である南部オデーサ州のすぐ東に位置する。

グテレス氏はロシアとウクライナに対し、11月19日に期限切れとなる穀物輸出協定の更新を促していたが、追い詰められたロシアはこれを拒否し、黒海封鎖に踏み切るとみられる。

しかし、ゼレンスキー(Volodymyr Zelenskyy)大統領は29日に公開した動画で、「遅かれ早かれこうなると分かっていた」と述べた。ゼレンスキー氏によると、ロシアは先月以降、穀物の輸送を妨害していたという。

国連のデュジャリック(Stephane Dujarric)報道官は29日、ロシアの発表に深刻な懸念を表明し、ロシア当局と連絡を取っていると報告した。

またデュジャリック氏は、「穀物協定を危険にさらすような行動を控えることが重要だ」と呼びかけた。

しかし、ゼレンスキー氏によると、ロシア軍が輸送を妨害している影響で、現在、176隻の貨物船が黒海で待機を余儀なくされ、食料200万トン以上が行き場を失っているという。

ゼレンスキー氏はビデオ演説で「ロシアは貧しい国々を飢餓に追いやろうとしている」と非難し、ロシアを除くG20首脳と国連に対ロシア制裁を強化するよう呼びかけた。

ウクライナのクレバ(Dmytro Kuleba)外相もロシアの主張を「偽旗作戦」と一蹴し、ロシアは世界を人質に取っていると非難した。

ブリンケン(Antony Blinken)米国務長官も29日遅くに声明を発表。「穀物輸出を妨害する行為は世界の人々にもっとお金を払うか飢えるか選べ、と脅迫するようなものだ」と述べた。

一方、ロシア外務省は29日、クリミアのロシア艦隊に対するドローン攻撃にイギリスの専門家が関与していると主張した。イギリス政府はこの主張に対するコメントを出していない。

同省は声明で、「イギリスの専門家が率いるウクライナの武装勢力は黒海の人道回廊の安全と機能を確保するロシア船に攻撃を仕掛け、この海域で活動する民間貨物船を脅かした」と述べている。

一方、ウクライナ当局は、「自軍は黒海の港や輸送ルートに攻撃を仕掛けたことは一度もなく、今後も輸送を継続できるよう努力する」と述べている。

8月1日に最初の貨物船がオデーサの港を離れて以来、アフリカやアジア諸国などに900万トン以上の食料が輸出された。国連世界食糧計画(WFP)はこのうち小麦19万トンを飢餓が侵攻しつつある国々に送っている。

ロシアは黒海艦隊と協定が脅かされたとして、国連安保理に31日に緊急会合を開催するよう要請した。

ロシアの農相は国営テレビのインタビューで、「ロシアはウクライナの穀物を完全に代替し、すべての関係国に手頃な価格で食料を供給する用意がある」と述べている。

ロシアは29日早朝の声明で、クリミア半島の艦隊の1隻がドローン攻撃を受けたと報告したが、ウクライナはこれをロシア軍のミスによる自爆とみている。

ロシアはウクライナ軍が夜明け前に港に停泊していた艦艇と民間船にドローン攻撃を仕掛け、ロシア軍はドローン16機を撃墜したと説明している。

ロシアはこれを「大規模攻撃」と呼び、ウクライナ軍の関与を示す証拠を回収したと主張したが、証拠は示さなかった。

ウクライナ内務省は、「ロシア軍は爆発物を不適切に扱い、黒海艦隊の軍艦4隻で爆発を引き起こした」と報告した。内務省報道官によると、フリゲート艦、揚陸艦、7月の西部への攻撃に使われたとされる巡航ミサイルを搭載した艦艇で爆発が確認されたという。

一方、南部で反転攻勢を強めるウクライナ軍は、ロシア軍がヘルソン州の医療器具や救急車を接収していると報告した。

ヘルソン州のロシア首長は市民にロシア領またはクリミア半島に避難するよう促している。首長によると、市民数万人がロシア領に避難したという。

ウクライナ軍が南部で攻勢を強める一方、ロシア軍は東部ドネツク州やルハンシク州でミサイル攻撃を続けているとみられる。

ドネツク州のウクライナ当局は29日、ロシア軍が同州の拠点のひとつバフムートに対する攻撃を強化し、この24時間で民間人少なくとも3人が死亡、8人が負傷したと報告した。

一方、ロシアとウクライナは29日に新たな捕虜交換を行ったと発表。ウクライナ兵50人と民間人2人、ロシア兵50人が解放された。

2022年10月29日/ウクライナ、東部ドネツク州スラビャンスクの住宅地(Efrem Lukatsky/AP通信)
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