世界に認められたマスク

アメリカのトランプ大統領とイギリスのジョンソン首相が初めて公の場でマスクを着用した。

コロナウイルスの登場でマスクの需要が急増し、屋内や人の密集するエリアでの着用が当たり前になった昨今。マスクは空気中に拡散された飛沫をブロックするだけでなく、着用者の唾液や唾の放出を防ぐ役割を世界で認められ、グローバルスタンダードになったのである。

トランプ大統領はマスクの有効性に興味を示さず、「弱く見えるから着用しない」「私は健康、ホワイトハウス職員も健康、つまりマスクは必要ない」などと述べ、最後までマスク着用を拒否し続けてきた。また、米国疾病予防管理センター(CDC)がマスク着用を強く推奨した際も中途半端な態度をとり、「感染予防対策は重要だ。しかし、私は着用しない」と、自分だけは大丈夫という趣旨の発言を繰り返していた。

イギリス政府もトランプ大統領ほどではないにしろ、他の欧州諸国と同じく、国民へのマスク着用推奨にはかなり消極的だった。

しかし、世界保健機関(WHO)が感染予防対策のガイドラインを見直し、医療関係者や患者以外にもマスク着用を推奨したこと。さらに、日常的にマスクを着用する国の多くがウイルスの封じ込めに成功したことなどにより、潮目は変わった。

6月、イギリス国内の公共交通機関を利用する際は、「必ずマスクを着用しなければならない」という規則が設けられ、違反者には罰金が課されることになった。さらに、屋内施設での着用も義務化。店舗は利用者にマスク着用を求めねばならず、その措置を怠れば営業停止命令が下る可能性もある。

2月、WHOを含む各国の関係当局は、「マスクでコロナウイルスを防ぐなどあり得ない、夢物語だ」というスタンスを取っていた。しかし、今では手のひらを豪快にひっくり返し、最初から「マスク💛LOVE」だったと言わんばかりの勢いで着用を推奨している。

マスク着用を推奨する政府の数は、過去数カ月で劇的に増加した。

3月中旬時点では,約10の政府がマスク着用を推奨するガイドラインなどを”元々”策定していた。現在、その数は130か国まで増加、アメリカの20の州でも厳しい着用規制が発出されている。

アジア諸国の人々は、マスク着用に抵抗を示さない。特に大気汚染の深刻な中国では、着用していない人を探す方が難しい。日本でも花粉症やインフルエンザが流行する時期になると、皆、政府に指示されるまでもなく、勝手にマスクを着用し始める。

イギリス王立協会のレポートによると、マスクなどの防護具着用に抵抗を示していた国で、使用率が急増していることが分かったという。

当初、WHOはマスクを医療従事者、咳やくしゃみなどの症状が出ている人、患者限定の防護具としていた。ただし、マスクの飛沫拡散効果を認めうえで、「大衆がマスクを買い求めれば、それを必要とする医療関係者への流通が滞る」ことに懸念を示し、症状の出ていない健康な人に対しては、社会的距離の確保を推奨していた。

その後、ウイルスが猛烈な勢いで広がり、また、研究機関等の調査でマスクが感染予防に効果を発揮すると証明され始めた結果、WHOは6月にガイドラインを見直した。

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マスクにお礼を言いなさい

室内、特に換気の悪い密閉空間ではウイルスに感染する可能性が高い。会話や咳などでウイルスが空気中に放出、小さな粒子になって友人や第三者の体内に侵入するのである。

ケベック大学モントリオール校、心理学部のキム・ラヴォイ博士はBBCの取材に対し、「誰もが顔を覆うマスクやカバーを身につけていれば、最も一般的な感染経路である空気感染、エアロゾルから自分を守ることができるだろう」と述べた。

またラヴォイ教授は、マスクに対する様々な研究が世界中で進められていると述べ、「マスクを日常的に着用してきた国の感染率(感染者数および死者数)は低い。また、マスクにはウイルスへの感染を予防する効果がある、という研究結果が世界各地で報告されており、政府のガイドライン策定に影響を与えた」と付け加えた。

パンデミックは長期間続く、という認識が世界中に広まったことも、マスク着用率に影響しているかもしれない。経済活動を再開するためにロックダウンを緩和すると、企業や学校に人が集まる。この時、少しでも感染リスクを下げる防護部があれば、皆こぞって使用するだろう。

少なくとも、コロナウイルスワクチンが開発されるまでの間は、マスク着用の義務化およびガイドラインや規則策定が世界各国で進むものと思われる。

ただし、政府の姿勢が変わった今でも、国民の意識とのギャップはかなり大きい。

COVID-19行動追跡の調査によると、イタリア国民の83%、アメリカでは59%が外出の際に必ずマスクを着用すると回答したが、イギリスではわずか19%にとどまる。

インペリアル・カレッジ・ロンドンで健康行動研究を行い、COVID-19行動追跡ツールを作成したひとりでもあるサラ・P・ジョーンズ氏はBBCの取材に対し、「アメリカ、イギリス、カナダは、フランスやイタリアなどに比べ、マスク着用の定着速度が明らかに遅い」と述べた。

【国民のマスク着用率(抜粋)/2020年5月頃】
シンガポール:90%
日本:86%
フランス:60%
アメリカ:59%
オーストラリア:24%
イギリス:19%

またジョーンズ氏は、「国民一人ひとりがウイルス感染のリスクと危険性を認識すること。また、マスク着用に伴い発生する費用や入手しやすさなども着用率に大きく影響する。着用率が急激に高まった国では、ウイルスの危険性が認識され、さらに政府もガイドラインや規則を発出し、マスク着用は命を守るうえで当たり前の行為、という考えが浸透した」と付け加えた。

欧州パンデミックの最初の震源地になったイタリア北部ロンバルディア地方では、マスク着用が急速に定着、ロックダウン解除後も日常生活の一部になっている。

また、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)大流行を経験した国でも、マスク着用の準備が十分進んでいたと考えられている。

サンフランシスコ大学のジェレミー・ハワード博士はBBCの取材に対し、「東アジア諸国の人々は、SARSやインフルエンザ、古くはスペイン風邪などの大流行を経験し、マスクはそれらの呼吸器系ウイルスから身を守ってくれる、という認識が定着している」と述べた。

現在、世界中の州や市がマスクの着用義務化を進めており、波紋を広げている地域も少なからず存在する。

COVID-19行動追跡ツールのデータによると、マスク着用より、手のアルコール消毒、社会的距離の確保、手洗いの方が支持率は高い。

ラヴォイ教授は手洗いと社会的距離のルールだけでなく、追加対策がさらに大きな効果を発揮すると指摘したうえで、「マスクは確かに効果的な感染予防対策だが、ドラッグストアなどでそれを購入し、袋を開け、取り出し着用、使い終わったら処分しなければならない。さらに、着用中は大変不快だ。つまり、手洗いや社会的距離に比べるとハードルが高く、しばしば敬遠されてしまう」と述べた。

しかし、自称マスク大好き派のトランプ大統領とジョンソン首相が公の場でそれを着用、世界は二人のマスク姿を目撃した。恐らく、二人がマスクを着用したことで、世界中にポジティブな影響が広がるものと思われる。

マスク着用の手間を惜しみ、ウイルスを拡散させてはならない。暑い中での着用は確かに不快だが、少し我慢するだけでクラスターの発生率は劇的に減少するはずだ。トランプ大統領とジョンソン首相に倣い、正しくマスクを着用しよう。

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