◎イスラエルの指導者の大半はイラン核合意に強く反対している。
2022年7月14日/イスラエル、エルサレムの政府庁舎、ラピド首相とバイデン米大統領(Evan Vucci/AP通信)

中東歴訪中のバイデン(Joe Biden)大統領は14日、イスラエル首相との共同記者会見でイラン核合意に関する質問を受け流し、同核合意復帰に向けた交渉に疑問を投げかけた。

米国はイラン核合意「包括的共同行動計画(JCPOA)」への復帰を望んでいるが、イスラエルは宿敵イランに対する経済制裁を維持し、徹底的に弱体化させることを強く望んでいる。

バイデン氏は最近のインタビューで、核合意を再開させる最後の手段として軍事力行使を検討すると述べたが、共同記者会見の中では外交を維持するとし、「交渉に期限を設けるか?」と質問をかわした。

トランプ(Donald Trump)前大統領は2018年にイラン核合意から離脱し、イランの外国資産を凍結したうえで、イランの原油、天然ガス、石油化学製品などに対する投資を禁止した。しかし、イランは制裁発動も中国などに原油を輸出し続けている。

バイデン氏はイスラエルのジャーナリストから、「イラン核合意に復帰するか否かを含め、あなたは何を待っているのか?」と質問を受け、「私たちは返事を待っている」と答えた。「私たちは明確な返事を待っています。それがいつ起こるか、起こらないのか。私には分かりません。しかし、いつまでも待つつもりはありません...」

イランは米国が制裁を解除すれば合意に復帰するという見方を示している。一方、米国はイランが濃縮ウランを含む核兵器につながるものをすべて破棄すると約束すれば、協議は進展するとしている。

バイデン氏とラピド(Yair Lapid)首相が署名した文書には、「米国はそれ(イランの核廃棄)を確実にするために、あらゆる力を行使する用意がある」と書かれている。

ラピド氏は会談前のメディアセッションでバイデン氏に対し、イランの軍事的脅威を交渉のテーブルに乗せるよう求め、イラン核合意復帰には外交努力だけでは不十分と主張した。

「イランが核開発を続けるのであれば、世界はそれを止めることができるのは武力行使だけと知ることになるでしょう。現時点でそれを止めることができるのは武力行使だけです」

ラピド氏はバイデン氏が訪問を予定しているサウジアラビアなどのアラブ諸国とイスラエルの関係が改善することにも焦点を当て、イラン核合意に関する両国の隔たりをフォローした。

ラピド氏はイランについて、「イスラエルはそれ(イランと核兵器)に対処する最善の方法は何かを議論している」と述べ、イラン核合意が唯一の答えだとは思わないとくぎを刺した「要は、イランの核武装を決して許さないということです。それに尽きます」

ラピド氏はバイデン氏が「イランに対する武力行使も辞さない」と述べたことを念頭に置き発言したものと思われる。バイデン氏は「最後の手段」と述べているが、詳細には触れていない。

イスラエルの指導者の大半はイラン核合意に強く反対しており、外交だけでイランの核開発計画を止めたり、イエメン内戦の当事者であるシーア派原理主義組織ハマスなどへの兵器供与を止めることはできないと考えている。

バイデン氏はインタビューの中で、「イスラエルからイランに対する軍事攻撃の計画について詳細を提供するよう求められたか?」という質問も受け流している。

またバイデン氏は、「現在のイランより悪いイランにならないことが重要」と強調した。「現在のイランより悪いイランは、核兵器を保有するイランだけです」

バイデン氏はトランプ氏のイラン核合意離脱は大きな間違いだったと指摘し、イランは核兵器に近づいていると警告した。

AP通信によると、バイデン政権のイラン特使であるマレー(Robert Malley)氏は今年開かれた上院外交委員会の中で、「最良の選択は外交」とする一方、軍事介入もあり得ると述べたという。

上下両院の共和党員と一部の民主党員はイラン核合意に懐疑的である。バイデン氏が核合意復帰を決めたとしても、正式復帰には上下両院の承認が必要であり、勢力が拮抗している上院を通過できるという保証はない。

ホワイトハウス報道官は今年初め、イランの核開発が加速していることに懸念を表明し、すぐに合意に至らなければ復帰は不可能と述べていた。

イスラエルは米国が核合意復帰に向けた交渉の中で、イラン革命防衛隊(IRGC)のテロ組織指定を解除する可能性があることにも強い懸念を表明している。

IRGCはイラン国務省の管理下に置かれる準軍事組織のひとつで、イエメンのフーシ派、レバノンのイスラム過激派組織ヒズボラ、ガザ地区のハマスなどに兵器や兵士を提供し、シリアのアサド(Bashar al-Assad)政権をバックアップしている。

イラン核合意は3.67%以上のウラン濃縮を禁止しているが、国際原子力機関(IAEA)によると、イランは60%の高濃縮ウランを生産し続けている。

<ウラン(U-235)の濃縮度>
・0.7%:標準
・2~5%:原子炉燃料(軽水炉用)
・3.67%以下:イラン核合意の規定値
・20%以上:高濃縮ウラン
・90%以上:核兵器用

2022年6月29日/トルクメニスタン、ロシアのプーチン大統領(右)とイランのライシ大統領(Mikhail Klimentyev/Sputnik/Kremlin/Pool)
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