◎ロンドンの裁判所は2年前、数カ月におよぶ審理の末、ジョニーが12回アンバーを暴行した認定した。
2022年5月4日/バージニア州フェアファックスの地方裁判所、女優のアンバー・ハード(Elizabeth Frantz/Pool/AP通信)

女優のアンバー・ハード(Amber Heard)は1日、元夫のジョニー・デップ(Johnny Depp)が起こした名誉棄損裁判で敗訴し、ソーシャルメディアで徹底的に叩かれ、複数のジョニーファンから「殺す」と脅され、賠償金1035万ドル(約13億4000万円)を支払うよう命じられた。

バージニア州フェアファックスの民事陪審員はアンバーが2018年にワシントン・ポスト紙に寄稿した記事がジョニーの名誉を毀損したと認めた。

アンバーは記事の中でジョニーの名前には触れていないが、ジョニーは記事のせいで名誉、名声、ファン、「パイレーツ・オブ・カリビアン」フランチャイズ、「ファンタスティック・ビースト」シリーズを失ったと主張していた。

米国の一部の専門家はこの判決に驚き、懸念を表明している。

一方、ソーシャルメディアにはアンバーを嘲笑する投稿が多数寄せられた。「ざまあみろ」「馬鹿」「私のジョニーと結婚した罰」

人権団体で働いているというツイッターユーザーは、「なぜ性的暴行を受けた女性がここまで叩かれ、誹謗中傷を受けるのか?」と投稿している。

ジョニーは2年前、英タブロイド紙サン(The Sun)が報じた記事で「妻を殴打する男」と名指しされたことに憤慨し、名誉棄損裁判を起こした。

ロンドンの裁判所は数カ月におよぶ審理の末、アンバー側が提示した証拠を「おおむね真実」と認め、ジョニーが12回アンバーを暴行したと認定した。判事はジョニーの控訴を棄却している。

アンバーの主任弁護士であるブレデホフト(Elaine Bredehoft)氏は2日、米CBSニュースのインタビューの中で、「陪審員はハードさんを非難し、デップさんを支持するソーシャルメディアの執拗な投稿に影響を受けた」と主張した。

アンバー側は控訴する予定である。

ブレデホフト氏は「アンバーは脅迫に直面している」と述べた。「彼女の赤ん坊を電子レンジでチンすると脅した人もいます。皆、ハードさんを殺したいそうです。ここはローマのコロッセオですか?」

「陪審員は裁判中は何も見てはいけないと言われています。しかし陪審員にも週末があり、家族があり、ソーシャルメディアがあるんです」

ブレデホフト氏は米NBCニュースのインタビューの中で、「2020年のロンドン裁判で認められた証拠が、今回の訴訟では認められなかった」と指摘した。「我々は陪審員に事実を伝えましたが、今回は認められませんでした。デップさんたちがこの件で何を学んだと思いますか?ハードさんを悪者にすること、そして証拠を隠滅することです!」

今回の訴訟の焦点は暴力ではなく「2018年の記事がジョニーの名誉を毀損したかどうか」だった。

陪審員はアンバーに賠償金1000万ドルと懲罰的賠償金500万ドルを支払うよう命じたが、州の規則に基づき、懲罰的賠償金の額を上限の35万ドルとした。

2022年5月5日/バージニア州フェアファックスの地方裁判所、女優のアンバー・ハード(Elizabeth Frantz/Pool/AP通信)

ジョニーの主任弁護士は1日、「今回の評決はジョニー・デップに対するハードさん主張は中傷的であり、いかなる証拠にも裏付けられていないという、我々が当初から言ってきたことを確認するものです」と述べ、評決を歓迎した。

アンバーの弁護士ブレデホフト氏は米NBCニュースのインタビューの中でアンバーは賠償金を支払うことができるかと問われ、「とんでもない」と答えた。「無理です」

ジョニーは裁判の中で一貫して、アンバーに精神的、身体的、性的暴行を加えたことは1度もないと主張した。

一方、アンバーは殴られ、蹴っ飛ばされ、瓶で貫かれ、体腔検査まで受けたと説明したが、陪審員はジョニーの主張を認め、「その申し立ては虚偽である」と裁定した。

アンバーは控訴の意向を示しているが、SNS世論調査では完全に負けているように見える。

6週間にわたる裁判が始まると、ソーシャルメディアには「アンバーは嘘つき」という投稿が星の数ほど寄せられた。

アンバーの証言は広く嘲笑され、証言を嘲笑するハッシュタグが何度もトレンド入りし、来年公開予定の映画「アクアマン2」からアンバーを排除する嘆願書へのオンライン署名には440万人以上が署名した。

性的暴力を専門とする社会学者のベデラ(Nicole Bedera)博士は、「この裁判はアンバー・ハードに対する膨大な嫌がらせにつながりました」とSNSに投稿している。「衝撃的でした...」

ベデラ氏のような家庭内暴力の専門家は、アンバーに対する世界規模の誹謗中傷が裁判をはるかに超えた影響を及ぼすことを恐れている。

多くの専門家がこの事件を見たDV被害者が「萎縮」する可能性があると警告している。「虐待を告発すれば嘘つきと非難されるのではないか」「性的暴行を受けたと告発すれば、名誉棄損で訴えられるのでないか」

ベデラ氏は「多くのDV被害者が名乗り出ることを躊躇するようになるかもしれない」と警告した。「恐ろしいことです。人々は彼女をサイコパスと呼び、嘘つきと呼び、頭がおかしいと言い、自業自得と言っています」

米司法省の最新の調査によると、家庭内暴力を受けたと告発する人の割合は40%、つまり、60%がDV被害を隠しているという。

市民権弁護士のブロツキー(Alexandra Brodsky)氏はSNSに、「今回の評決で(暴力の)生存者は合理的な判断を下す必要があるということが明らかになったと思います」と投稿している。「報告しないほうがいいと思う人が増えるでしょう...」

DVを受けたと告発するか否かは、苦痛を伴う調査や裁判への恐怖、そして「信じてもらえないかもしれない」という恐怖に大きく左右される。

アシュランド大学の教授で、自身の虐待体験を綴った「グッバイ・スイート・ガール(Goodbye Sweet Girl)」の著者であるサンドバーグ( Kelly Sundberg)氏は、「この裁判でDVの問題が明らかになった」と述べている。「世界はほとんどの女性がDVを秘密にする理由を知りました」

「たとえ彼女が勝ったとしても、彼女はソーシャルメディアキャンペーンのせいで不信感を持たれ、信用を失いました。DV被害者は同じような目に遭いたくない、信用を失いたくないと考えるでしょう」

2022年5月4日/バージニア州フェアファックスの地方裁判所、女優のアンバー・ハード(Elizabeth Frantz/Pool/AP通信)
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