アメリカの記録を更新

8月30日、インド国内のコロナウイルス新規感染者(24時間あたり)は78,761件を記録し、アメリカが保持していた世界新記録を更新した。

同国の累計感染者数はアメリカ、ブラジルに次ぐ3番手に位置しており、その数は現在も右肩上がりで上昇し続けている。

今回の世界新記録は、7月17日にアメリカが記録した75,821件を大きく上回った。

3月、同国で初めてコロナウイルスの感染者が確認され、ナレンドラ・モディ首相は世界で最も厳しいと言われたロックダウンを発出。結果、何百万人もの雇用を失ったが、ウイルスの封じ込めには何とか成功した。

しかし、失った雇用と経済を取り戻すべくロックダウンを解除した結果、ウイルスの蔓延が始まった。

特に、貧困層の多い農村地帯の感染状況は悪化の一途をたどっており、数百から数千名規模のクラスターが各地で発生している。

ジョンズ・ホプキンズ大学のまとめによると、8月30日時点の世界の累計感染者数は2,5000万人を突破。843,000人以上の死亡が確認された。

なお、アメリカは依然として高い感染状況を維持しており、累計感染者数は600万人を突破した。

累計感染者累計死者新規感染者
(直近)
世界2,510万人844,000人281,581人
アメリカ608万人18.6万人36,939人
ブラジル386万人12.1万人16,158人
インド362万人64,469人78,761人
ロシア99万人17,093人4,980人
ペルー64.7万人28,788人7,731人
日本67,264人1,264人841人

インドの感染状況は日を追うごとに悪化しており、手が付けられないレベルに達しつつある。

心臓病治療の著名な医師として知られるマノジ・クマール氏はロイター通信の取材に対し、「インドがアメリカの記録を超えることは時間の問題だった。人口数、人口密度、そして、農村部地域の脆弱な医療システムと感染予防対策が徹底されていない現状を見れば、誰もが当然と考えるはずだ」と述べた。

既に述べた通り、インドは世界最高レベルのロックダウンを発出。外出の完全禁止、酒類の販売禁止など、非常に厳格な封鎖を実行した。

しかし、5月以降、コロナウイルスは大都市圏(ムンバイ、デリーなど)を襲い、その波は小さな都市や農村部に到達した。

モディ政権は感染者数が急増しているにも関わらず、規制緩和を推し進めている。

現在、政府は屋外でのマスク着用と社会的距離のルールを定めたうえで、商業施設やレストランなどの営業を許可している

さらに、9月からは最大100名までの文化、娯楽、スポーツイベントも許可される予定である。

地下鉄などの公共交通機関も営業を再開し、行き交う人の数は数カ月前に比べると大きく増加した。

末梢血管および血管内科学の権威であるラジブ・パレフ博士はロイター通信の取材に対し、以下のように答えた。

ラジブ・パレフ博士
「人々は厳格なロックダウンでウイルスの封じ込めに成功し、感染予防対策ルールを守らなくなった。さらに、モディ政権が規制を緩和したため、”上手くいった”と勘違いした」

モディ政権は規制緩和のスピードを完全に誤った。経済活動の再開と復活を狙った無茶な規制緩和、感染予防対策の無視が組み合わさり、爆発的な感染拡大を引き起こした」

またパレフ医師は、「PCR検査数の圧倒的な不足」と、「報告されていない未知の感染者」が大きな懸念事項だと付け加えた。

24時間当たりの新規感染者記録を更新

インドの未来

インドの死者数はメキシコとほぼ同数である。なお、メキシコの感染者数は約60万人、死亡率は圧倒的にインドの方が低い。

ただし、インド当局はコロナウイルスで死亡した者のみをカウントしており、「他の疾患を誘発し死亡した者」はその数に含めていない。

ウェルカム・トラストのインド対策チームを率いるウイルス学者のシャヒド・ジャミール氏はフランス通信社の取材に対し、「インドの100万人あたりのPCR検査率は、ウイルス感染数上位の国の中で2番目に低い」と語った。

8月30日、ナレンドラ・モディ首相は、アメリカの記録を抜いたことには一切言及せず、淡々とラジオ放送を行った。

モディ首相は国民に感染予防対策の徹底を呼びかけ、「コロナウイルスに打ち勝つべく、団結しよう」と呼び掛けた。

ナレンドラ・モディ首相:
「全国民の健康と安全と平和を守り、コロナウイルスに打ち勝つことが最も重要である。そして、これを達成するためには、マスク着用、社会的距離(2m)の確保を徹底しなければならない」

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失業

5月上旬、首都デリーの法律事務所で働いていたシャリカ・マダン氏は、事務所から解雇を告げられた。

特別な支援を必要とする38歳のシングルマザーは、同法律事務所に2年務め、収入は比較的安定していた。しかし、ロックダウンにより都市が完全封鎖された結果、彼女は生活の糧を失った。

マダン氏はBBCの取材に対し、「雇用だけは何とか維持してほしい、と何度も何度も懇願した。しかし、上司は資金を使い果たしたと言った。彼は私の家庭状況を知っていたが、助けてあげられない、と頭を下げた」と述べた。

マダン氏は、コロナウイルスの影響で仕事を失った何百万人ものインド人に加わった。

インド経済監視センター(CMIE)の調査によると、ロックダウンから1カ月の間に約1億1,200万人のインド人が職を失ったという。

その中でも、同国の根幹をなすインフォーマル経済と農村経済は、数千万規模の雇用を消失させた。(インド国内における両経済の労働者数は約4億人)

ただし、4月末頃までに職を失った労働者のうち、約7,000万人がロックダウンの緩和で仕事を再開できたという。

CMIEは、コロナウイルスに関連する現時点での完全失業者数を約1,900万人と推定した。

国際労働機関(ILO)とアジア開発銀行(ADB)が行った別の調査では、30歳未満の労働者、約400万人が失業したと推定している。

CMIFのマネージングディレクターを務めるマヘシュ・ビャス氏はBBCの取材に対し、以下のように答えた。

マヘシュ・ビャス氏:
ロックダウンで最も深刻な影響を受けたのは30歳未満の若者である。企業は経験豊富な労働者を保持し、若者たちを切り捨てた」

「さらに、求人担当者や保護観察官も職を失った。現在、大半の企業は雇用活動を行っておらず、再開できる目途も立っていない。2021年に大学や高校を卒業する者は、記録的な就職氷河期を体験するだろう」

新卒者の採用減少は、社会全体の「賃金の低下、教育の低下、貯蓄の低下」につながる。結果、求職者、その家族、経済、ありとあらゆるものに悪影響を与える。

また、給与の引き下げは家計所得を強く押し下げ、企業の売り上げに深刻な影響を与えている。

マダン氏は貯蓄と母親の年金で何とか生活しつつ、新たな職場候補、計20社に履歴書を提出した。しかし、結果はいずれもバツ、面談を受けることすらできなかった。

インドの所得不安は深刻な懸念事項のひとつである。

ロックダウン中、国民がどのように生活していたかを調査したマリアンヌ・ベルトラン氏のチームによると、66%の世帯が1週間以上生活できる貯蓄を持っていたという。つまり、全体の3分の1は、仕事がなければ明日の食料を確保できない状態にあったのである。

ニルマラ・シタラマン財務相は、6月の新規雇用求人数が、昨年から60%減少したと述べた。

インフォーマル経済はロックダウンの緩和に伴い、ゆっくりと回復している。

労働経済学者のシャム・スンダル氏はBBCの取材に対し、「年末までにインフォーマル経済は少しずつ回復し、失業者たちの多くが仕事を取り戻すだろう。しかし、サラリーマンの雇用が回復するには、はるかに多くの時間を必要とするかもしれない」と述べた。

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