政府は感染拡大防止に成功したモデルを宣伝、称賛しているが・・・

インド全土がロックダウンされて1カ月半。政府はコロナウイルスとの闘いを続ける中で、感染拡大防止に成功したいくつかのモデルを宣伝、称賛し、各地域はそれを一斉に模倣した。しかし、専門家たちは正しい情報が収集されていない中での宣伝、模倣、そして”陶酔”は危険だと指摘する。

ウッタル・プラデシュ州の都市アーグラは、3月上旬にウイルス感染を確認した地域である。州政府は、感染状況を日々SNSなどで発信し続け、結果、感染拡大のスピードを遅らせることに成功。同国内では、SNSを利用し情報を拡散させる「アーグラモデル」が流行した。

#(ハッシュタグ)を利用した情報拡散を率先して行った同州のヨーギー・アーディチャナス州知事は、その成功を大絶賛された。

しかし4月、事態は一変する。同州の感染者数は右肩上がりで増加しつづけた。情報発信だけで感染拡大を防ぐことができれば、誰も苦労しない。州政府はPCR検査体制などを拡充するなど、具体的な防止対策を実行。アーグラモデルは幻想だったことが判明し、メディアから姿を消した。

著名なウイルス学者のシャヒッド・ジェーミール博士は、「初期段階でのお祝い(陶酔)は大きなリスクを伴う。根拠のない対策を称賛することで、人々は幸福感に包まれ、警戒を緩める。非常に危険なことだ」と警告した。

ジェーミール博士を含む数人の専門家たちは、コロナウイルスが昨年末に確認されたことを知っていた。しかし、それに対する調査、研究の時間は十分ではなく、また、政府からの情報提供もなかったと指摘する。

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アーグラの当局関係者は、迅速にウイルスの封じ込めゾーンを定義し、感染者の追跡活動を積極的に行っていた。#による情報発信だけでなく、必要最低限の仕事を行い、それが感染拡大のスピードを抑制させていたのだが、その事実を知る者は少ない。

ジェーミール博士は、「アーグラモデルを”称賛する”必要はなかった。当局関係者はやるべきことを実行し、成果を上げつつあったのに、それを称賛することで国民に”もう大丈夫だ”という根拠のない安心感を与えてしまった」と述べた。

称賛は模倣を呼び、当局の封じ込め活動ではなく#がウイルスを防ぐ、という誤った情報が拡散された。

ケーララ州は、長年、医療体制の拡充に多額の資金を投入してきた。結果、州内でコロナウイルスの感染が確認されて以降も、医療機関はしっかり機能した。

同州政府は感染者の特定、隔離、治療を迅速に実施した。また、感染経路の特定やホットスポットと思われる地点、施設を素早く特定し、パンデミックおよびクラスターを防ぐべく、あらゆる措置を講じた。

政府はケーララ州の対応を大絶賛し、SNSやメディアを使って全土に拡散させた。しかし、この行為もアーグラモデルと同じである。

同州エルナクラム地区で活動するファサハディーン博士は、成功モデルという考え自体に反対する。「ケーララ州のいくつかの地域では、感染者の増加と再発が確認されている。また、感染源不明の事案も多い。コロナウイルスとの闘いに安心感やリラックスはいらない。政治家は科学的な根拠もなく、成功したことを宣言し始める」

公衆衛生の専門家であるアナント・ブハン氏は、感染拡大を”ある程度”防いでいる理由に、「外出禁止」をあげる。社会的距離を強制的に確保した結果、数十万、数百万人規模のパンデミックを防いでいるのだ。

またブハン氏は、「インドのような多様な国、10億人以上の暮らす国で、統一された成功モデルが機能することはあり得ない。アーグラモデルのように情報を吹聴し、医療関係者を含むたくさんの人々が”誤った期待/無用な安心感”を抱くと、最悪の事態を招く」と述べた。

WHOに称賛されたシンガポールモデルも、世界中で模倣された。しかし、現在同国はウイルスの第二波に苦しめられている。初期段階での封じ込めに成功し称賛されたが、結局はロックダウンに至った。

マウントエリザベスノベナ病院の感染症専門家であるレオン・ホナム博士は、「このウイルスは卑劣であり、リスクは常にそこにある。成功モデルとして称賛したくなる気持ちも理解できるが、それより必要なことは対策を緩めず、ウイルスに立ち向かう新たな方法を確立すること。そして、それが確立したからといって、祝ってはならない」と述べた。

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