感染後のケア
60歳のミリンド・ケトカー氏は、コロナウイルスとの戦いで1カ月近く入院した。その後、何とか病を克服し、最悪の事態は脱したと思った。
ケトカー氏の病棟にはエレベーターがなかったため、トイレや検査での移動は、全て階段を利用せざるを得なかったという。
入院から数日、ケトカー氏はひどい息切れに悩まされ、苦しい時間を過ごした。その後、少しずつ気分が良くなり始めたため、間もなく退院だろうと思った頃、担当医に呼び出された。
回復を確信していたケトカー氏は、担当医の話を聞き、ショックを受けた。
担当医のランスロット・ピント博士は、コロナウイルスの影響で肺の炎症が悪化し、深部静脈血栓症になっていると説明した。
これは血管内に血栓が生じることで発症し、脚部に異常があられやすい病と考えられている。
ピント博士によると、血栓を放置すると肺に到達する恐れがあり、時間内に正しく治療されない場合、生命を脅かす可能性が高いという。
ケトカー氏は退院後も錠剤を服用し続け、いまだに自己隔離を続けている。
ミリンド・ケトカー氏:
「退院後、私はまともに歩くことができなかった。コロナウイルスがもたらした別の病の影響で足がひどく痛み、トイレに行くことすら困難だった」
このような症状に悩んでいる”元患者”はケトカー氏だけではない。何万人もの人々がコロナウイルスから回復した後、他の病、合併症、健康上の様々な問題に苦しめられている。
専門家によると、血栓症は一般的な合併症のひとつで、何らかの基礎疾患を持つコロナウイルス患者の3割近くが発症しているという。
コロナウイルス感染後のケアは非常に重要である。しかし、現在インドは感染爆発に苦しめられており、感染後のケアに気を遣う余裕がない。
インドの累計感染者数はアメリカに次ぐ世界第2位、ここ数週間の1日あたりの新規感染者数は90,000人前後を維持している。
アメリカ、インディアナ大学の医学研究教授を務めるナタリー・ランバード博士は、コロナウイルス感染後の合併症に警鐘を鳴らした研究者のひとりである。
ランバード博士はソーシャルメディアで何千人もの患者と連絡を取り、驚くほど多くの人々が極度の倦怠感、息切れ、脱毛などの合併症に苦しめられていることを知った。
米国疾病対策センター(CDC)は、数週間前に合併症の調査研究を報告した。それによると、調査対象者の少なくとも35%がPCR検査で陰性になった後も、体調が元の状態に戻らなかったという。
コロナウイルスの合併症は、基礎疾患を持つ患者に多く見られる。しかし、ランバード博士は、これまで体調に大きな問題を抱えていなかった人でも、何らかの合併症を発症することが多くなっている、と警告した。
なお、病院への入院を不要と判定された軽症患者の中にも、同様の兆候に悩まされている人がいる。
一部の専門家たちは、「コロナウイルスの長期的な影響を評価するには、もう少し時間が必要」と注意を促している。
リバプール熱帯医学学校のポール・ガーナー博士は、感染後の合併症に何カ月も苦しめられており、自分の経験をブリティッシュ・メディカル・ジャーナルに投稿している。
ポール・ガーナー博士:
「陰性確認後も慢性疲労、全身の倦怠感は一向に改善されない」
「コロナに感染したことはショックだった。しかし、まさか治癒した後も別の症状で数カ月悩まされるとは夢にも思わなかった」
「雇用主は感染後の体調不良を理解してくれた。おかげで、私は解雇の心配をせずに済んだ」
ガーナー博士と同じオプションを持っている人は決して多くない。特に労働者階級の人々は、早く職場に戻りお金を稼がなければならないと思うはず。
彼らは給料を得るために現場で一生懸命働く。そして、長期間仕事を休めば解雇される可能性が高い。
サレッシュ・クーマー氏はコロナウイルスに感染後、公立病院に入院。数週間後に陰性と診断され、セールスの仕事に戻った。
しかし、クーマー氏は猛烈な足の痛みに悩まされ、まともに歩けなくなった。
クーマー氏の職場はロックダウンの影響で経営不振に陥っており、「休暇を取るという選択肢はなかった」という。
その後、クーマー氏は痛みを我慢しながら働き続け、帰宅後、気を失った。
奥さんがその場に居合わせたため事なきを得たが、医師からビタミン剤を与えられ、仕事を休むよう指示された。
しかし、クーマー氏は2日後に職場復帰、足の痛みをこらえつつ、セールス活動を再開させた。
奥さんは日に日に弱っている夫の身を案じ、医師に再診をお願いした。結果、クーマー氏を苦しめていた病が血栓症であると判明、入院することになった。
サレッシュ・クーマー氏:
「血栓症と聞き、とても驚いた。コロナウイルスから回復すれば、全て元通りになると思っていた」
「治療するためには4週間休暇を取る必要があり、私は仕事を失った。しかし、血栓症は何とか克服し、ありがたいことに別の仕事を見つけることもできた」
クマール氏の例は、数百万~数千万人規模のインフォーマルセクター労働者を抱えるインドでは一般的な話である。
インフォーマルセクターで働く労働者たちは、身体を酷使し、休暇はほとんど取れず、合併症を抱えながら生活することは困難を極める。
ムンバイのジャスロック病院でコロナウイルス患者を治療するサシール・クーマー・ビンドルー博士は、多くの患者が仕事に戻りたがっている、と語った。
サシール・クーマー・ビンドルー博士:
「ウイルスの影響で肺活量が著しく損なわれた場合、陰性になった後でも呼吸困難に陥る可能性がある。そして血栓症にも注意しなければならない」
「大都市の病院は患者のアフターケアが比較的充実している。しかし、小さな町は違う。体調不良を我慢し、合併症を悪化させれば、命を失う可能性もある、と誰もが認識すべきだ」
コロナウイルスの長期的な影響については現在も研究が進められている。ただし、既に判明している血栓症などの合併症リスクは、全世界で情報を共有すべきだろう。
インドの保健当局は、コロナウイルス感染後のケアにもっと焦点を当てなければならない。
現在、国内の感染者数は猛烈な勢いで増加しており、合併症に悩まされる”元患者”も増えることが予想される。
CDCは、「基礎疾患を持っていない健康的な若者でさえ、何らかの合併症を引き起こす可能性がある」と警告している。
首都デリーは、コロナウイルス感染後の合併症治療専用施設を備えた数少ない州のひとつであり、研究者たちがそれらの調査を進めているという。
ビンドルー博士は、患者の治療だけでなく、様々な調査を同時に行う必要があると述べ、「合併症の危険性を国民に広く周知するだけで、大きな効果が得られる」と主張した。
インド/コロナウイルス第二波