コロナショックで延期されたポーランド大統領選挙

28日、ポーランドの運命を決める大統領選挙が行われる。

現職のアンジェイ・ドゥダ大統領は、与党の「法と正義党(PIS)」の支援を受け、選挙戦を有利に進めてきた。しかし、これに対抗する野党候補者たちも支持率を伸ばし、ポーランドの政治に大きな変化をもたらす、と期待されている。

9名の候補者のうち、ドゥダ大統領のライバルと目されているのが中央右派の元ワルシャワ市長、ラファウ・トゥジャスコフスキ氏である。

地元メディアは、28日の投票で票の過半数を獲得する候補者は出ず、2週間後の決戦投票(上位二名)に進むと予想している。

EU諸国もポーランドの情勢を注視している。司法とメディアに対する論争の的となっている改革法案を巡っては、ドゥダ大統領とEUが激しく衝突しており、この”いさかい”が解消する見通しは立っていない。

ドゥダ大統領は、政権に批判的な司法およびメディアの切り崩しを狙い、最高裁判所および公共放送人事に介入できる法案の採択を推し進めた。これに対し、EU司法裁判所は行政の司法介入を「EU法違反」と見なした。なお、この法的争いは現在も続いている。

今月、欧州委員会(EC)副委員長のベラ・ヨウロバー氏が、LGBTの権利を公の場で擁護した。これに対し保守派のドゥダ大統領は、「共産主義より破壊的なLBGTの権利を認めるなどあり得ない。欧州の政治家が、他国(アメリカ)で発生した一時的な問題に感化され、それに同調し、自分の身を守るなどあってはならない」とLGBTの権利を批判する声明を発表した。

一方、ライバル候補の最右翼、トゥジャスコフスキ氏は、EUとの関係修復を選挙公約に掲げている・

与党のPISは、野党候補が大統領になることを恐れている。ポーランド大統領は「拒否権」を持っており、仮にトゥジャスコフスキ氏が当選した場合、ねじれが発生してしまう。この状態に陥れば、与党が提出した法案は大統領が承認しない限り、ことごとく却下されるだろう。

ドゥダ大統領は大西洋全域でアピール活動を展開しており、先週の水曜日には、コロナウイルスの大流行以来、初めてトランプ大統領と会談した外国人首脳になった。

現地メディアは、「保守的な思考を持つ二人は大の仲良し。遠くから見ると父と息子に見える。今、なぜ、アメリカに渡航し首脳会談を行う必要があるのだろうか?」と報道した。

ドゥダ大統領を招き入れたトランプ大統領は記者団に対し、「彼は素晴らしい仕事をしている。ポーランド国民は彼と共に歩み、さらなる成長を遂げるだろう。彼は来週の大統領選挙で成功する」と述べた。なお、トランプ大統領がドゥダ大統領をホストとして迎えたのは3回目である。

この会談でトランプ大統領は、ドイツから撤退する数千人のアメリカ軍兵士の一部をポーランドに派遣する、と約束した。

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勝者は?

28日の投票で過半数の支持を得る候補者はまずいない、と大方のメディアは予想している。

現職のドゥダ大統領は、野党筆頭候補トゥジャスコフスキ氏の猛烈な巻き返しを受けている。また、自身の保守的な発言が支持率低下を招き、厳しい選挙戦を強いられる可能性が高い。

トゥジャスコフスキ氏は5月のレース参入以来、支持率をジワジワと押し上げてきた。同氏は2018年のワルシャワ市長選において、「ワルシャワは市民のもの、我々政治家はその後押しをし、市民が主体となって街を盛り上げていくことが重要である」と述べ、勝利を収めた。

現職のドゥダ大統領は、10年前の大統領専用機墜落事故で死去したレフ・カチンスキ氏の補佐官として活躍。敬虔なカトリック信者であり、その保守的思想は宗教の影響によるものと言われている。

ポーランドでは同性愛者カップルの結婚は認められておらず、また子供を養子に向かえることもできない。ドゥダ大統領はこの法を支持しており、同性愛者やLGBTに対する差別的な扱いを支援すべく、この法を守る誓約書に署名した。

LGBTの権利を否定する発言などにより、ドゥダ大統領の支持率は降下しつつある。しかし、大方のメディアは現職の再選が固いと予想。トゥジャスコフスキ氏を除く他の候補者(抜粋)は以下の通り。

ヴラディスワフ・コジニアック・カミシュ氏:PSLポーランド人民党党首。農村および農業関連分野に支持基盤を持つ。

クシシュトフ・ボサク氏:極右派、死刑制度の復活を公約に掲げている。

●ロバート・ビードロン氏:スウプスク市長。同性愛者であることを公言している。LGBTおよび同性愛者の権利強化を主張、公約に掲げている。

コロナウイルスの感染拡大により、5月に予定されていた大統領選挙は1カ月半延期された。5月時点のドゥダ大統領の支持率は現在よりはるかに高く、予定通り投票が行われていれば、第1ラウンドで勝利していた可能性が高い、と言われている。

PISは5月の投票実施に向け全力を尽くした。しかし、野党から公衆衛生より選挙活動を優先させている、と厳しく追及され、コロナショックの第一波に屈した。

ポーランドは3月初旬に厳格なロックダウンを発動、パンデミックを抑え込むことに成功した。この対応を世界保健機関(WHO)も賞賛している。

ジョンズ・ホプキンズ大学の調査によると、27日時点のポーランドの累計感染者数は33,714人。1,435人の死亡が確認された。運命の大統領選挙(第1ラウンド)は28日に投票が行われ、即日開票される。

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