◎ベイルート港の倉庫に放置されていた硝酸アンモニウム約2,750トンは昨年8月4日に爆発した。
2020年8月5日/レバノン、首都ベイルートの港(AP通信/Hussein Malla)

7月2日、昨年8月に発生したベイルート港の大爆発の調査を主導している裁判官は、現職および退任した政府高官の罪を追求すると発表した。

国営メディアによると、タレク・ビタール裁判官は現職の治安当局者と元政府高官の起訴に向けた準備を進めているという。ビタール裁判官の前任者は2人の元大臣による異議申し立てを受け解任されており、腐敗しきった政府に立ち向かう裁判所の姿勢は市民の称賛を集めた。

国営メディアは報道の中で、「ビタール裁判官は前任者によるハッサン・ディアブ首相の起訴をあらためて確認したうえで、尋問のために彼を召喚した」と述べた。尋問の日付けは明らかにされていない。

ディアブ首相は港の爆発から1週間後に辞任を表明したが、イスラム過激派組織ヒズボラを含む関係組織が新内閣の発足に合意しなかったため、同氏は暫定首相に就任した。

ファディ・ソーワン裁判官(前任者)は昨年12月初旬にディアブ首相と3人の元閣僚を起訴すると発表したが、ディアブ首相は出頭要請を却下している。

ビタール裁判官は政府と内務省に、レバノンで最も著名な治安当局者のアッバス・イブラヒム少将と国家治安部長のトニー・サリバ少将に尋問する許可を求めた。

またビタール裁判官は議会に、前任者から起訴された3人の元閣僚の免責を解除するよう要請したうえで、元陸軍将軍と元軍事情報部長を起訴した。

ベイルート港の倉庫に放置されていた硝酸アンモニウム約2,750トンは昨年8月4日に爆発した。犠牲者は211人、6,000人以上が負傷し、約30万人が住居を失い、中東を代表する港湾都市は壊滅的な打撃を受けた。

爆発は最大の非核爆発の1つと見なされ、レバノンの歴史の中で最も破壊的な事件として記録されることになった。

爆発の生存者と遺族は、硝酸アンモニウムを不適切に取り扱った政府高官の汚職と過失を非難している。

レバノンの弁護士兼活動家のニザール・サギエ氏はツイッターに、「ビタール裁判官は非常に勇気のある決断を下した」と投稿した。「彼は政府の上級高官に対する戦いの扉を再び開きました...」

しかし、一部の専門家は、「イスラム過激派組織ヒズボラがビタール裁判官の職務遂行を許可しなかった場合、彼と家族は路頭に迷うだろう」と警告した。

ディアブ首相は昨年12月の起訴を拒否した後、議会にアリ・ハッサン・ハリル元財務大臣、ガジ・ツァイター元公共事業大臣、ヌーハド・マチュヌーク元内務大臣に免責を与えるよう要請した。

ハリル元財務大臣とツァイター元公共事業大臣は、レバノンで最も強力なナビーフ・ビッリー議会議長と最大派閥ヒズボラの同盟国である。

ハリル元財務大臣ツァイター元公共事業大臣は2日遅くに発表した共同声明の中で、「メディアを通じてビタール裁判官の要請を知った」と述べ、「尋問を受ける準備はできている」と付け加えた。

ビタール裁判官は2月、異議申し立てを受け解任されたソーワン裁判官の後任として調査を主導することになった。

4月中旬、ビタール裁判官は、数か月間拘留されていたベイルート港の警備員を含む6人の釈放を命じた。釈放された者の中には、港に保管されていた硝酸アンモニウムの危険性について高官に詳細な警告文を書いた警官が含まれていた。

2020年8月31日/レバノン、首都ベイルート、「真実と正義」を求める抗議者(AP通信/Hussein Malla)

ベイルート港の爆発について

・硝酸アンモニウム2,750トンをベイルート港に運び込んだ貨物船は「Rhosus(ローサス号)」。

・ローサス号は1986年に築造された。

・ローサス号の元所有者はロシアの実業家、イゴール・グレシュキン氏。

・2013年7月、モザンピーク共和国に向け航行中だったローサス号は、セビリア港で安全対策の欠陥(計14カ所)を指摘される。積み荷は硝酸アンモニウム2,750トンだった。

・硝酸アンモニウムの供給会社は「Rustavi Azot LLC」。顧客はモザンピーク共和国の国際銀行。当行によると、商業用爆薬を製造する国内の企業に代わり、硝酸アンモニウムを購入したという。

・2014年2月、ローサス号がベイルート港に入港。この時、ローサス号は約100,000ドルの未払い請求を抱えており、ベイルートの港湾当局に「差し押さえられた」。

・2014年6月頃、乗組員たちは、ローサス号の船内に危険物質が積まれていることを港湾当局者や関係者に警告していた。

・2014年9月、ベイルートに足止めされていた船長と乗組員、帰国。

・港湾当局は司法に複数回書簡を送り、硝酸アンモニウムの再輸出または販売の許可を求めていたと主張。しかし、地元メディアの調査報道記者、リヤド・コベス氏は司法に提出した書簡に問題があったと指摘。裁判所は間違いを何度も指摘し、さらなる情報を求めていたという。

・2020年8月4日、爆発発生。

・211人以上が死亡、6,000人以上が負傷、推定30万人が住居を失いホームレスになった。

・国連の調査によると、爆発で住宅約20万戸、その他の建物約4万戸が被害を受け、そのうち3,000戸は立ち入りできないほど深刻なダメージを負ったという。

・2020年11月24日、レバノンの検察当局、シーア派イスラム原理主義組織ヒズボラの要人と伝えられているベイルート港の元税関職員などを起訴

・2020年12月、レバノンの検察当局、ハッサン・ディアブ首相と3人の元閣僚を起訴

・2020年12月、レバノン政府を支援した米連邦捜査局(FBI)によると、爆発を引き起こしたのは「硝酸アンモニウム約500トン」だったという。なお、FBIは調査結果を公表しておらず、硝酸アンモニウムの保管量が当初の発表(2,750トン)と合致しない理由は明らかにされていない。

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