水と紛争

コミュニティ間の緊張と水は密接に結びついている。

アフリカ、マリ北部地域では、長い間、水が紛争の原因になっていた。水不足に悩む地域は北サハラと南サハラの間の約827,000㎢(東京ドーム17,688個分)、国土の3分の2に及ぶ。

マリ北部で活動する非政府組織(NGO)、クリド・クールの責任者を務めるアルマハディ・シセ氏はBBCの取材に対し、「人々は水道施設がなくても、数十キロ、数百キロを移動する。ただし、水があったとしても、水質は決して良くない」と述べた。

サハラ砂漠の南エリアでは、水不足によるコミュニティ間の緊張状態が高まっている。

水は、サハラ砂漠、国家内、そしてアフリカ大陸の紛争の源になっている。マリでは、地元の人々とNGOが協力して井戸を掘り起こし、コミュニティの生活安定、コミュニティ間の緊張緩和を目指している。

マリのサハラ砂漠地域では、年に1回だけ雨が降る。この時、地層に浸透した雨水が人々の渇きを癒すことになるのだが、雨量は均等ではない。

一部の地域では大雨が降り、洪水に見舞われる。しかし、別の地域では期待していたほど雨が降らず、地層は乾いたままである。

水の少ない地域の住人たちは、生きるために他のエリアの水を利用する。結果、限りのある水を他のコミュニティと共有せねばならず、紛争が発生する。

北部エリアでは、経済活動の低迷に水不足が加わり、コミュニティ間の緊張状態をさらに高めてしまう。シセ氏は、「北部エリアで生活する住人のほとんどが農民もしくは遊牧民である。水はビジネス面でも欠かすことのできない資源であり、それを巡ってしばしば対立が生じる」と語った。

2012年に始まったジハード主義者とトゥアレグ分離主義者の対立は、地域の緊張を悪化させた。近年、北部エリアの水不足に悩む村では、コミュニティ間の紛争が激しさを増している。

緊張の高まりにより、人道主義者の労働者たちがこれらの地域にアクセスできず、水資源を巡る緊張、紛争はさらにエスカレートした。

井戸掘削を行うためには、地質調査を行うための測量チーム、水理エンジニアチームなどが必要である。しかし、現地調査に向かったこれらのチームは、しばしば誘拐され、殺される。労働者たちは命の危機を感じながら働かねばならない。一部の人々は到達困難な地域での掘削を目指しているが、そこに到達することは容易ではない。

2013年から現地利用を開始した手押し井戸(ハンド)ポンプは、地下数メートルに位置する地下水目指してボアホールを空け、そこから手動もしくは電動ポンプで水をくみ上げる単純なシステムである。

先進国であれば、数メートルのボアホールを空けるなど造作もない。しかし、アフリカでこれをクリアするためには大変な労力を要する。

アフリカ地方の給水ネットワークの2009年レポートによると、20か国のハンドポンプの10%から65%が機能していなかったという。

ポンプが故障する理由は、不適切な立地、設計ミス、施工時のミスなど。最も重要な立地の選定、つまり地質調査でミスすると、役に立たない井戸が造られてしまう可能性もある。

オアシスが消える

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サハラフロンティア

田園地帯の言語、バンバラ語とフラニ語で「ボアホールを空ける(掘削する)」は、「歓迎」を意味する。

手作業による穴あけコストは、機械工法の約7分の1と非常に安価だが、手間ヒマがかかる。サハラでは手掘りが一般的、貴重な機械を持ち込む者もいるが、それを狙う襲撃者に備えねばならない。

ボアホール設置後、井戸が正しく機能するか否かは管理方法に大きく影響される。クリド・クールを含むNGOは、設置済みのボアホールと水の管理方法を住人たちに指導し、ガバナンスの促進を目指している。

井戸を管理するグループ、使用方法、細かなルールなどを住人たちに理解してもらうことが重要である。管理方法が浸透すれば、誰もが公平に水を得られるようになる。

気候変動により、サハラ砂漠の水問題は年々悪化している。ガオ地域で小さな菜園を運営するオスマネ・マイガ氏はBBCの取材に対し、「緑のエリアは確実に減少している。船で行き来していた一部のエリアでは、川が枯れ、徒歩で移動できるようになった」と述べた。

緑が減ることで、北部エリアのコミュニティは耕作に必要な水を得にくくなった。「雨はほとんど降らない。しかし、食物を育てるためには、限りある水を撒かねばならない。人々は努力を重ね、水を撒く。そして、食物が成長し始めた時、突然思いがけない大雨と大洪水が発生する」とマイガ氏は言う。

マリのコミュニティは、致命的なレベルの貧困に苦しめられてる。

ガオ地域では、手押し井戸(ハンド)ポンプによって水を得やすい環境が整えられ、毎日川まで何マイルも移動する必要はなくなった。しかし、それだけで住人が必要とする最低限の水量は得られない。

水不足が地域の不安材料となり、住人たちは減少しつつあるオアシスの木を切る。そして、伐採した木を薪として販売し、生計を立て命をつなぐのだ。

緑が減少すると、土壌は水を保持しにくくなり、水不足を招く。結果、コミュニティ間の緊張状態がさらに高まるのである。

2012年に始まった対立および紛争は、モブティ地域および以南の国内避難民地域を圧迫。ただでさえ不足している水資源への圧力を高めることになった。国連の調査によると、2020年6月時点で、モブティとその周辺地域には約25万人の国内避難民が生活しているという。

ディアランゴウ集落は、モブティから7kmほど離れた乾燥地帯の真ん中に位置する。

同集落は紛争等の影響により、人口が400人から1,400人に急増。もともと水資源に恵まれた集落ではなかったため、飲料水を得ることがさらに難しくなった。

キレイな水にアクセスできなくなった結果、集落の子供たちの衛生環境は悪化、深刻な病気の蔓延につながった。

また、水は女性が汲む(運ぶ)ルールになっているため、本来教育を受けるべき少女が、生活のために貴重な機会を奪われているという。

オランダに本部を置く国際水衛生センター(International Water and Sanitation Center)は、仕事の分配などの文化的要因が少女の将来に影を落としていると指摘した。

レポートには、「少女は母親の仕事量やその他の条件等に応じて、幼い頃から水汲み(運搬)という重労働に参加している。さらに一夫多妻制の家庭では、より過酷な仕事が若い女性に課される傾向にある」と書かれている。

2020年3月、ダイアラング地域に設置された手押し井戸(ハンド)ポンプは、不衛生な水を摂取することで発生するコレラや住血吸虫症などの疾患から住人を救った。

井戸は機能し、人々の命をつないでいる。ダイアラング地域の井戸からもたらされる水は、モブティ地域水研究所によって分析され、必要な品質を満たしていることが確認された。

現在、モブティ地域では計161個の井戸の手掘り掘削が行われている。

非営利団体、ウォーターエイドの調査によると、マリ国民の4分の1が不衛生な水を使って生活しているという。

マリ政府、地方自治体、コミュニティ、井戸掘削にあたるNGOは、大きな課題を少しずつクリアすべく挑戦を続けている。

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