東京パラリンピックに登場する、もしくは登場する予定の超一流アスリート(その2)を紹介する。なお、個人的な主観で選んでいることをご理解いただきたい。日本代表パラアスリートの前に立ちはだかる強豪国の超人たちは、国の誇りとプライドをかけて競技に臨む。常人離れした実力は、真夏の東京を熱く盛り上げるだろう。
※2020年3月25日、東京オリンピックおよびパラリンピックの1年延期が決定!
目次
1.陸上競技
女子:タチアナ・マクファーデン(アメリカ)
女子:マルルー・ファン・ライン(オランダ)
2.アーチェリー
女子:周佳敏(中国)
女子:ザーラ・ネマティ(イラン)
3.バドミントン
女子:ジュリアナ・ポベダ (ペルー)
4.ボッチャ
男子:ワッチャラポン・ボンサー(タイ)
5.カヌー
男子:カーティス・マグラス(オーストラリア)
女子:エマ・ウィッグス(イギリス)
6.自転車競技
男子:ウィル・グルックス(アメリカ)
女子:サラ・ストーリー(イギリス)
7.馬術
女子:ナターシャ・ベイカー(イギリス)
女子:ソフィー・クリスチャンセン(イギリス)
8.5人制サッカー
ブラジル代表
9.ゴールボール
男子:リトアニア代表
女子:トルコ代表
10.柔道
男子:ラミル・ガシモフ(アゼルバイジャン)
女子:サンドリーヌ・マルティネ(フランス)
11.パワーリフティング
男子:シアマンド・ラーマン(イラン)
女子:ジョセフィーヌ・オルジ(ナイジェリア)
まとめ
陸上競技(目次に戻る
2016年リオパラリンピック『陸上競技』のメダリスト(抜粋)は以下の通りである。
種目 | 金 | 銀 | 銅 |
女子100mT43/44 | マルルー・ファン・ライン (オランダ) | イルムガルト・ベンズーザン (ドイツ) | ネイシア・ケイン (トリニダード・トバゴ) |
女子400mT54 | タチアナ・マクファデン (アメリカ) | シェリ・マドセン (アメリカ) | 鄒麗紅 (中国) |
女子5000m | タチアナ・マクファデン (アメリカ) | チェルシー・マクラマー (アメリカ) | アマンダ・マクグローリー (アメリカ) |
男子4×100mリレー T11-13 | ブラジル | 中国 | ウズベキスタン |
パラ陸上はパラリンピック競技の中で最多の種目数を誇る。障がいの種類によって細かくクラス分けされており、選手たちが同じ条件で競技に臨めるよう配慮されているためだ。例を挙げると、脳原性まひを持つ車いす選手と持たない選手が同一競技/レースに出場することはない。
近年義肢の性能は年々向上しており、パラアスリートたちの記録は劇的に向上。特にスポーツ用義足はパラアスリートの潜在能力を引き出すと同時に、テクノロジーの力も融合され、驚異的な記録が誕生することも珍しくない。なお、高速走行を可能とする「レーサー(車いす)」を使うマラソンの世界記録は「1時間20分14秒」、健常者のマラソン世界記録「2時間1分39秒」と比較すれば、その凄まじさを理解できるはずだ。
【種目※障がいの種類によるクラス分けあり】
トラック
・100m(男子/女子)
・200m(男子/女子)
・400m(男子/女子)
・800m(男子/女子)
・1500m(男子/女子)
・5000m(男子/女子)
・4×100mメドレーリレー(混合)
フィールド
・走幅跳(男子/女子)
・こん棒投(男子/女子)
・円盤投(男子/女子)
・やり投(男子/女子)
・砲丸投(男子/女子)
ロード
・マラソン(男子/女子)
タチアナ・マクファデン(アメリカ)
ソビエト連邦出身の『タチアナ・マクファデン(Tatyana McFadden)』は、アメリカを代表する超一流パラアスリートのひとりである。1989年、同選手は二分脊椎(脊椎の異常)を患った状態で生まれ、車椅子のない貧しい孤児院で育てられた。
1994年、米国保健省の障がい委員を務めていた女性が孤児院を訪れ、そこでタチアナと運命的な出会いを果たす。女性は車椅子を与えられず地面を這って移動する少女の養母となり、タチアナはマクファデンと名乗ることになった。
アメリカに移住した同選手は、ソビエト(ロシア)の孤児院で決して諦めないことを学び、たくましく成長。8歳の頃にパラ陸上と出会い、持ち前のガッツでメキメキと実力をつけた。2004年アテネ大会、15歳になったタチアナ・マクファデンはアメリカ代表に選出され、パラリンピック初出場を果たす。しかし、伝説はまだ始まってもいなかった。
2012年ロンドン大会では車いすに関連するトラック競技で3冠を達成。2016年リオ大会は4冠、女子100mとマラソンに同時出場、メダルを獲得するという離れ業も披露した。同選手が国際大会で獲得したメダルは39個(うち金25個)、どん底からはい上がった少女はパラアスリート界の頂点に立った。
2020年東京大会、タチアナ・マクファデンは女子100m、400m、800m、1,500m、5,000m、マラソン、4x100mリレーでのアメリカ代表入りを確実視されており、全種目金メダルを狙うと明言した。7冠を達成すればパラ陸上および陸上界初の快挙である。限界を決めず決して諦めない超人は、前人未到の領域に足を踏み入れようとしている。
<まとめ>
◎同選手はソビエト(ロシア)の孤児院で決して諦めないことを学び、どん底からはい上がった。
◎2020年東京大会には、7種目での出場が確実視されている。狙うは前人未到のパラ陸上7冠。
選手名 | タチアナ・マクファデン (Tatyana McFadden) |
出場競技/種目 | 女子400mT54他 |
パラリンピック出場実績 | 2004年アテネ/銀メダル他 2008年北京/銀メダル他 2012年ロンドン/3冠 2016年リオ/4冠 |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/25個 銀メダル/10個 銅メダル/4個 |
外部サイトへのリンク
<タチアナ・マクファデン 公式webサイト>
マルルー・ファン・ライン(オランダ)
先に述べた通り、スポーツ用義足(ランニングブレード)の性能は年々向上しており、健常者を超える記録が出ることも少なくない。しかし、素晴らしいテクノロジーがあっても、それを使いこなすパラアスリートが努力を怠れば、平均的な記録から脱することは決してできない。
ここで紹介する『マルルー・ファン・ライン(Marlou van Rhijn)』は、先天性の病で下肢が太ももまで欠損している。しかし、幼い頃から様々なスポーツにチャレンジし、義足のパラ水泳選手として世界選手権、欧州選手権等に出場し結果を残した。
2010年、当時19歳だったマルルー・ファン・ラインはパラ陸上への転向を決意、驚異的な進歩を遂げるランニングブレードでのトレーニングを開始した。しかし、同製品を使いこなすにはかなりの時間を要し、無理をすると装着部の負傷、大けがを誘発する可能性もある。同選手は2年に及ぶ過酷なトレーニングを乗り切り、ランニングブレードをコントロールできるようになった。
同選手は2012年ロンドン大会のパラ陸上代表に選ばれ、「女子200mT44」で金メダルを獲得、競技を始めて僅か2年で結果を残せた理由は本人の努力以外にない。さらに2016年リオ大会では女子100mと200mの2冠を達成し、パラ陸上女子短距離界の頂点に立った。なお、同選手は女子100m、200m、400mで世界記録を保持している。
マルルー・ファン・ラインが国際大会で獲得したメダルは14個(うち金12個)、2020年東京大会への出場権も既に獲得しており、世界記録更新と金メダルを狙い過酷なトレーニングを継続しているという。また同選手は、障がいを持つ子供向けの財団を設立し、高価なランニングブレードを誰でも装着できる環境を整える活動も行っている。
<まとめ>
◎2016年リオ大会女子100m、200mを制し2冠を達成。東京大会では同種目連覇を狙う。
◎ランニングブレードの性能が向上しても、それを使いこなす選手が努力しなければ、好記録は誕生しない。
選手名 | マルルー・ファン・ライン (Marlou van Rhijn) |
出場競技/種目 | 女子100mT43/44他 |
パラリンピック出場実績 | 2012年ロンドン/金メダル他 2016年リオ/2冠 |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/12個 銀メダル/1個 銅メダル/1個 |
外部サイトへのリンク
<マルルー・ファン・ライン 公式webサイト>
アーチェリー(目次に戻る
2016年リオパラリンピック『アーチェリー』のメダリスト(抜粋)は以下の通りである。
種目 | 金 | 銀 | 銅 |
個人 コンパウンドオープン(女子) | 周佳敏 (中国) | 林月珊 (中国) | キム・ミスン (韓国) |
個人 リカーブオープン(女子) | ザーラ・ネマティ (イラン) | 呉春艶 (中国) | ミレナ・オルシェフスカ (ポーランド) |
チーム コンパウンドオープン(混合) | 中国 | イギリス | 韓国 |
チーム リカーブオープン(混合) | 中国 | イラン | イタリア |
パラアーチェリーでは障がいの種類によるクラス分けを採用しておらず、出場する選手たちは自分のスタイルにあったベストな補助具/治具の使用を認められている。同競技に求められるものは、オリンピックのアーチェリーと同じく「集中力」のみ。集中力さえあれば、両手のない選手でも足で弓を固定するなどし、口を使って矢を引き、的のど真ん中を射抜くことができるのだ。
同競技では中国とイギリスの選手が素晴らしい戦績を残しており、後ろにアメリカ、韓国などが続く。しかし、上位勢の実力は拮抗しており、どの国/選手も最後の1射まで気を抜くことはできない。的を正確に射抜き続けた国/選手が金メダルを獲得することになるだろう。
【種目】
・個人 W1(男子/女子)
・個人 コンパウンドオープン(男子/女子)
・個人 リカーブオープン(男子/女子)
・チーム W1(混合)
・チーム コンパウンドオープン(混合)
・チーム リカーブオープン(混合)
周佳敏(中国)
『周佳敏(Zhou Jiamin)』はスポーツ大国中国のパラアーチェリー選手である。先天性の病により生まれた時から右足が麻痺しており、大学卒業までスポーツを行うことはほとんどなかった。しかし、スポーツ自体に興味がなかった訳ではなく、車いすが大きな足かせとなり、諦めざるを得なかったという。
ごくごく普通の女性として生活、大学卒業後に就職したのち、周佳敏に大きな転機が訪れる。2014年、バレーボール大会に参加し、車いすでボールを追っている姿がパラアーチェリートレーナー(コーチ)の目に留まったのだ。同競技へのチャレンジを勧められ、周佳敏はパラアーチェリー選手になることを決意した。
同選手の武器は他の追随を許さぬ集中力にある。しかし、スポーツ経験ゼロの女性が一流のパラアスリートを目指すには、過酷なトレーニングが必要不可欠だった。それでも困難に挑戦する、立ち向かうと決断した理由や、同じ境遇/障害を持つチームメートたちが、明るく前向きにトレーニングを行っていたためだ。
パラアーチェリー中国代表の選手層は非常に厚い。しかし、周佳敏は競技を始めてから僅か1年で同国の代表に選ばれ世界選手権に出場、2016年リオ大会への出場権を獲得する。そして、「個人 コンパウンドオープン(女子)」と「チーム コンパウンドオープン(混合)」で金メダルを獲得、パラリンピック初出場にして2冠を達成した。
2019年の世界選手権、同選手は金メダルを二つ獲得し、東京大会への出場をほぼ手中に収めた。強豪ひしめく中国代表の中で結果を残せる理由は、「弛まぬ努力」、そして厳しいトレーニングを共に積むチームメートにある。最強の射手は東京大会の金メダルに狙いを定めた。
<まとめ>
◎同選手は2016年リオ大会で2冠を達成。パラアーチェリーを始めてから2年目での快挙だった。
◎スポーツ経験ゼロの女性がパラリンピックで2冠を達成できた理由は、弛まぬ努力と同じ障がいを持つチームメートにある。
選手名 | 周佳敏 (Zhou Jiamin) |
出場競技/種目 | 個人 コンパウンドオープン(女子)他 |
パラリンピック出場実績 | 2016年リオ/2冠 |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/7個 銀メダル/2個 銅メダル/1個 |
外部サイトへのリンク
<世界アーチェリー連盟 公式ホームページ>
ザーラ・ネマティ(イラン)
『ザーラ・ネマティ(Zahra Nemati)』はイランを代表するパラアスリートである。1985年、混迷を極める「イラン・イラク戦争」の最中に生まれたものの、幸い戦火に巻き込まれることはなく、普通の健康的な少女として家族に見守られながら成長した。
同選手は、幼い頃に出会ったテコンゴーで成功を収めるべく大会等に出場していたが、2004年に脊椎損傷の大けがを負い、下半身不随になった。それから2年後、テコンドーを諦め、第二の人生を歩もうとしていた時、パラアーチェリーに出会う。
競技を始めてから6か月後、ザーラ・ネマティは健常者のアーチェリー大会に出場し、3位という好成績を残す。この活躍が国内中に知れ渡り、イランのアーチェリー協会は、同選手を国際大会等の代表に選出。その後も健常者の大会に参加し続け、複数個のメダルを獲得した。
2010年、パラアーチェリーの大会に初めて参加したザーラ・ネマティは、いきなり4種目で世界記録を更新する圧倒的な強さを見せつけた。そして2012年ロンドン大会、同選手は「個人 リカーブオープン(女子)
」を制し、イラン人女性初のパラリンピック金メダルを獲得した。
先に述べた通り、アーチェリーおよびパラアーチェリーで必要とされるものは「集中力」のみ。同選手が健常者を押しのけてメダルを獲得できた理由は、正確に的の中心を射抜く驚異的な集中力の賜物である。2016年リオ大会、ザーラ・ネマティはオリンピックのアーチェリー代表に選出/出場を果たし、そのあと開催されたパラリンピックにも出場するという快挙を達成した。
2020年、同選手は東京オリンピックおよび東京パラリンピックへの出場権を獲得しており、人類史上初となる両大会でのメダル獲得を狙う。
<まとめ>
◎同選手はイラン人女性初のパラリンピック金メダリスト。
◎東京オリンピックおよび東京パラリンピックのイラン代表に内定済み。狙うは人類史上初となる両大会でのメダル獲得。
選手名 | ザーラ・ネマティ (Zahra Nemati) |
出場競技/種目 | 個人 W1(女子)他 |
パラリンピック出場実績 | 2012年ロンドン/金メダル他 2016年リオ/金メダル他 |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/6個 銀メダル/1個 銅メダル/3個 |
外部サイトへのリンク
<国際パラリンピック委員会 公式ホームページ>
バドミントン(目次に戻る
2019年BWFパラ『バドミントン』世界選手権、各国のメダル獲得数(抜粋)は以下の通りである。
順位 | 国 | 金 | 銀 | 銅 | 合計 |
1 | 中国 | 7 | 3 | 3 | 13 |
2 | インド | 3 | 4 | 5 | 12 |
3 | 日本 | 1 | 1 | 9 | 11 |
4 | インドネシア | 4 | 2 | 4 | 10 |
5 | イングランド | 3 | 3 | 2 | 8 |
パラバドミントンは2020年東京大会から採用される新競技のひとつである。同競技はスポーツとしてだけでなく、レクリエーションやリハビリなどに取り入れられることも多い。シャトルとラケットさえあれば誰でも簡単に行えることから、近年世界的な広がりを見せており、愛好者を含めた競技人口は右肩上がりで増加している。
パラバドミントンも他の競技と同じく、障がいの種別、重さによりクラス分けされる。また、基本的なルールは一般的なバドミントンと同じだが、コートの広さや「サービスライン(ネット近くに設けられた線)」とネットの間にシャトルが落ちた場合はアウトになるなど、独自ルールも採用している。
2019年の世界選手権では中国が7種目を制したものの、上位勢のメダル獲得数に大きな差はない。東京大会でも同国を中心とした激しい上位争いが予想されている。
【種目※障がいの種類によるクラス分けあり】
・シングルス(男子/女子)
・ダブルス(男子/女子)
ジュリアナ・ポベダ (ペルー)
先に述べた通り、パラバドミントンは2020年東京大会から採用される新競技である。老若男女問わず誰でも楽しめるスポーツであり、競技人口は右肩上がりで上昇中、高いポテンシャルを持つ競技と言えるだろう。
ここで紹介する『ジュリアナ・ポペダ(Giuliana Poveda)』は、ペルーのパラバドミントン界で最も有名な選手である。先天性の遺伝子疾患による低身長症を患っているものの、障がいを微塵も感じさせぬ活躍を見せ、ペルーを代表するパラアスリートに成長した。
2015年、同選手は家族の後押しを受けパラバドミントンへの挑戦を決意、「女子シングルスSH6(低身長クラス)」に参戦した。しかし、ペルーのパラバドミントンレベルは決して高くなく、トレーニング環境/施設は他の強豪国に比べると圧倒的に不足していた。それでも同競技にチャレンジした理由は、同じ障がいを持つパラアスリートたちが必死に戦っていることを知り、彼ら(彼女ら)と同じ環境に身を置きたいと思ったためだ。
ジュリアナ・ポベダは小さな身体に似合わぬ「強靭な精神力」の持ち主であり、逆境に怯むような人間ではなかった。翌2016年、同選手は国際大会で初のメダルを獲得、以降も素晴らしい戦績を残す。国際大会での通算メダル獲得数は7個(うち金3個)。2020年2月時点の世界ランキング(女子シングルスSH6)では1位を独走しており、東京大会への出場はほぼ間違いないだろう。
同選手は現在19歳、バリバリの現役大学生である。学問とスポーツを両立させるパラアスリートは、パラリンピック女子シングルスSH6の初代王者を狙う。
<まとめ>
◎同選手の武器は強靭な精神力。2020年2月時点の世界ランキング(女子シングルスSH6)1位。
◎バリバリの現役大学生はパラリンピック女子シングルスSH6初代王者を狙う。
選手名 | ジュリアナ・ポペダ (Giuliana Poveda) |
出場競技/種目 | 女子シングルスSH6 |
パラリンピック出場実績 | なし |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/3個 銀メダル/3個 銅メダル/1個 女子シングルスSH6/世界ランキング1位 |
外部サイトへのリンク
<ペルー国立パラリンピック協会 公式ホームぺージ>
ボッチャ(目次に戻る
2016年リオパラリンピック『ボッチャ』のメダリスト(抜粋)は以下の通りである。
種目 | 金 | 銀 | 銅 |
個人(混合)BC1 | デイヴィッド・スミス (イギリス) | ダニエル・ペレズ (オランダ) | ユ・ウォンジョン (韓国) |
個人(混合)BC2 | ワッチャラポン・ボンサー (タイ) | ウォラウット・セーンアンパー (タイ) | 厳治強 (中国) |
ペア(混合)BC4 | スロバキア | ブラジル | タイ |
団体(混合)BC1-2 | タイ | 日本 | ポルトガル |
ボッチャがパラリンピックに採用されたのは1988年ソウル大会から。障がい者と健常者が一緒に行える/楽しめる競技として広く認知されるようになった。対戦相手/チームは交互に革製ボールを「ジャック(対象球、的となる白い球)」に向かって投げるもしくは転がす。最終的に、自分のボールをジャックの周りに多く集めた方が勝者となる。
同競技に求められるものは「コントロール」「集中力」そして「戦略」である。ジャック本体にボールをぶつけて同球の位置を変更すれば、一発逆転も十分にあり得るため、最後の最後まで油断はできない。そのため、ボールを使ってジャックを囲い込む、対戦相手が投げにくい場所にボールを配置するなどの工夫も必要だ。
【種目※障がいの種類によるクラス分けあり】
・個人(混合)
・ペア(混合)
・団体(混合)
ワッチャラポン・ボンサー(タイ)
『ワッチャラポン・ボンサー(Watcharaphon Vongsa)』は、世界を代表するボッチャの選手である。先天性の病により四肢が麻痺した状態で生まれ、障がい者学校でボッチャに出会った。同競技は、健常者、障がい者を問わず誰でも楽しめるスポーツであり、学校のクラスメートたちは障がいの重さに関係なく皆一生懸命ボールを投げていたという。
ボッチャの虜になった同選手は、自慢の集中力とコントロールを武器にメキメキと実力をつけ、16歳にしてタイ代表入りを果たす。それから数年後、ワッチャラポン・ボンサーは2009年に障がい者学校を卒業、同年職業訓練校に入学、コンピュータ科学を学びつつ、ボッチャの実力にも磨きをかけた。
翌2010年、同選手は初めて国際大会に出場し、個人種目で金メダルを獲得した。その後も初出場の大会でタイトルを獲得、タイ代表内での地位を確立すると同時に、2012年ロンドン大会への出場を決めた。そして同年、個人戦でのメダル獲得は逃したものの、団体戦において自身初となるパラリンピック金メダルを獲得した。
以降も国際大会で素晴らしい戦績を残し、迎えた2016年リオ大会、同選手は個人、団体戦で金メダルを獲得、2冠を達成した。なお、個人決勝では同国のチームメートと戦うことになり、試合終了後は涙の抱擁を交わし健闘を称え合った。
2019年、ワッチャラポン・ボンサー率いるタイ代表は圧倒的な強さでアジア選手権を制し、2020年東京大会の出場権を獲得した。狙うは団体戦3連覇と個人戦連覇。前者を達成すればボッチャ史上初、後者についても数名しか達成できていない偉業である。同選手は東京大会でも完璧なコントロールを披露してくれるだろう。
<まとめ>
◎同選手の武器は集中力と驚異的なコントロール。2016年リオ大会では個人、団体戦の2冠を達成した。
◎ワッチャラポン・ボンサー率いるタイ代表は東京大会内定済み。団体戦3連覇と個人戦連覇を狙う。
選手名 | ワッチャラポン・ボンサー (Watcharaphon Vongsa) |
出場競技/種目 | 個人(混合)他 |
パラリンピック出場実績 | 2012年ロンドン/金メダル 2016年リオ/2冠 |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/6個 銀メダル/2個 |
外部サイトへのリンク
<国際パラリンピック委員会 公式ホームページ>
カヌー(目次に戻る
2016年リオパラリンピック『カヌー』のメダリスト(抜粋)は以下の通りである。
種目 | 金 | 銀 | 銅 |
KL1(男子) | ヤクブ・トカジ (ポーランド) | ローベルト・シュバ (ハンガリー) | イアン・マーズデン (イギリス) |
KL2(男子) | カーティス・マグラス (オーストラリア) | マルクス・スボボダ (オーストリア) | ニック・ベイトン (イギリス) |
KL2(女子) | エマ・ウィッグス (イギリス) | ナタリア・ラフテンコ (ウクライナ) | スーザン・サイペル (オーストラリア) |
KL3(女子) | アン・ディキンズ (イギリス) | アマンダ・レイノルズ (オーストラリア) | シンディ・モロー (フランス) |
パラカヌーも他の競技と同じく障がいの種別によってクラス分けされる。種目は「カヤック」と「ヴァー」に分類され、前者と後者では艇の大きさ、パドルのサイズと形状、漕法が異なる。なお、オリンピックのカヌー競技ではペアやフォア(4人)といった種目もあるが、パラカヌーはシングルのみでメダルを争う。
カヌーはボートと違い、進む方向に身体を向けパドルを漕ぐ。重要なことは上半身の筋力と腕力、そして艇のバランスを取りつつパドルを漕ぐこと。出場する選手たちは鍛え上げられた筋肉とボディバランスをフル活用し金メダルを狙う。なお、レースは8艇が同時にスタートしゴールを目指す「スプリント戦」である。
強豪国は欧州勢、その中でも特にイギリスが突出して強く、女子は2016年リオ大会の上位を独占した。パラアスリートたちの常人離れしたパドルさばきに注目しよう。
【種目】
・KL1(男子/女子)
・KL2(男子/女子)
・KL3(男子/女子)
・VL2(男子/女子)
・VL3(男子)
カーティス・マグラス(オーストラリア)
2016年リオ大会、『カーティス・マグラス(Curtis McGrath)』はパラリンピック初出場を果たし、「KL2(男子)」の部にて金メダルを獲得した。同選手は元々カヌー、ラグビー、水泳などを行ってきた生粋のアスリートであり、パラカヌーでも結果を残すことは必然だった。
カーティス・マグラスは2006年オーストラリア陸軍に入隊、厳しい環境下に身を置きつつ、スポーツでも身体を鍛え続けていた。しかし2012年、イラク戦争後の混乱により地獄の様相を呈していたアフガニスタンに派遣、任務中に「即席爆破装置(IED)」の爆発に巻き込まれ、両足(膝下)を吹き飛ばされた。
同選手は、両足を失い両手も粉砕骨折、さらに爆風に身体を焼かれ半死半生の状態に陥った。しかし、スポーツで鍛え上げた身体が傷の回復を早め、3カ月後には義足を装着しリハビリを開始、その時既にパラカヌーへの挑戦を心に決めていたという。
カーティス・マグラスを支えたもの、それは鍛え上げられた身体と、限界を決めずに進み続けるあくなき向上心にあった。2014年、同選手は世界選手権にて初の金メダルを獲得した。さらに翌年以降も勝利を重ね、2019年の世界選手権でも2冠を達成。世界選手権個人6連覇という異次元の強さを見せつけ、東京大会への出場権を獲得、オーストラリア代表に内定した。
天賦の才に努力がプラスされれば、結果が出ることは必然、特に2016年以降の勝ちっぷりは凄まじく、ほぼ敵なしの状態を維持してきた。しかし、同選手はさらに厳しい環境下でトレーニングを継続しており、油断は微塵も感じさせない。当然のことながら、東京大会でも同種目の金メダル最有力候補に挙げられている。
<まとめ>
◎アフガニスタンでの任務中に両足を失うも、3カ月後にはリハビリを開始、パラカヌーへの参戦を決めた。
◎現在世界選手権6連覇中。2020年東京大会内定済み、KL2(男子)連覇を狙う。
選手名 | カーティス・マグラス (Curtis McGrath) |
出場競技/種目 | KL2(男子) |
パラリンピック出場実績 | 2016年リオ/金メダル |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/11個 銀メダル/1個 |
外部サイトへのリンク
<カーティス・マグラス 公式webサイト>
エマ・ウィッグス(イギリス)
『エマ・ウィッグス(Emma Wiggs)』は、イギリスパラカヌー界を代表する選手のひとりである。イギリスの代表候補選手たちは世界でも群を抜く層の厚さとレベルを誇るが、同選手は39歳になった今でも最前線で活躍し続けており、2019年の世界選手権においても圧倒的な強さで優勝、個人7連覇を達成した。
1998年、ロンドンで生まれ育った18歳の健康的なティーンエイジャーは、原因不明のウィルスに感染、四肢に大きな麻痺/損傷を受け、絶望のどん底に底に叩き落とされた。しかし、車椅子が必要な身体になっても教師になる夢を諦めることはできず、大学で運動科学の学位を取得、体育の教師として働き始める。
2010年、エマ・ウィッグスはシッティングバレーボールを始め、同年の世界選手権に出場し銅メダルを獲得、2012年ロンドン大会では8位に終わったものの、アスリートとして本格的に活動することを決め、パラカヌー競技に転向した。なお、同選手は体育教師として働いていた際も体力増強を継続しており、弛まぬ努力はすぐ戦績に反映された。
パラカヌーに転向した翌年、エマ・ウィッグスは世界選手権において初優勝を果たす。その後も圧倒的な強さで国際大会を制し、2016年リオ大会「KL2(女子)」の部で金メダルを獲得した。これまでに国際大会で獲得してメダル数は11個(うち金9個)、先述の通り、2019年の世界選手権を制し7連覇を達成、東京大会への出場権を確保した。
絶望のどん底に叩き落とされても、夢を諦めず挑戦と努力を続けた胆力こそ、エマ・ウィッグス最大の武器である。現在、同選手はパラ競技のさらなる発展と成長、そして障がいを持つ人たちの活躍を促進すべく講演会などを行っており、活動の幅は競技の外にまで広がっている。
<まとめ>
◎エマ・ウィッグスは33歳でパラカヌー転向を決断、世界選手権7連覇という偉業を達成した。
◎2020年東京大会の出場権は獲得済み。KL2(女子)の部連覇を狙う。
選手名 | エマ・ウィッグス (Emma Wiggs) |
出場競技/種目 | KL2(女子) |
パラリンピック出場実績 | 2016年リオ/金メダル |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/9個 銀メダル/2個 |
外部サイトへのリンク
<エマ・ウィッグス 公式webサイト>
Our #Paracanoe team have landed back in 🇬🇧 after a hugely successful prep camp acclimatisation & #testevent in #Tokyo Massive learnings & even more ready to work hard & ensure we’re topping medal table @Tokyo2020 @BritishCanoeing @C4Paralympics @ParalympicsGB pic.twitter.com/8SCTXzn6BI
— Emma Wiggs MBE (@emwiggsy) September 16, 2019
自転車競技(目次に戻る
2016年リオパラリンピック『自転車競技』のメダリスト(抜粋)は以下の通りである。
種目 | 金 | 銀 | 銅 |
ロードタイムトライアル(男子)H2 | ルーカ・マッツォーネ (イタリア) | ウィル・グルックス (アメリカ) | ブライアン・シェリダン (アメリカ) |
ロードレース(男子)H2 | ウィル・グルックス (アメリカ) | ルーカ・マッツォーネ (イタリア) | トビアス・ファンクハウザー (スイス) |
ロードタイムトライアル(女子)C5 | サラ・ストーリー (イギリス) | アンナ・ハルコフスカ (ポーランド) | サマンサ・ボスコ (アメリカ) |
ロードレース(女子)C4-5 | サラ・ストーリー (イギリス) | アンナ・ハルコフスカ (ポーランド) | クリスタル・レーン (イギリス) |
パラリンピックの自転車競技は、すり鉢状のコースを走る「トラック」と公道を走る「ロード」に分類される。また、全盲の選手であれば二人乗りの「タンデムバイク」、下肢に障がいを持つ選手であれば「ハンドサイクルバイク」など、障がいの種別によって使用できる自転車が異なる。
同競技は欧州勢が圧倒的な強さを誇り、アメリカとオーストラリアが後ろに続く。欧州では古くから自転車競技の国際大会、世界選手権、そして世界三大スポーツのひとつ「グランツール」が盛んに行われており、選手の実績、層の厚さは群を抜いている。パラリンピック自転車競技でも同じことがいえるため、東京大会は例年通り「アメリカ大陸、オセアニア、アジア地域」vs欧州の戦いになるだろう。
【種目※障がいの種類によるクラス分けあり】
トラック
・1kmタイムトライアル(男子)
・500mタイムトライアル(女子)
・チームスプリント(混合)
・パシュート(男子/女子)
ロード
・ロードレース(男子/女子)
・タイムトライアル(男子/女子)
・チームリレー(混合)
ウィル・グルックス(アメリカ)
『ウィル・グルックス(Will Groulx)』は、アメリカを代表する超人パラアスリートのひとりである。同選手はアメリカ海軍のダイバーとして1995年から2001年の間活動、退役後の事故で上半身から下が麻痺し、下半身不随になった。
7カ月超のリハビリを終え、同選手は車いすラグビーへの参戦を決意、海軍仕込みの強靭な上半身と腕力は、同競技にぴったりフィットした。翌年にはアメリカ代表入りを果たし、2004年アテネ大会でパラリンピック初出場、銅メダルを獲得する。さらに2008年北京大会では金メダル、2012年ロンドン大会においてはキャプテンとしてチームをまとめ上げ、銅メダルを獲得した。
2013年、ウィル・グルックスは車いすラグビーを引退、パラサイクリング(ハンドサイクリング)への転向を決断、同競技においても強靭な上半身と腕力を活かし、素晴らしい戦績を残す。同年の国際大会で複数個のメダルを獲得し、翌2014年には優勝も経験、第三の人生をパラサイクリングに見出し、厳しいトレーニングを継続した。
2016年リオ大会、同選手は「ロードレース(男子)H2」において金メダル、「ロードタイムトライアル(男子)H2」では銀メダル、そして「ロード男女混合チームリレ」でも銀メダルを獲得した。車いすラグビーに続きパラサイクリングでも結果を残し、アメリカを代表する超人パラアスリートは歴史に名を刻んだ。
ウィル・グルックスは現在45歳、パラサイクリングの世界ではベテラン選手に分類されるが、実力はまだまだ健在である。2018年の世界選手権でも金メダルを1個、銀メダルを2個獲得、アメリカ代表候補の選手層は非常に厚いものの、男子H2(ハンドサイクリング)の部では同選手が圧倒的な強さを誇っており、東京大会への出場は怪我をしない限りほぼ確定といって間違いないだろう。
<まとめ>
◎同選手は車いすラグビーおよびパラサイクリングで金メダルを獲得した。
◎2016年リオ大会においては、金メダル1個、銀メダル2個という戦績だった。東京大会では欧州勢に勝負を挑む。
選手名 | ウィル・グルックス (Will Groulx) |
出場競技/種目 | ロードタイムトライアル(男子)他 |
パラリンピック出場実績 | ★車いすラグビーアメリカ代表 2004年アテネ/銅メダル 2008年北京/金メダル 2012年ロンドン/銅メダル ★ロードレース他アメリカ代表 2016年リオ/金メダル他 |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/5個 銀メダル/12個 銅メダル/5個 |
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<TEAM USA 公式ホームぺージ>
サラ・ストーリー(イギリス)
先に述べた通り、パラサイクリングは欧州勢が圧倒的な強さを誇り、その中でもイタリアとイギリスは超強豪国である。ここで紹介する『サラ・ストーリー(Sarah Storey)』は世界一有名なパラアスリートと言っても過言ではなく、その戦績は他の追随を一切許さない。
同選手は左腕を喪失した状態で生まれた。幼い頃から様々なスポーツにチャレンジし、義手をつけた状態でも行えるパラ水泳選手になることを決断、弱冠15歳でイギリス代表入りを果たし、1992年バルセロナ大会でパラリンピック初出場を果たす。
サラ・ストーリーがパラ水泳選手として獲得したメダルは32個(うち金10個)、驚異のスイマーは2004年に同競技からの引退とパラサイクリングへの転向を発表、新たなメダル獲得伝説が幕を開ける。2008年北京大会では2冠、2012年ロンドン大会は4冠、2016年リオ大会でも3冠と、年を取ると共に凄みは増し、手の付けられない強さでパラサイクリング界の頂点に立った。
同選手は2017年に第二子を出産、約1年パラサイクリングから離れていたが、2018年の世界選手権で戦線に復帰し2冠を達成、さらに2019年の世界選手権でも同種目2冠、早々に東京大会への出場を確定させた。2020年東京大会、42歳のママさんパラアスリートは、8回目のパラリンピックで自己最多記録を更新する5冠を狙っている。
最後に、サラ・ストーリーがパラリンピックで獲得したメダルは41個(うち金19個)、これは世界歴代最多記録であり、東京大会でさらに記録が更新されることは間違いない。
<まとめ>
◎世界最強のママさんパラアスリートは、8回目のパラリンピックで自己最多を更新する5冠を狙う。
◎国際大会でのメダル獲得数は群を抜いており、100個に到達する勢いである。
選手名 | サラ・ストーリー (Sarah Storey) |
出場競技/種目 | ロードタイムトライアル(女子)他 |
パラリンピック出場実績 | ★水泳イギリス代表 1992年バルセロナ/2冠他 1996年アトランタ/3冠他 2000年シドニー/銀メダル他 2004年アテネ/銀メダル他 ★ロードタイムトライアル他イギリス代表 2008年北京/2冠 2012年ロンドン/4冠 2016年リオ/3冠 |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/50個 銀メダル/20個 銅メダル/11個 |
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<サラ・ストーリー 公式webサイト>
馬術(目次に戻る
2016年リオパラリンピック『馬術』のメダリスト(抜粋)は以下の通りである。
種目 | 金 | 銀 | 銅 |
個人グレード1a | ソフィー・クリスチャンセン (イギリス) | アン・ダンハム (イギリス) | セルジオ・オリバ (ブラジル) |
個人グレード2 | ナターシャ・ベーカー (イギリス) | デミ・フェルムーレン (オランダ) | リクスト・ファン・デル・ホルスト (オランダ) |
自由演技グレード1a | ソフィー・クリスチャンセン (イギリス) | アン・ダンハム (イギリス) | セルジオ・オリバ (ブラジル) |
自由演技グレード2 | ナターシャ・ベーカー (イギリス) | リクスト・ファン・デル・ホルスト (オランダ) | シュテフェン・ツァイビッヒ (ドイツ) |
団体 | イギリス | ドイツ | オランダ |
パラ馬術では、騎手と馬の「信頼関係」「チームワーク」が問われる。熟練の騎手であっても、馬との信頼関係が構築/確立されていなければ、上位争いは望めない。パラアスリートたちは自分の所有する馬で大会等に出場し経験を積み重ね、信頼関係を構築するのだ。
同競技では、障がいの重さによってグレード(クラス)が分けられ、全種目男女混合で争われる。男女による差/優位性はなく、2016年リオ大会でのメダル獲得比率はほぼ同じだった。また、近年ルールが改定され、国際大会等でポイントを獲得するのは「選手と馬」という扱いになり、規定値を満たせば(大会等で結果を残す)パラリンピックの代表に選出される。すなわち、代表入りした馬を大会前に変更することはできないのだ。選手たちは、自分だけでなく馬のコンディションにも細心の注意を払わなければならない。
【種目】
個人
・グレード1(混合)
・グレード2(混合)
・グレード3(混合)
・グレード4(混合)
・グレード5(混合)
団体
・団体課目(混合)
自由演技
・グレード1(混合)
・グレード2(混合)
・グレード3(混合)
・グレード4(混合)
・グレード5(混合)
ナターシャ・ベイカー(イギリス)
パラ馬術では騎手と馬の信頼関係以上に大切なものはなく、男女によるポイント差もほとんど発生しない。優秀な成績を収める騎手は、家族と変わらぬ愛情を愛馬に注いでおり、強い絆を武器にパラリンピックの舞台で演技を披露するのだ。
ここで紹介する『ナターシャ・ベイカー(Natasha Baker)』は、馬術大国イギリスを代表する選手のひとりである。同選手は1歳の時に重度の脊椎炎を患い、下肢の機能を失った。その後、理学療法士の勧めで乗馬を始め、9歳の頃には本格的にパラ馬術を開始、パラリンピックへの出場を決意する。
2009年、ナターシャ・ベイカーは「カブラル」という牡馬と運命的な出会いを果たし、国際大会への出場を目指し訓練を開始する。そして2年後の2011年、同選手とカブラルは初めてシニアの大会に参戦、同年の欧州選手権「個人 グレード2」と「自由演技グレード2」の2種目を制し、2012年ロンドン大会への出場を決めた。
同選手とカブラルは2012年ロンドン大会で2冠、さらに4年後のリオ大会では3冠を達成。息の合ったコンビネーションを披露し、国際大会において11個(うち金9個)ものメダルを獲得、パラ馬術界の頂点に立った。しかし翌2017年、カブラルは感染症を患い天国に旅立った。
愛馬を失ったナターシャ・ベイカーは1年以上競技から離れたものの、家族の勧めもありパラ馬術に戻ることを決意、新しいパートナー「ディーバ(牝馬)」と出会い、信頼関係を構築すべく訓練を開始した。そして2018年、同選手とディーバは世界選手権初出場ながらも銀メダルを獲得、その後出場した3大会は全て制し、東京大会出場に向け順調な調整ぶりをアピールした。なお、パラ馬術のイギリス代表争いは現在も続いており、東京大会の出場選手が確定するのは2020年4月頃を予定している。
<まとめ>
◎同選手と愛馬カブラルは2012年ロンドン大会で2冠、2016年リオ大会では3冠を達成した。
◎カブラルの後を受け継いだディーブとナターシャ・ベイカーは、東京大会出場を目指しトレーニングを続けている。
選手名 | ナターシャ・ベイカー (Natasha Baker) |
出場競技/種目 | 個人グレード2(混合)他 |
パラリンピック出場実績 | 2012年ロンドン/2冠 2016年リオ/3冠 |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/11個 銀メダル/5個 |
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<ナターシャ・ベイカー 公式webサイト>
ソフィー・クリスチャンセン(イギリス)
『ソフィー・クリスチャンセン(Sophiet Christiansen)』は、先に述べたナターシャ・ベイカーと共にイギリス代表入りを目指す天才騎手である。同選手は重い脳性麻痺を患っており、さらに心臓、肺などの臓器にも障がいを抱えた状態で生まれた。
同選手は6歳の頃にセラピーの一環として乗馬を始め、家族と理学療法士に才能を見出される。16歳でパラリンピック(2004年アテネ大会)に初めて出場し、見事銅メダルを獲得、翌々2006年にはロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ(公立の研究大学校)へ数学の修士号を取得すべく進学した。
2008年北京大会、ソフィー・クリスチャンセンと愛馬の「ランブルスコ」は2種目で金メダルを獲得、馬術大国イギリスらしい圧倒的な勝ちっぷりを披露した。さらに翌2009年、同選手は念願だった数学の修士号を取得、さらなる高みを目指しパラ馬術と学業を両立させることになる。
2012年のロンドン大会、同選手は「個人グレード1a」「自由演技グレート1a」「団体」を制し3冠を達成。個人戦においては、2位以下を大きく引き離す圧倒的な強さを見せつけた。翌2013年、同選手はパラリンピック等での活躍を評価され、「大英帝国勲章(OBE)」の役員に任命、名実ともにパラ馬術界の頂点に立った。
2016年リオ大会でも3冠を達成し、同選手の強さは手の付けられない領域に達しつつある。素晴らしい戦績を収め続ける理由は、愛馬と純粋に向き合えるためだと思う。脳性麻痺という重い障がいを患ってはいるものの、一緒に戦う愛馬は同選手の心と感情を感じ取り演技を行うのだ。2017年、ソフィー・クリスチャンセンは、先に述べた大英帝国勲章のひとつ「大英帝国司令官(CBE)」に指名、新たな栄誉を得た。
<まとめ>
◎同選手が国際大会で獲得したメダルは15個(うち金13個)。
◎2020年東京大会への出場はほぼ間違いない。なお、同種目トリプルクラウン3連覇を達成すれば、パラリンピック史上初の快挙。
選手名 | ソフィー・クリスチャンセン (Sophiet Christiansen) |
出場競技/種目 | 個人グレード1(混合)他 |
パラリンピック出場実績 | 2004年アテネ/銅メダル 2008年北京/2冠他 2012年ロンドン/3冠 2016年リオ/3冠 |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/13個 銀メダル/1個 銅メダル/1個 |
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<ソフィー・クリスチャンセン 公式webサイト>
5人制サッカー(目次に戻る
パラリンピック『5人制サッカー』のメダル獲得国は以下の通りである。
種目 | 金 | 銀 | 銅 |
2016年リオ | ブラジル | イラン | アルゼンチン |
2012年ロンドン | ブラジル | フランス | スペイン |
2008年北京 | ブラジル | 中国 | アルゼンチン |
2004年アテネ | ブラジル | アルゼンチン | スペイン |
パラリンピックにおける5人制サッカーでは、視覚に障害を持つ選手のみ(ゴールキーパーは弱視もしくは晴眼者が務める)出場を認められる。同競技の大きな特徴は以下の三つ。
①転がると音のなるボール(内部に小さな鉛玉が入っている)を採用。
②DFは相手選手に接近/ボールを奪うとき、「ボイ」と発声すること。違反すればファールを取られる。
③各チーム一名ずつ、コート外に晴眼者のガイドを配置。声で自チームをサポートできる。
以上の条件を満たしつつ、選手たちはボールから出る音、チームメート間の連携と合図、ガイドの声を頼りに相手ゴールを目指す。すなわち、試合は静寂の中で進められなければならず、観客は歓声を送ることができないのだ。なお、ゴールが決まった瞬間に大歓声を送れば、選手たちはシュートが決まったことを即座に認識できるだろう。
【種目】
・5人制サッカー(男子)
ブラジル代表
世界の超一流サッカー選手は主に欧州の主要リーグ(プレミアリーグ、セリエA、リーガ・エスパニョーラなど)でプレーし、個々の能力に磨きをかけている。しかし、サッカー界の頂点に君臨する国/チームはイギリスやフランス、イタリアなどの欧州勢ではなく、南米の雄『ブラジル代表』である。
同代表は世界最大のスポーツイベント「FIFAワールドカップ」を5度制し、その他にも様々な国際大会で数えきれないほどの栄冠を獲得、サッカー大国の名に恥じぬ戦績を収めてきた。そして、5人制サッカーの世界においてもブラジル代表は圧倒的な実力を保持しており、パラリンピックの金メダルを独占している。
パラリンピックの5人制サッカーで金メダルを獲得したチームはブラジル代表のみ、正式競技として採用された2004年アテネ大会から4連覇中であり、他国は王者の前にひれ伏し続けている。チームを力強く牽引する大エース「リカルド・アルベス(通称リカルディーニョ)」の存在も大きいだろう。さらに、個々の能力だけでなくチームワークも申し分ないため、弱点らしい弱点が見当たらない状態だ。
5人制サッカーにおいては、チームワークが何より重要視される。視覚に障がいを持つ選手たちにとって、仲間との連携、声掛け、サポート以上に大切なものはない。同代表は個々の能力を最大限に引き出しつつ、それに溺れることなくチームワークを重視する。リカルディーニョがボールを持てば、仲間たちは相手チームをかく乱しつつバックアップに入り、自分を犠牲にしてでもゴールを狙うのだ。
2020年東京大会においても、ブラジル代表は金メダルの最有力候補に挙げられている。ライバルは南米の強豪国にして宿命のライバルアルゼンチン代表、近年急速に力をつけてきた中国代表などだろう。パラリンピック5連覇に向けて南米の雄はゴールに狙いを定める。
<まとめ>
◎5人制サッカーブラジル代表はパラリンピック4連覇中。
◎同代表のライバルはアルゼンチンと中国代表。東京大会でパラリンピック5連覇を狙う。
チーム名 | ブラジル代表 |
出場競技/種目 | 5人制サッカー(男子) |
パラリンピック出場実績 | パラリンピック4連覇中 |
主な戦績 | 世界選手権通算戦績 金メダル/5個 銀メダル/1個 銅メダル/1個 |
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<国際視覚障害者スポーツ連盟 公式ホームぺージ>
ゴールボール(目次に戻る
パラリンピック『ゴールボール』のメダル獲得国(抜粋)は以下の通りである。
種目 | 金 | 銀 | 銅 |
2016年リオ(男子) | リトアニア | アメリカ | ブラジル |
2012年ロンドン(男子) | フィンランド | ブラジル | トルコ |
2008年北京(男子) | 中国 | リトアニア | スウェーデン |
2016年リオ(女子) | トルコ | 中国 | アメリカ |
2012年ロンドン(女子) | 日本 | 中国 | スウェーデン |
2008年北京(女子) | アメリカ | 中国 | デンマーク |
ゴールボールは視覚障がい者向けに考案された競技である。18m×9mのコート両端に「幅9m×高さ1.3mのゴール」が設置されており、各チーム3名ずつが相手ゴールを狙ってボールを投げ点を奪い合う。サッカーの「PK戦」をイメージすると分かりやすいはずだ。同競技の大きな特徴は以下の通り。
①相手選手からボールを奪うという概念は存在しない。すなわち、相手ゴール目掛けてボールを投げた瞬間、攻守が入れ替わる。
②コート内の選手は、必ずアイシェード(目隠し)を着用する。
③バスケットボール大のボール内には鈴が入っている。ゴール前で相手のシュートを防ぐ選手たちは、音を頼りにボールの動きを察知する。
攻撃側は決められたエリア内、時間を厳守し、足音等で相手を惑わしつつシュートを放つ。なお、守備側が攻撃側に不利となる異音を発してはならない。また、先に述べた5人制サッカーと同じく、観客はゴールが決まった瞬間以外、静かに観戦することが求められる。
【種目】
・ゴールボール(男子/女子)
リトアニア代表
バルト海に面する小国リトアニアは、ソビエト連邦崩壊により占領状態から回復し、現在に至る。リトアニアではバスケットボールが高い人気を誇り、NBA選手を輩出するなどの実績を残してきた。また、同競技の人気/相乗効果を受け、同じサイズのコート、ボールを扱う「ゴールボール」の競技人口も増加傾向にあり、男子の世界ランキングでは強豪ブラジルと1位を激しく争っている。
ゴールボール『リトアニア代表』は、2016年リオ大会でパラリンピック初となる金メダルを獲得した。しかし、そこにたどり着くまでの道のりは長く険しいものだった。同代表は2006年と2010年の世界選手権を連覇、2008年北京大会でも銀メダルを獲得し、世界ランキング1位を堅持していた。
リトアニア代表の選手たちは皆仕事を抱えており、ゴールボールだけに集中することはできなかった。さらに引退、世代交代などが重なり、メダル獲得に貢献した選手たちの一部はチームを離れ、他国との実力差は一気に縮まった。結果、2012年ロンドン大会、2014年の世界選手権ではメダルを獲得できずに敗退、チームを立て直さなければ、金メダルなど夢のまた夢という状態に陥ってしまった。
新たに組織されたリトアニア代表は、自国の誇りとプライドも大切にしながらも、何より、同じ障がいを持つ仲間たちとゴールボールを楽しみたいと考えた。技術や連携を高めつつ、仲間と同競技を楽しみ、障がい者スポーツの発展に貢献し、そして一緒に成長したい。選手たちは明るく前向きにゴールボールと向き合うことを決めた。2017年、リトアニア代表は欧州州選手権を制し、7年ぶりの金メダルを獲得した。
同代表の世界ランキング(男子)は2020年2月の時点で2位、強豪国としての地位を取り戻し、東京大会では同1位のブラジル、3位ドイツとの激しいメダル争いが予想されている。人口280万人の小国はパラリンピック連覇を狙う。
<まとめ>
◎リトアニア代表は2006年と2010年の世界選手権、そして2016年リオ大会で金メダルを獲得。
◎低迷期に陥ったチームを救ったのは、仲間たちとゴールボールを楽しみたいという前向きな気持ちだった。
チーム名 | リトアニア代表 |
出場競技/種目 | ゴールボール(男子) |
パラリンピック出場実績 | 2000年シドニー/銀メダル 2008年北京/銀メダル 2016年リオ/金メダル |
主な戦績 | パラリンピック通算戦績 金メダル/1個 銀メダル/2個 |
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<国際視覚障害者スポーツ連盟 公式ホームぺージ>
トルコ代表
ゴールボール女子『トルコ代表』は近年急速に力をつけ、世界ランキング1位2位を争う強豪国に成長、東京大会でも金メダルの有力候補に挙げられている。ここまで成長できた理由は、選手たちの弛まぬ努力とゴールボールにかける情熱があってこそだった。
トルコはスポーツが盛んな国ではなく、オリンピックにおける歴代メダル獲得数は91個(夏季のみ)、パラリンピックでは23個(夏季のみ)、その中でも女性メダリストは突出して少ない。理由は、女性は家を守るもの、スポーツは男性が行うものという旧態依然の考えが定着しており、奨励自体されていなかったためである。
この考えは障がい者スポーツでも顕著に表れていたが、競技を行う女性選手がいなかったわけではない。ゴールボールにおいては、1986年に女性初の国内リーグが設立され、アマチュアクラブチームが切磋琢磨している。しかし、トルコ代表として大きな戦績を残したことはなく、そもそも国際大会に出場する機会すらなかった。
2003年、同代表はカナダで開催されたワールドカップに初参加、国際大会デビューを果たす。そして7年後の2010年、3度目の出場となった欧州選手権で初のメダルを獲得。さらに2012年の欧州選手権で初優勝を果たし、念願の金メダルを獲得した。
2008年北京大会と2012年ロンドン大会には出場できなかったものの、トルコ代表はメキメキと実力をつけ、強豪国の仲間入りを果たした。同代表を牽引してきた「セブダ・アルティノルク」を筆頭に、選手たちは大きく成長した。2016年リオ大会、トルコ代表はパラリンピック初出場を果たし、決勝戦で強豪中国を撃破、女子ゴールボール界の頂点に立った。
トルコは女性のスポーツおよびパラスポーツ参加を積極的に奨励し始めている。これは近年の潮流に倣い行っているものだが、ゴールボール女子トルコ代表の活躍が大きく影響したとも言われている。2020年東京大会、同代表は前回大会王者として世界の強豪国を迎え撃つ。
<まとめ>
◎ゴールボール女子トルコ代表は、2016年リオ大会でパラリンピック初の金メダルを獲得した。
◎旧態依然の考えが定着する中でも、同代表の選手たちは諦めずにプレーし続けた。
チーム名 | トルコ代表 |
出場競技/種目 | ゴールボール(女子) |
パラリンピック出場実績 | 2016年リオ/金メダル |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/7個 銀メダル/5個 |
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<トルコ国立パラリンピック委員会 公式ホームページ>
柔道(目次に戻る
2016年リオパラリンピック『柔道』のメダリスト(抜粋)は以下の通りである。
種目 | 金 | 銀 | 銅 | 銅 |
男子73kg級 | ラミル・ガスモフ (アゼルバイジャン) | ドミトロ・ソロベイ (ウクライナ) | フェルーズ・サイードフ (ウズベキスタン) | ニコライ・コルンハス (ドイツ) |
男子100kg超級 | アディルジャン・トレンドバエフ (ウズベキスタン) | ウィリアンス・シルバ・デ・アラウジョ (ブラジル) | 正木 健人 (日本) | ヤンガリニー・ヒメネス (キューバ) |
女子52kg級 | サンドリーヌ・マルティネ (フランス) | ラモーナ・ブルシッヒ (ドイツ) | シェリン・アブドゥッラウイ (アルジェリア) | セビンチ・サラエワ (ウズベキスタン) |
女子57kg級 | インナ・チェルニャーク (ウクライナ) | ルシア・ダ・シルバ・テイシャイラ・アラウジョ (ブラジル) | 廣瀬 順子 (日本) | ソ・ハナ (韓国) |
パラ柔道は視覚障がい者向けの競技であり、ルールは一般的な柔道とほぼ同じ。選手たちは、投げもしくは締め技での1本を狙い対戦相手と組み合う。種目は男女、階級別に分けられる。なお、障がいの重さによるクラス分けは行っておらず、全盲の選手と弱視の選手が対戦することも多い。
全盲の選手は対戦相手に背後を取られると防戦一方に陥ってしまう。そういった事態を防ぐために、パラ柔道では組み合った状態(お互い同じ条件)から試合が始まり、組み手争いは行われない。「始め」の合図と同時に技をかけ合うため、全盲であっても弱視の選手と互角以上に渡り合えるのだ。なお、全盲の選手は道着に「赤い円型マーク」、聴覚障がいを合わせ持つ選手であれば「黄色の円形マーク」が明示される。
【種目】
男子
・60kg級
・66kg級
・73kg級
・81kg級
・90kg級
・100kg級
・100kg超級
女子
・48kg級
・52kg級
・57kg級
・63kg級
・70kg級
・70kg超級
ラミル・ガシモフ(アゼルバイジャン)
『ラミル・ガシモフ(Ramil Gasimov)』はアゼルバイジャンを代表するパラアスリートのひとり、2016年リオ大会では同国唯一の金メダルを獲得し、脚光を浴びた。
同選手は生まれつき視力が悪く、目の前に差し出された指の本数を認識できない。視界に靄がかかった状態をイメージするといいだろう。パラ柔道においては「カテゴリーB2」に分類されるが、組み合う相手の微妙な動きは認知/察知できるため、全盲の選手に比べると戦いやすいと言われている。
ラミル・ガシモフは幼少期から柔道を行ってきたが、国際大会に出るほどの成績は残せていなかった。転機が訪れたのは同選手が20歳を超えた頃、オリンピックにおいてアゼルバイジャン柔道代表が上位入賞、メダル争いを演じるようになり、パラリンピックへの出場を決意した。
2007年、同選手はユニバーシアードで自身初となる金メダルを獲得するも、翌年開催の北京パラリンピックに出場することはできなかった。2012年ロンドン大会でも代表入りを逃し、一時はパラ柔道からの引退も考えるほど思い悩んだという。しかし、限界を決めずに戦うと決意し、さらに過酷なトレーニングを開始、2013年の欧州選手権、そして2014年世界選手権を制し、強豪選手の仲間入りを果たした。
2016年リオ大会、先に述べた通り、ラミル・ガシモフはアゼルバイジャン代表としては唯一の金メダルを獲得、パラリンピック出場という夢を叶えただけでなく、「男子73kg級」の頂点に立った。
2019年に開催された世界選手権(男子73kg級)では銅メダルという結果に終わったものの、ラミル・ガシモフの東京大会出場はほぼ間違いない。あとは、2020年5月までの国際大会で一定の戦績を残すのみである。なお、東京大会で連覇を達成すればアゼルバイジャン代表初の快挙、歴史に名を刻めるか注目したい。
<まとめ>
◎同選手は現在39歳、遅咲きながらも国際大会で素晴らしい戦績を収めてきた。
◎30歳を超えてから目覚ましい活躍を見せ、国際大会でのメダル獲得数は35個(うち金12個)と、アゼルバイジャンの最多記録を更新し続けている。
選手名 | ラミル・ガシモフ (Ramil Gasimov) |
出場競技/種目 | 男子73kg級 |
パラリンピック出場実績 | 2016年リオ/金メダル |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/12個 銀メダル/2個 銅メダル/11個 |
外部サイトへのリンク
<国際パラリンピック委員会 公式ホームページ>
サンドリーヌ・マルティネ(フランス)
日本に次ぐ柔道大国フランス。代表争いのレベルは非常に高く、東京オリンピックでも金メダルの有力候補たちを送り込んでくるだろう。しかし、フランス国内におけるパラ柔道の選手層はそこまで厚くなく、競技自体の存在感も低い。2016年リオ大会で獲得したメダルは男女を通じてわずか1個、『サンドリーヌ・マルティネ(Sandrine Martinet)』が獲得した金メダル(女子52kg級)のみという結果に終わった。
フランスは「主要先進7か国」のひとつであり、スポーツ、パラスポーツの分野においても世界のトップレベルを維持しているが、パラ柔道に関しては、一般的な柔道ほどの活躍を見せることはできていない。しかし、同選手はフランス代表の維持を見せ、自身4度目のパラリンピックで初の金メダルを獲得、一躍脚光を浴びることになった。
サンドりーヌ・マルティネは、理学療法士として働きながら二人の子供を育てている。柔道界およびパラ柔道界ではベテランに分類されるものの、年を取るごとに成績は向上しており、2018年の柔道ワールドカップ(女子48kg級)では金メダル、2019年の世界選手権と欧州選手権も制し、東京大会の出場権はほぼ手中に収めた。
同選手は病の影響で視力が低く、視野も狭い。しかし、それを感じさせぬ動きで相手を圧倒し、安定した戦績を残してきた。厳しいトレーニングを行っていることは当然だが、現在主戦場としている女子48kgは2004年アテネ大会、2008年北京大会でメダルを獲得した階級であり、相性も非常に良いのだろう。
理学療法士、母親、そしてパラ柔道家という「三足の草鞋(わらじ)を履く」ママさんアスリートは、柔道発祥の地「日本(東京)」での金メダル獲得を明言、柔道大国フランスの意地とプライドをかけて戦う。
<まとめ>
◎2016年リオ大会、フランス代表がパラ柔道で獲得したメダルは同選手の金メダルのみ。
◎37歳のベテランママさんアスリートは、年を取るごとに成長、東京大会で2個目の金メダルを狙う。
選手名 | サンドリーヌ・マルティネ (Sandrine Martinet) |
出場競技/種目 | 女子52kg級 |
パラリンピック出場実績 | 2004年アテネ/銀メダル 2008年北京/銀メダル 2012年ロンドン/5位 2016年リオ/金メダル |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/13個 銀メダル/4個 銅メダル/3個 |
外部サイトへのリンク
<フランスパラリンピック委員会 公式ホームページ>
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2016年リオパラリンピック『パワーリフティング』のメダリスト(抜粋)は以下の通りである。
種目 | 金 | 銀 | 銅 |
男子49kg級 | レ・ヴァン・コン (ベトナム) | オマル・カラダ (ヨルダン) | ナーンドル・トゥンケル (ハンガリー) |
男子107kg超級 | シアマンド・ラフマン (イラン) | アムル・ムスアド (エジプト) | ジャミール・アッシブリ (ヨルダン) |
女子41kg級 | ナズミイェ・ムラトル (トルコ) | 崔哲 (中国) | ニ・ネンガー・ウィディアシ (インドネシア) |
女子86kg超級 | ジョセフィーヌ・オルジ (ナイジェリア) | マジェナ・ジェンバ (ポーランド) | メライカ・タウンフォルト (オランダ) |
パワーリフティング(ベンチプレス)は、ボディメイクを行う人たちにとって欠かせないトレーニングのひとつ。パラリンピックでは、下肢に障がいを持つ選手のみ出場できる。ただし、下肢を床/地面につけることはできず、ベンチ台の上に固定しなければならない。
同競技に欠かせないもの、それは「上半身の力(パワー)」と「集中力」である。前者については説明する必要もないだろう。重いバーベルをを持ち上げるためには、パワーが必要不可欠である。しかし、いくら他者よりパワーがあっても、力を一瞬で爆発させる集中力がなければ、パラリンピックでメダルを獲得することはできない。
上半身を極限まで鍛え上げたパラアスリートたちは、常人の想像を超える重量を持ち上げる。現在の世界記録は男子107kg超級で達成された「310kg」、筋骨隆々の男女が繰り広げる熱い戦いに注目したい。
【種目】
男子
・49kg級
・54kg級
・59kg級
・65kg級
・72kg級
・80kg級
・88kg級
・97kg級
・107kg級
・107kg超級
女子
・41kg級
・45kg級
・50kg級
・55kg級
・61kg級
・67kg級
・73kg級
・79kg級
・86kg級
・86kg超級
シアマンド・ラーマン(イラン)
パラリンピックにおけるパワーリフティングでは、パラ競技界No1の力持ちが決まると言っても過言ではない。なお、一般的なパワーリフティング(ベンチプレス)では、両足を地面につけ踏ん張ることができる。しかし、先に述べた通り、パラリンピックのパワーリフティングでは足をベンチ台に固定しなければならない。すなわち、上半身の力だけで重たいバーベルを持ち上げることになるのだ。
『シアマンド・ラーマン(Siamand Rahman)』は、最強の男たちが集まる107kg超級の絶対王者であり、同階級の世界記録を保持している。同選手は先天性の病により下肢が麻痺した状態で生まれた。しかし、両親から受け継いだDNA、そして厳しいトレーニングを継続したことで、同選手の身体はたくましく成長、障がい者とは思えぬほどの筋肉を有している。
シアマンド・ラーマンがパワーリフティングを始めたのは19歳の頃、いきなり100kg超のバーベルを持ち上げたという。本格的にトレーニングを開始すると、記録はグングン伸び、2010年の世界選手権では初出場ながら銀メダルを獲得、さらに同年、国際大会で290kgを持ち上げ金メダルを獲得、シニアの世界記録を更新するという快挙を達成した。
2012年ロンドン大会、同選手はパラリンピック初出場を果たし、見事金メダルを獲得。2016年リオ大会では自己記録を更新する310kgを持ち上げ、2位以下に大差をつけて同階級連覇を達成、異次元の強さを見せつけた。
装備品無しでバーベルを持ち上げるパワーリフティング(ベンチプレス)の世界記録(健常者含む)は335kg。シアマンド・ラーマンは350kgを持ち上げたいと明言しており、健常者の世界記録を超える勢いでトレーニングを続けている。なお、同選手は男子107kg超級の世界ランキング1位を独走中、2位の選手が2020年に記録したバーベル重量は200kgであり、その差はあまりに大きい。東京大会では世界記録の更新にのみ期待が集まっている。
<まとめ>
◎同選手は男子107kg超級の大本命、東京大会の目標は金メダルではなく世界記録の更新。
◎健常者のベンチプレス世界記録(装備品なし)は335kg。同選手はこの記録を超えるべくトレーニングを続けている。
選手名 | シアマンド・ラーマン (Siamand Rahman) |
出場競技/種目 | 男子107kg超級 |
パラリンピック出場実績 | 2012年ロンドン/金メダル 2016年リオ/金メダル |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/6個 銀メダル/1個 |
外部サイトへのリンク
<国際パラリンピック委員会 公式ホームページ>
ジョセフィーヌ・オルジ(ナイジェリア)
最後にパワーリフティングの強豪国ナイジェリアを代表する怪力女子『ジョセフィーヌ・オルジ(Josephine Orji)』を紹介しよう。ナイジェリアは2016年リオ大会パワーリフティング競技において、男子が計3個(うち金2個)、女子は6個(うち金4個)のメダルを獲得、ライバル中国やエジプトの選手たちと死闘を繰り広げた。
ジョセフィーヌ・オルジは「女子86kg超級」の選手、女子アスリートおよびパラアスリートの中で最も重いバーベル(ベンチプレス)を持ち上げたことで知られる。同選手が保持する世界記録は何と160kg、一般男性では手も足も出ない重量だろう。
健常者(女性)のベンチプレス世界記録は151kg、当然地面に足をつけ安定した体勢で持ち上げている。しかし、それでもジョセフィーヌ・オルジが持つ記録には届いていないのだ。同選手の常人離れしたパワーは、日々のトレーニングで培われてきた。
同選手は生まれた時から下肢が動かなかった。なお、学生時代にスポーツ等は行っていなかったという。ジョセフィーヌ・オルジがパワーリフティングを始めたのは2001年から。トレーニングを積むごとに記録を伸ばしたものの、仕事とプライベートを優先させていたため国際大会に出ることはなかった。しかし、健康維持のためにパワーリフティングは10年以上継続、世界最強の怪力女子は人知れず努力を積み重ねていた。
2011年、同選手は初めて国際大会に出場し好成績を残す。さらに、2014年の世界選手権(女子86kg超級)を制し世界記録を大きく更新。2016年リオ大会でも金メダルを獲得、女子選手として初めて160kgのバーベルを持ち上げた。
ジョセフィーヌ・オルジは現在40歳、2017年に家庭と競技を両立させるべく国際大会から離れることを明言、現在に至る。しかし、東京パラリンピックへの出場と連覇、世界記録の更新は視野に入れ活動しており、ナイジェリアの代表選考をかけた大会に出場することが既に決まっている。世界最強の怪力女子は、再び世界の頂点に立つべく動き出した。
<まとめ>
◎同選手の持つ自己記録160kgは、健常者の世界記録151kgを上回る。まさに世界最強の怪力女子だ。
◎36歳でパラリンピック初出場を果たし、見事金メダルを獲得。東京大会では連覇を狙う。
選手名 | ジョセフィーヌ・オルジ (Josephine Orji) |
出場競技/種目 | 女子86kg超級 |
パラリンピック出場実績 | 2016年リオ/金メダル |
主な戦績 | 国際大会通算戦績 金メダル/2個 |
外部サイトへのリンク
<国際パラリンピック委員会 公式ホームページ>
まとめ
今回は東京パラリンピックに出場する、もしくは出場するであろう超一流アスリートを紹介した。なお、個人的な主観で選んでいることをご理解いただきたい。
身体に障がいを持つ選手たちは、常人をはるかに超える驚異的なパワーで世界の頂点を目指し、厳しいトレーニングに明け暮れている。東京大会でも数えきれないほどの熱いドラマ、戦いが展開されるだろう。最後までお読みいただきありがとうございました。