何が起きた?

8月4日、レバノンの救急隊員たちは首都ベイルートの港湾エリアで発生した大爆発に巻き込まれた人々の救助を継続している。これまでに少なくとも100名以上の死亡が確認され、4,000人以上が負傷した。

ベイルートを襲った大爆発は町全体を揺さぶり、人々は巨大なキノコ雲を見た。

ミシェル・アウン大統領は国民に対し、「港湾エリアの倉庫に保管されていた硝酸アンモニウム2,750トンが何らかの原因で爆発したものと思われる」と声明を発表した。

硝酸アンモニウムは、農業の肥料や爆発物に使用される危険物である。

アウン大統領は8月5日に緊急閣僚会議を開催し、緊急事態宣言(2週間)を発出することになると述べた。

レバノンは8月5日から8月7日まで、公式の喪中期間に入る。

現地時間18:00頃、港湾エリアの倉庫が炎に包まれたのち、大爆発が発生した。

爆発を目撃したハディナ・スララ氏はBBCの取材に対し、「火災が起きたことは分かったが、爆発は完全に予想外だった。私は数秒間聴力を失い、一瞬、何が起きたか分からなくなった。次の瞬間、車、ビル、商店、ありとあらゆる建物のガラスが砕け散り、降り注いだ」と述べた。

BBCベイルートのリナ・シンジャブ氏は、港湾エリアから車で5分ほど離れた建物も爆発の衝撃で破損したと説明し、「大きな音が聞こえたと思った瞬間、建物の窓が砕け散り、室内はメチャクチャになった」と語った。

大爆発の衝撃波は、ベイルートから240kmほど離れたキプロス島でも感じられたという。現地住民は、「地震かと思った」と述べていた。

レバノン情勢に精通するジャーナリストのラミ・ルハイエム氏は、爆風の影響で街は大混乱に陥り、現地へ向かう救急車などが通路の確保に苦労していたと述べた、また、ベイルートに通じる高速道路がガラスや瓦礫に塞がれてしまい、トラクターがその撤去を行っていたという。

地元メディアによると、爆心地に近い建物などで、瓦礫の下に取り残された人々が複数名確認されており、救助活動を継続中。エリア内の病院は、数千名規模のケガ人と大量の問い合わせに圧倒されている。

レバノン赤十字病院の代表を務めるジョージ・ケッタニ氏はBBCの取材に対し、「これまで経験したことのない規模の災害が起きた。至る所に犠牲者が倒れている」と述べた。

現時点で確認された死者数は100名超。さらに、100名以上の行方不明者がいると想定されており、爆心地に近いエリアで重点的に捜索が進められている。

レバノンのジャーナリスト、スニバ・ローズ氏は、「爆発後、町は真っ暗になった。エリア内を移動することは非常に難しく、ガラスを浴びた人々は血まみれになっていた。救急箱を持って飛び出してきた医師が、86歳の女性に応急処置を施していた。煙は日が暮れてもモクモクと上がり続けている」と語った。

レバノン当局は、港湾エリアに投棄された船(2013年)から発見された大量の硝酸アンモニウムを同エリア内の倉庫内に保管していたと説明。爆発原因については現在調査中だという。

イギリスMI6の元諜報管、フィリップ・イングラム氏はBBCの取材に対し、「硝酸アンモニウムは、特定の状況下でのみ爆発性物質に変えることができる」と述べた。

硝酸アンモニウム(NH₄NO₃)には様々な用途があり、最も一般的なものは「農業用肥料」と「爆発物」である。

火と接触することで爆発の危険性が高まる。さらに、今回のような大爆発を起こすと、窒素酸化物やアンモニアガスなどの有毒ガスを放出し、人体に深刻な影響を与える可能性がある。

同物質を保管するためには、厳格なルールを遵守しなければならない。まず、保管場所は完全耐火性を求められる。さらに、火源になるもの、ガス管や下水管など、火災が発生した際に被害を拡大させる可能性のある施設は設置できない。

イングラム氏は、硝酸アンモニウムを正しく安全に保管することは難しくないと述べた。ただし、限られたスペースに燃料やその他の汚染物質などをまとめて保管すると、爆発を引き起こす可能性も否定できないという。

レバノン高等防衛評議会は、「爆発原因に関連する関係者たちは、最大限の罰を受けるだろう」と声明を発表した。

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爆発の背景は?

今回の大爆発は、非常に微妙なタイミングで発生した。

レバノンではコロナウイルスの感染拡大に伴い、病院は機能不全に陥りかけていた。医療関係者たちは、感染者と数千名規模の負傷者に圧倒されている

また、同国はここ数年、厳しい経済危機に直面している。さらに、コロナショックの影響で国内のありとあらゆる産業がダメージを受け、国の経済はどん底状態だった。

レバノンは食料のほとんどを輸入品に頼っている。今回の大爆発で港湾エリアに保管していた大量の穀物が被害を受けたため、関係者は、「食料不安に対処すべく行動しなければならない」と述べた。

輸出入の起点になる港湾エリア自体も甚大な影響を受けている。これを早急に復旧しなければ、海外に船を送り出すことはできず、当然受け入れも難しくなるだろう。

また、爆風の衝撃でビル、戸建て住宅、商店、ありとあらゆる建物がガラスと瓦礫にまみれており、住居を失った住民への緊急支援が必要不可欠である。

アウン大統領は1,000億リラ(約1兆7,000億円)の緊急基金を開放すると発表したが、経済活動への影響は長期間に及ぶと予想されており、コロナ対策と並行して復旧活動を進めるためには、さらなる予算措置が必要になるかもしれない。

今回の大爆発は、2005年にラフィーク・ハリーリー前首相が暗殺された現場の近くで発生した。なお、前首相の暗殺に関与した4人の裁判は、オランダ特別裁判所で実施される予定である。

レバノンの緊張状態は、1975年から1990年の内戦以来、最悪と言われている。さらに、政府の経済対策も上手く進まず、国民の不満を示すデモ活動が連日開催されていた

政府は山積する問題を解決できず、国民の不満を招いた。さらに、一部の与党政治家が政権を支配し、自分の富だけに執着した結果、汚職が横行している。

政治化が不正に利益を得る一方、国民は連日停電に悩まされ、安全な飲料水も入手できないという。また、高齢者は限られた医療体制の加護を受けることができず、命を落としている。

イスラエルとの緊張関係も同国に暗い影を落とす。

先週、レバノン国内で活動するシーア派イスラム組織、ヒズボラによるイスラエル領土への侵攻作戦が試みられた。これは失敗に終わったが、両国のさらなる関係悪化は避けられないだろう。なお、イスラエルの高官は、「ベイルートの爆発にイスラエルは一切関与していない」と述べている。

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