スマートフォンの追跡アプリはロックダウンの緩和に一役買っている

中国政府はスマートフォンの追跡アプリで国民の位置情報を把握し、コロナウイルスの感染拡大に役立てた、と公表している。他の国も中国ほどではないにしろ、追跡アプリを活用し、感染者の行動経路把握などに努め、一定の成果を上げているようだ。

コロナウイルスの蔓延、パンデミックは終息の兆候を見せず、アフリカやインド、インドネシアなどの人口過密地域にも深刻な影響を与え始めている。世界中にコロナウイルスが拡散されれば、個人と経済に長期的な影響を与えることは確実であろう。

ロックダウンが発動したことで、世界の情勢は一変した。コロナウイルス用のワクチン開発も進められてはいるが、完成までは少なくとも1年、それ以上かかるという意見が大勢を占めている。厳しい戦いを強いられている世界は、様々なツールを駆使し、コロナウイルスの感染拡大、感染防止に努めてきた。

連絡先追跡アプリ」がその最たるものであろう。Bluetoothセンサーを使用し、スマートフォンの動きを追跡する、というツールである。コロナウイルスに感染した者、または、ウイルス検査で陽性を示した患者と接触した可能性のある者(濃厚接触者)が「どこにいるか」をアプリが追跡し、対象者が近くにいると警告を発し、危険を伝えてくれるという。

追跡アプリがコロナウイルス感染者および濃厚接触者を「正しく識別」できれば、素晴らしい注意喚起アプリになり得るかもしれない。なお、感染者の個人情報が他者に開示されることはない(と言われている)。プライバシーもしっかり守られるはずだ。

逆にアプリが上手く機能しないパターンはあるのか?残念ながら「ある」。ロンドン大学のデジタル著作権および規制の講師であるマイケル・ヴェール氏は「高層の建物では機能しない」と指摘した。

今月中旬、AppleとGoogleはBluetoothセンサーを使用したコロナウイルス接触追跡技術を開発していると発表、5月にはAPIのリリースを予定している。これらが実現すれば、追跡アプリを開発したい国や企業、プログラマーを後押しするだろう。また、AppleとAndroidフォンが相互に連携することも可能になるはずだ。
Apple&Google、コロナウイルスを追跡すべくタッグを組む

しかし、最前線で戦う者(連邦政府、州、自治体、医療関係者など)たちは、スマートフォンの追跡アプリが「最強のツール」になる、ロックダウンを解除し、あらゆる困難を一発で解決するシルバーバレットになる、とは全く考えていない。

ロックダウンの効果

ウイルスはテクノロジーを物ともしない(少なくとも現時点では)。いくら追跡アプリで感染者もしくは濃厚接触者の接近を注意喚起できるとしても、気づいた時には手遅れ、という可能性もあり得るし、ウイルスのついたドアノブやつり革を触ることで感染するかもしれない。

何らかの影響でアプリが機能しなくなったら、スマートフォンの電池が切れたら、電源が切れていたら、問題点を挙げると枚挙にいとまがない。さらに、最も心配しなければならないことが「気の緩み」と「油断」であろう。皆が追跡アプリさえ機能すれば外出しても大丈夫、人込みも怖くないと考えたとしたら・・・

感染者がスマートフォンを携帯している保証はない。さらに、症状が出ていない保菌者であれば、検査すら受けていないかもしれない。検査を受けていなければ、自分がコロナウイルスに感染していることも当然知らない。自分が知らないことをスマートフォンのアプリが知っていたらビックリする、あり得ないだろう。

独裁国家であれば、外出時のスマートフォン携帯義務化、アプリの使用義務化という常軌を逸した政策も実行可能(かもしれない)。しかし、欧米やアジアの民主主義国家で実現不可能なことは説明するまでもないだろう。追跡アプリはあくまで感染拡大を防ぐ対策のひとつでしかない。最重要対策は現在のテクノロジー、世界中の英知を集結させたとしても、ロックダウン以外あり得ないのだ。

差別の助長

追跡アプリもしくは技術の仕様がどのようになるかは分からない。恐らく、「コロナウイルスに感染した」「感染者と濃厚接触した」と登録する仕様になるのではないだろうか。もし、病院や医療機関から感染者の情報が追跡アプリに登録されるとしたら、プライバシーの侵害である(少なくとも現時点では)。

そもそも、自分は感染だ、濃厚接触者だ、とアプリに登録する、したい人がいるだろうか。また、逆にデータを悪用する者が現れるかもしれない。健康体の人間が感染者であると虚偽の登録を行い、街中をうろつき電車に乗り、ライブハウスに入ったとしたら。

追跡アプリやそれに相当する技術は、素晴らしい可能性を秘めている。しかし、既に述べた通り、あくまで感染拡大を防ぐ対策のひとつと認識すべきであろう。将来、あらゆる病気を打ち負かす魔法のアプリが誕生しないと断言することはできないが、少なくとも今、そういったシルバーバレットが生まれる可能性は極めて低い。

Apple、Google、その他の企業、プログラマーたちが感染予防に役立つテクノロジーを開発すべく、奮闘している。コロナウイルスを打ち負かす最強のツールが誕生すれば嬉しいし、誰もが歓喜の雄叫びをあげるだろう。しかし、まずはロックダウンと基本的な感染症予防対策を徹底せねばならない。焦ってロックダウンを解除する、万能アプリでもう安心、仕事も満員電車もライブもスポーツ観戦も怖くない、と謝った判断を下せば、目も当てられない事態を招く(かもしれない)。

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